第38話 ロードバルトの依頼
「どうした? 今日来ることになっていたか?」
突然約束もなしにロードバルトが訪ねてきたので、ギルド長のボウは驚いていた。
少しでも早くユージーンを迎えに行きたい。しかし、焦る気持ちを押さえ、リリーシュはロードバルトと共に「ギルドふくろう」に立ち寄った。
「頼んでいた依頼はどうなっている?」
挨拶もそこそこに、ロードバルトが用件を告げた。隣でリリーシュは、彼の依頼とは何だろうと思いながら、頭の中はユージーンのことでいっぱいだった。
「ああ、あれか……大方は君の予想どおりだが、今はその裏付け、証拠を探しているところだ。でも、約束の期日はまだ先だろう?」
「状況が変わったんです。申し訳ないが、今わかっていることを教えてください。それから、すぐに追加で確認してほしいことがあります」
「おいおい、俺も暇じゃない。いくら甥だからって、そうそうお前の依頼ばかりに構っていられないし、それなりに時間が必要だ」
藪から棒な話に、ボウも困惑している。
「それに、その件は彼女に知られても大丈夫なのか?」
ボウはリリーシュの存在を気にしている。ロードバルトが何をギルドに依頼したにせよ、リリーシュもこのまま聞いていてもいいのかわからない。
「あの、ロイ、私、先に一人でおばさんの所へ行っても」
「だめだ。君一人で彼らの元には行かせられない。もう少し待っていて」
ロードバルトの強い口調に、リリーシュは何も言えなくなる。
「彼女も当事者です。知る権利はあります」
「……わかった。でも先に追加の用件を聞いても? 内容によっては、少しでも早く動く必要が出てくる」
「助かります」
「まずは二人とも座って」
気持ちが急き過ぎて、立ったままなのにも気づかなかった。
二人はボウに促され、応接椅子に腰を下ろした。
「それで追加の用件というのは?」
時間がないことをボウも悟ってか、すぐに用件について尋ねる。
「実は……」
ロードバルトはリリーシュと一度顔を見合わせてから、グラシアたちがやってきてユージーンを連れ去ったことを話した。
「その……あなたのおばさんは、凄いな……その根性をもっと生産性のあることに向ければ、それなりに成功したのでは?」
話を聞いたボウは、どう言っていいかわからなかったのか、そんな感想を呟いた。
「感心している場合じゃない」
「ま、それもそうだな。それで俺は何をしたらいい?」
「目的はマキャベリ家の財産で、ユージーンの後見人になって、自分たちの好きにしようとしているのはわかっている。だが成人前でもユージーンはもう十五歳だ。立派に自分の意思を持っている。それに、リリーシュはちゃんと後見人として許可ももらっている。なのに彼を連れ去った。身内だとしても、犯罪行為と取られる可能性は高い。そんなことを考慮せず動いたとは思えない」
「どんな方法を使ったのかわからないが、自分たちを正当化できる何か免罪符のような物を手に入れた。と見るべきだろうな」
ロードバルトの意図を察し、ボウが答えた。
「そうなると、考えられるのは役所か……全員とは言わないが、役人には賄賂を払えば便宜をはかってくれる者が結構いるからな」
「私もそう思う」
「しかも、権限を持っている者ほど、金に目がなく強欲だ。ま、そのお陰で
そこは持ちつ持たれつと言ったところか。しかし、今回はそんな役所の体質が恨めしいとリリーシュは思った。
「彼らが何を手にしたのか調べてほしい。恐らく……いや、十中八九、それは違法な手段で手にしたものだろう」
「……まあ、そういう話なら、伝手がないわけじゃない。蛇の道は蛇。こっちも便宜を図ってくれる人間には心当たりがある」
ニヤリと笑うボウの顔を見て、リリーシュは不安になって口を挟んだ。
「あの、おばさんが違法なことをしたからって、こちらもそんなことをしたら、またそれを口実に足元を掬われるなんてことは……」
「安心してください。この件に関して言えば、マキャベリ家に関することで、こちらは誰がいつ何をどうしたのか、それがどんな手段で行われたのか調べるだけです。向こうが違法なことをしたのを追求すればいいだけですから」
笑顔で話すボウを見て、リリーシュはほっと胸を撫で下ろす。
「では引き受けてくれるのですね」
ロードバルトが確認する。
「こっちが『断る』とは、思っていないんだろう?」
「それは……まあ、引き受けてくれるとは、思っていたけど……」
「ああ、叔父さんは甥の頼みは基本断れないからな……まったく確信犯だな」
ボウは肩をすくめてやれやれとため息を吐いた。
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