第5話
「あ、わたくしはっ。きみのことが心配で、お家になんて帰れませんっ!!」
いつになくけわしい口調でイーちゃんが叫んだ。
それからあっと両手で自分の口をおさえて、ごめんね、とあやまってくれた。
いや、あやまるのはおれの方だろ?
「わたくしは、わたくしはただ、きみがお家に帰っても、わたくしのことや、この岩礁のこと、それに薬湯のことなどのことをナイショにしてくれたらいいのになって。そう思っていて。だから――」
泣かないでよ、イーちゃん。おれ、ここであったこと全部、忘れたことにするから。
でも時々はイーちゃんのことを思い出してもいいかい? おれだけの大切な記憶だから。
「それは、もちろんです。と、言うよりも。君、昔のことなんてとっくの昔に忘れているんですね。なんだか、さみしいな?」
さみしい?
ねぇあのさ。おれ昔、イーちゃんに会ったことがあるんじゃないかって思ってるんだけど。
間違えていないのならさ。
「んんんんん〜!?」
イーちゃんは不思議な異音を発して、おもむろにパーカーのフードを被った。
「パンダだよ?」
……うん。パンダの顔のフード、すごくよく似合ってる。可愛いけど、イーちゃんの方がフードのパンダよりずっとずっと可愛いよ。
「も、もおおおおぅ。どうしてきみは、そういう恥ずかしいことを平気で言えるかなぁ?」
言いながら、イーちゃんは、両手の甲で涙を拭った。
フードはまだ被ったままだ。
フード取って、可愛い顔を見せてよ?
「またそういうことを〜。わかりました。じゃあ、このフードはしばらく被ったままでいます」
うん? なぜかまたこじれた?
つづく
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