第26話 新商品

「リリーシュに対する侮辱は、婚約者の私に対する侮辱と同じと理解していいか」


 ロードバルトは、その怒りを隠そうもしない。


「そ、そんな私は」

「爵位がどれほど高くても、それがそのままその者の品格に比例するとは限らない。そなたらがいい例だな」

「な!!」


 面と向かっての侮辱に、ヴェロニカが目を剥く。


「で、殿下、さすがにそれは……私は殿下のためを思って……」

「私のため?」


 ロードバルトの目が細められる。


「そうですわ。身分が違い過ぎれば、当然価値観も異なります。第一、彼女に王族の一員としてやっていく能力があるとは思えませんもの。外交で失敗でもすれば、国の恥にもなりますわ」

「そなたが生まれながらに持っているものを否定するつもりは無い。それは私も同じだからな。だが私は、一国の王の息子に生まれたことを、当然だとは思っていない。そこに相応の責任があることを常から念頭に置いている」


 王族として、そこに胡座をかくわけではなく、立派に責任を果たそうとする彼の心構えに、リリーシュは尊敬の念を抱いた。


「わ、私は別に……ですが、そのむ……彼女の怪我については、私のせいではありませんわ。そうよね、ミーガン、アリス」


 ヴェロニカは二人の令嬢に同意を求める。


「わ、私……、そ、そうです。ヴェロニカ様は何も」

「そうです。彼女が勝手に転んで……」

「ほら、彼女たちもこのように申しておりますわ。殿下、ご婚約者の方こそ、 虚言癖でもあるのではありませんか?」

「私は嘘など言っていません」


 この段階でも、ヴェロニカは自分の非を認めようとしない。しかし、リリーシュも引き下がるつもりはない。


「まあ、厚かましい。殿下の婚約者だから何をしても許されるとでも思っていらっしゃるのではありませんか?」

「リリーシュはそのような人間ではない」

「ご婚約者を庇うお気持ちは立派ですが、あまり誇示されますと、殿下もお困りになられるのではありませんか?」


 ロードバルトがリリーシュの人柄を論じても、彼女たちには通用しない。

 彼もどちらが嘘を言っているのか、感覚ではわかっている。しかし、その場を直接見たわけでもなく、多数決では負けている。


「虚言癖があるのはどっちか、はっきりさせましょう」


 リリーシュは右手をすっと皆の目線の高さまで持ち上げた。その手には何かを握っている。


「リリーシュ、それは?」

「な、なんですの、それは」


 リリーシュ以外の四人が、彼女の手の中にあるものについて尋ねる。


「まだ世には出ていない、我がマキャベリ商会の最新作です」

「最新作?」

「はい」

 

 カチリと、リリーシュはその細長い物体の中心にある部分を押した。


『ちょっと、あなた、聞いていますの!?』


 廊下にヴェロニカの声が響いた。


「な、なんですの?」


 ヴェロニカは突然聞こえてきた自分の声に驚く。


『あ…すみません』

『ヴェロニカ様が話していらっしゃるのに、無視するなんて、有り得ませんわ。どこまで図太いのかしら』

『きっとロードバルト殿下にも、その図太さで押し切ったに決まっていますわ』


 リリーシュ、アリス、ミーガンの声が続く。


「わ、私たちの声……」


 ミーガンたちも動揺している。


『何とか言いなさいよ!』

『よろしいのですか? 先ほど許可なく話すなと仰られましたので』

『……そ、それは…』

『あなた、リリーシュ・マキャベリね』


 それは先程この場で言い交わした会話の内容だった。


『作用でございます』

『私が誰かご存じかしら?』

『ヴェロニカ・カサディーナ侯爵令嬢でいらっしゃいますよね』

『そう、私はカサディーナ侯爵の娘。父は今、法務大臣を勤めています』

『私の父は…』

『結構、たかが平民からの成り上がり商人男爵のことなど、興味はないわ。最近父親が亡くなったと聞きましたけど、世間では喪中にある期間に、何用でこちらにいらしたの?』

『それは侯爵令嬢には関係のないことですが、ご存知なのではないですか?』

『ま、この私に口ごたえするの!? 素直に聞かれたことに答えればいいのよ。生意気ね。立ち場を理解していないのでは?』

『きっとそうなのですわ。そうでなければ、たかが男爵風情が、王弟殿下とお近づきになれると本気で思うわけありませんもの』

『やはり王弟殿下のお相手となると、それなりに身分がなければ、釣り合いがとれませんわ』

『そういう点から見れば、身分も容姿もヴェロニカ様以外に適任はおりませんわ』

『あらそんなこと…フフフ。私もそう思うわ』

『高貴な血には高貴な血。下賤な血が混ざるなんて、有り得ませんわ。ロードバルト殿下はせっかくお父上が国王なのに、母親が平民だなんて本当にお気の毒だわ』


「や、やめて、な、なんなの、わ、私はそんなこと……」


 ヴェロニカは真っ青になり、声を震わせる。

 そこでリリーシュは、もう一度スイッチを押す。すると、声はそこで止まった。


「リリーシュ、それはなんだ? 君の父上の発明品か?」

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