一途な溺愛が止まりません?!〜従兄弟のお兄様に骨の髄までどろどろに愛されてます〜
Nya~
1、愛しい小さなプリンセスに求婚を
「ヴァールお兄様!」
王城の剣の稽古場に可愛らしい声が響く。ヴァールと呼ばれた、サラサラの癖ひとつない金の髪を肩まで伸ばしてハーフアップのお団子にし、かけている眼鏡からリーフグリーンの瞳を覗かせる少年が顔を上げた。そしてどこからか現れた薄い蜂蜜色の毛先だけがウェーブしてる髪を三つ編みハーフアップにし、燃えるようなスカーレットの瞳を持つこの国のたった一人の王女であるプリンツェッスィンがヴァールに抱きつく。
「ツェスィー、今僕は汗をかいているからくっついてはダメだよ。君が汗まみれになってしまうよ」
「ヴァールお兄様の汗は臭くありませんので問題ありません!」
「そういうことじゃないんだけど……」
プリンツェッスィンの愛称であるツェスィーと呼ばれた少女にそう言われ、ヴァールはどこから突っ込めばいいかわからず困惑した顔をした。
「それに、一緒にお風呂へ入ればいいだけです!」
「ツェスィー……。君はもう五歳になったでしょ? 僕も十一歳だしもう一緒に入るのはちょっと……」
正直プリンツェッスィンとのお風呂を嬉しくは思っているヴァールだが、精通して体は段々と大人へと変化し、プリンツェッスィンをやましい目で見てしまい、もう一緒に入る資格はないと目の前の可愛いお姫様の誘いを断る。
「五歳は立派な子供です! 何も問題はありません!」
ずいっとプリンツェッスィンは体を乗り出して主張した。
「も、ん、だ、い、あ、り、ま、せ、ん!!」
既にプリンツェッスィンに対して従姉妹の妹という感情以上の想いを持っていることを自覚してるヴァールは、目の前の愛しい小さなレディーの我儘を許してしまう。根本的にヴァールはプリンツェッスィンに甘く、彼女の言うことは何でも聞いてしまうし、自分に出来ることは何でも叶えてしまうのだ。目に入れても痛くない、プリンツェッスィンに激甘なのである。
「お父様たちには内緒だからね……」
「分かってます!」
ここでヴァールが言うお父様とはこの国、中立国家フリーデン王国の王であるゲニー・フリーデンのことで、ヴァールの実の父はゲニーの兄であるヴァイスハイト・アルメヒティヒであり、実の父のヴァイスハイトのことは父上と呼んでいた。
なぜ叔父であるゲニーのことをお父様と呼んでいるのかとは、父と叔父は双子の兄弟であり、しかもなかなか子宝に恵まれなかった叔父が我が子のようにヴァールを可愛がったので、物心ついた時から叔父であるがお父様と呼ぶようになったのだ。
ちなみにヴァールの母であるデーア・アルメヒティヒはプリンツェッスィンの母、つまり叔母であるアンジュ・フリーデンの姉でこの姉妹も双子である。
もちろん叔母のアンジュもヴァールに対し我が子のように接していたので叔母のアンジュのことはお母様、母のデーアのことは母上と呼ぶようになった。
誰にも見られないよう、人気がないところまでプリンツェッスィンを連れていき、王宮内では緊急時以外御法度とされる転移魔法を使いヴァールの部屋に転移する。
元々自分のことは基本自分でやりなさいと教育され育ったヴァールの部屋には使用人は居なく、白を基調とした家具が並ぶ部屋は一人部屋にしては
部屋の入口の扉から入るとすぐ書斎兼リビングがあり、壁は一面本棚になっており古今東西様々な文献が揃っている。右奥は寝室で、左奥はバスルームとトイレ、洗面所になっていた。ヴァールはプリンツェッスィンを連れて転移すると、誰もいない部屋をキョロキョロと伺う。本当に誰もいないことを確認するとバスルームに行き、また確認し、プリンツェッスィンをそこに呼んだ。
「ツェスィー、あっち向いてるから脱いで。それでちゃんとバスタオルを体に巻いてね」
「ん!」
ヴァールはプリンツェッスィンに指示をだすが、プリンツェッスィンは一向に脱ごうとせず、バンザイをした格好をしてヴァールをただ見つめる。
「自分で脱げるよね?」
「脱げません!」
ヴァールははぁ〜とため息を漏らす。そしてプリンツェッスィンが生まれてから五歳の誕生日まで食事の世話から風呂や着替えやヘアセット、オムツをしてる時なんか替えるのだって何から何まで親のように、いや親以上に世話をし、彼女を生活力皆無の女の子にしてしまった事を悔いた。
「今どうやって着替えてるの……」
「お母様と母上に頼んでます!」
五歳ならギリギリセーフだろうかとヴァールは考えたが、母と叔母の手を煩わしてるのは事実で少し申し訳なくなる。
お風呂に入るためにはプリンツェッスィンを脱がせばいいのだが、些か問題なのは自分がそのプリンツェッスィンに欲情してしまうからだ。下半身が元気にならないよう、局部に感覚を鈍らせる魔法を施し、プリンツェッスィンを脱がしていく。プリンツェッスィンのシミ一つない白い肌が顕になり、体に魔法を施していても心はムラムラした。
「兄様も脱いでください!」
ヴァールは愛する小さなレディーに急かされ服を脱ぎ、腰にタオルを巻く。
そして二人は浴室に入り、まず体を洗った。もちろんプリンツェッスィンが一人で洗えるはずはなく、ヴァールに洗ってもらう。ヴァールは何かを試されてるのかなと悟りの境地を開きそうになりながら、甲斐甲斐しくプリンツェッスィンの体を洗った。
「ふ〜! 気持ちいい!」
「ちゃんと肩まで浸かるんだよ。風邪ひいたら大変だからね」
「はぁい!」
体を洗い終わり、ヴァールとプリンツェッスィンは風呂釜に浸かる。
「ツェスィー……まだ君は小さいから分からないと思うけど、普通男女でお風呂は入らないんだよ。今回は入ったけど、もう今後は入らないからね?」
「何でですか?! お母様とお父様は一緒に入ってますし、母上と父上も一緒に入ってます!」
「あれは……夫婦だからだよ」
「ふうふ?」
プリンツェッスィンは首を傾げた。
「ん〜。男女が婚姻……これは分からないか。好き合った男の人と女の人が結婚して一生一緒にいることだよ」
「ヴァールお兄様はツェスィーのこと好きですか?」
ヴァールはプリンツェッスィンの突然の質問に少し驚く。
「好きだよ。世界で一番好き」
ヴァールはつい本音がポロッと出てしまった。
「ツェスィーもヴァールお兄様が世界で一番好きです」
プリンツェッスィンが真剣な目でヴァールを見つめる。
「ツェスィーのお友達が従兄妹なら結婚できると教えてくれました。兄様はツェスィーと結婚したいですか?」
肌は濡れ頬を紅くし、プリンツェッスィンは上目遣いでヴァールを見た。
「結婚……したい。ツェスィー、僕と結婚して? 絶対幸せにするから」
「ヴァール兄様、もちろんです。ヴァール兄様以外となんて結婚したくないです。ツェスィーのこと幸せにしてくださいね」
ヴァールはプリンツェッスィンの手を握り、プロポーズをする。プリンツェッスィンは花のような笑顔を向け、ヴァールの求婚を受けた。二人は温かいお風呂の湯の中で、初めて唇を合わせる。唇を閉じたまま、相手のそれを確かめるようにキスをした。体と同じく火照るまだ幼い二人の柔らかい
◇
次の日剣術の授業が終わり、ヴァールは自室のお風呂で汗を流そうと城内の廊下を歩いていると、後ろからタタタタッと廊下を走る音が聞こえてきた。音につられて振り向くと薄い蜂蜜色の髪の毛先だけがウェーブしてる可愛らしい少女が視界いっぱいに入る。ヴァールに抱きつき破顔するのは、昨日彼が求婚したプリンツェッスィンだった。
「ツェスィー! だから汗がついちゃうから抱きついちゃダメだって」
「こうしたらヴァール兄様とお風呂入れますよね?」
別に意図して色仕掛けをしてる訳がなく、ただ単に大好きな従兄とお風呂に入りたいプリンツェッスィンであるのは分かっているもの、ヴァールは目の前の愛らしい無垢な少女がこのまま大人になったらどんな淫猥な女性へなってしまうのかと心配で頭痛がしてくる。そして自分以外の男と昨日自分としたようなことやそれ以上のことをしたらと思いを巡らしたとき、今まで感じたことの無い怒りが込み上げて、汚い感情を微かに感じ取った。だがその感情を完全に理解する前にプリンツェッスィンから風呂場へ早く行こうと急かされ、それも紛れてしまう。
結局プリンツェッスィンの願い通り、一緒にお風呂に入った。浴槽に浮かべたタオルに空気を入れ膨らませて遊んでいるプリンツェッスィンを見て、純粋に可愛いと思うヴァールだが、やはり十一歳でも男は男である。好きな女性が体にタオルを巻いていようとその下は裸であり、そのたった一枚の隔たりを取れば陶器のように白い張りのある肌が顕になるのだ。じっと愛する女性を無自覚のまま見つめていたヴァールにプリンツェッスィンは話しかける。
「今日はキス、してくださらないのですか?」
少し頬が赤いのは湯に入ってるせいか、はたまた照れてるせいか分からないが、ほのかに色付く頬をし、スカーレットの瞳をうるうるとさせる愛らしい少女に見つめられ、ヴァールのまだ少年である男の主張が張り詰める感覚がした。局部に感覚を鈍らせる魔法を施していても、鈍らせるだけで完全ではない。
「してもいい?」
「ヴァール兄様からのキスはいつでもして欲しいです」
プリンツェッスィンから許可を得て、ヴァールはそっと触れるようなキスを落とした。
そしてチュッチュッという、鳥のように互いの唇を軽く重ね合わせ、それを何度も繰り返す。唇の感触を楽しむ触れ合いをし、お互いの存在を確かめ満足した二人はお風呂から出たのだった。
◇
その日から一週間が経ち、プリンツェッスィンはヴァールに呼ばれ、従兄の部屋に行く。
ヴァールにプリンツェッスィンの両手のひらのサイズの箱を渡された。
「開けてみて?」
大好きな従兄に箱を開けてと言われ、プリンツェッスィンはそっとその箱を開ける。そこには若葉のような淡い緑色をしたペリドットの石がはめられているバレッタが入っていた。
「わぁ! まるでヴァール兄様の瞳のような色をしてます!」
「ちょっと独占欲見え見えだけど……受け取ってくれるかな?」
「はい! 兄様から初めてのプレゼント……とっても嬉しい……。大切にしますね! 朝も、昼も、寝る時も付けます!」
「寝る時は外していいよ、頭痛くなっちゃうでしょ?」
予想以上に喜んでくれたプリンツェッスィンを見て、ヴァールも嬉しくなる。
「バレッタだけど、婚約指輪の代わりだから。僕と結婚する約束の証、かな? 指輪はツェスィーがしてるとお父様たちにバレそうだし……バレッタなら君が毎日しててもおかしくないでしょ?」
プリンツェッスィンはいつも三つ編みハーフアップにしていたが、特に髪飾りは付けていなかった。
ヴァールはパチンと従妹の髪の結び目にバレッタを付けてあげ、プリンツェッスィンは鏡の前に行きキラキラと光るそれを付けた自分自身を眺める。
「とても似合ってるよ。世界一可愛い」
大好きな従兄に手放しで褒められ、プリンツェッスィンは頬を染めた。
しかし、その日のうちに両親たちからバレッタを誰に貰ったかバレてしまう。
「成程。欲のないのが取り柄のお前が、お金がいるから何かお金が貰える仕事はないかと僕に縋りついてきたと思ったらこういう事だったのか」
「ヴァールは何で稼いたの?」
甥に縋りつかれアルバイト先を教えた、絹糸のような真っ直ぐな金色の長い髪を後ろで一つに結び、燃えるようなスカーレットの瞳を持つ美丈夫であるこの国の王ゲニーは成程と納得した。そして薄い蜂蜜色のウェーブした腰までの髪にスカイブルーの瞳を持つゲニーのたった一人の妻である正妃アンジュは、甥であるが我が子のように育てた子に怪しい仕事を紹介してないか心配し、夫に仕事内容を問いただす。
「魔法を研究する研究所が魔法団にあることは知ってるよね? あそこは基本給に別途手当が出るんだ。別途手当は色々あるんだけど、その一つに魔法制作手当がある。つまり、新しい役立つ魔法を生み出した功績に対して支払われる手当だよ。僕もたんまり稼がしてもらってるけど」
ニヤリと笑う夫を一瞥したアンジュは、王が別途手当を貰うのは如何なものかと一瞬思うが、王の公務だけではなく、国民のために寝る間も惜しんで魔法を作り出してるのである。少しは手当を貰ってもバチは当たらないだろうと思い直した。実際ゲニーが貰ってる手当は普通の魔法団職員が貰う手当の半分の額である。しかしながらゲニーの能力は高く、色んな魔法をポンポンと生み出すので半額でも十分財を得てるのだ。
「お父様、その節はありがとうございます。お陰でツェスィーにプレゼントを送れました」
「いや、お前の頑張りがあってこそだよ。大きくなったら魔法団に入って研究員にならないか? お前ならたんまり稼げると思うぜ?」
「考えときますね」
お世辞は言わないゲニーから研究員にならないかとまで言われ、ヴァールは純粋に喜ぶ。
「お父様! 兄様は王様になるんです! なので研究員にはなりません!」
二人のことは両親にまだ内緒なのに、プリンツェッスィンに暴露されそうになり、ヴァールは慌ててフォローを入れた。
「あはは。ツェスィー、この国は女王でもいい国だから、君が君主になってもいいんだよ?」
「そうだ。別に男であるヴァールだけが王位継承権がある訳じゃない。こいつには宰相にでもなってもらえばいい。将来ツェスィーとその夫を支えるのがいいと思うぞ」
出来の良い我が子を自分のような宰相に育て上げたいヴァイスハイトの加勢は、ヴァールを失意の底に沈ませた。自分はプリンツェッスィンの結婚相手には考えられてない事実を突きつけられ、自分を不甲斐なく思うようになる。魔法を作るのができるほど魔法が得意でも、剣術や体術が得意でも、世界中の言語をマスターしていても、可愛い従妹の夫には考えても貰えない。どうすれば考えてもらえるのかその日からヴァールは悩むようになった。
◇
一旦悩むと引きずってしまう性格のヴァールは悶々とする日々を過ごす。表面上は何もないかのように取り繕うことは出来たが、心の底では何故プリンツェッスィンと結婚できないのかぐるぐると考えてしまうのだ。
例の失意の底に沈められた日から二週間が経つ頃、プリンツェッスィンに部屋へ来て欲しいと言われ行くと、可愛い従妹が小さな包みをヴァールに渡す。
「開けてみて下さい」
「え?」
ヴァールがドキドキしながら包みを開けると透明な袋の中に、両先端に深い赤い色をした小さなガーネットの付いた赤い紐が現れた。
「これって……」
「はい。ツェスィーからヴァール兄様に婚約指輪です! お母様と母上の肩を叩いてお金を稼ぎました!」
五歳のプリンツェッスィンがお金を稼ぐ方法は親からのお駄賃しかない。子供たちが立派な子になるよう可愛がりはするが変に甘やかしはしないあの母親たちのことである。きっとちゃんと労働にあったお金しか渡さなかったであろうと想像できた。小さな体で大人をマッサージするのは大変である。にも関わらず、自分のために頑張ってくれた目の前の小さなお姫様を見て心が切なくなるほど愛おしく感じた。
「ツェスィー……。婚約指輪は、男性が女性に送るもので、女性は男性には送らないんだよ」
「そうなのですか?!」
従兄弟の兄としてプリンツェッスィンに間違ったことを教えないよう、婚約指輪について説明する。
「でも……。嬉しい。ツェスィーが僕と結婚したいって形に表してくれて。ありがとう。大切にするね。肌身離さず付けるから」
目の前で間違って女性なのに男性に婚約指輪を送ってしまったと顔を赤くする可愛い女の子を見て、ヴァールは何を馬鹿なことで悩んでいたのか思う。この愛しい
ヴァールは自分の髪をハーフアップのお団子にしてる結び目にそれを付ける。そして愛しい可愛い少女の脇の下に両手を入れ抱っこした。
「ツェスィー、ありがとう。君は僕の光だ。ちっぽけな僕を包んでくれるあたたかい光だよ。愛してる。僕と結婚してください」
プリンツェッスィンはヴァールの二回目のプロポーズを聞き、愛する従兄の方に両手を伸ばす。そしてヴァールの首に手を回し抱きついた。数秒抱きしめたプリンツェッスィンは顔を上げ、そのスカーレットの瞳は、ライトグリーンの瞳を見つめる。
「ツェスィーはヴァールお兄様以外のお嫁さんにはなりません。ずっと一緒にいてくださいね。ずーっとですよ?」
「うん。ずっと一緒にいる。死んだとしても、君の隣に、側にいると誓うよ」
ヴァールはプリンツェッスィンに気付かれないように目に涙を溜めたのだった。そして二人は誓いの口付けを交わす。いつもより少しだけ深いそれは、日に日に身も心も成長してる二人の男女としての発育の証であった。
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