第14話

「そうね、いつの日かは」


 でも、とお母様はつづける。


「子供を産んだ者だけが、贄になると決まっているの。だから、イーちゃんはまだ生け贄にはならない」


 だけどそれは時間の問題だわ、ともつづける。


 そこで一つ、気になったことがある。なぜ、女性だけが贄にされているのだろうか?


「男どもはいくつになっても子供を作れるから。どこへでも行ってしまうわ。こんなこと当たり前すぎて、考えたこともなかったけど」


 それなら、おれが生け贄になろう。一人の男が贄になれば、ほかの男たちも贄になってくれるかもしれない。


「だからぁ、それはダメなんだってばぁっ!!」


 涙目のイーちゃんが愛しくて、抱きしめたい衝動に駆られる。


 でもおれは既婚者だから、そんな不誠実なことはできない。


「でもね。だからこそ叶えて欲しい奇跡もあるの」

「お母様、もういいではありませんか。彼の記憶だけでも、早く消してください!!」


 はたから見たら、美少女がイルカとたわむれているようにしか見えない。


 だけどそういうイーちゃんも、本当は絶滅危惧種のパンダイルカだったのだ。


 なんとか彼女を守りたい。躊躇なんていらないだろ?


 教えてください、お母様。その奇跡の話を。


「覚悟はできている? たとえそれが失敗しても、二人の記憶はすべて消えてしまうのよ?」


 それでも。イーちゃんのことを守れるのであれば、なおさらだ。


「お母様、本気ですか? あのことを実践した仲間はまだ一頭もいないのですよ?」

「だぁ〜ってぇ〜。かわいい娘の片想いだもの。覚悟くらいしてるわ。あなたはどうなの?」


 イーちゃんは、おれの目を探るようにじっと見つめた。


 しばらく目をあわせたまま、イーちゃんは深く息を吐いた。


 つづく


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