第333話 つなぐ -2-
昨夜の天狗山での出来事を話しながら食事を終えて、お茶を飲んでいると、
「そういえば、今日はどうするのだ?」
蒼月さんから今日の予定を聞かれて、大事なことを思い出した。
「あ、そうだ。
「それなら
なんという朗報だろう。
確かめるためにはやはり人間界に行かなくてはならないかもと思っていたところだったので、手間が省けた。
しかし、その
そう思って、念の為、今日の予定を
すると、伝書の返事はすぐに返ってきた。
『琴音さん!!本当に、本当になんとお礼を言えば良いのやら!!!もちろん今日も受付処は開けますので、いつでもきてください!直接お礼も伝えたいので!!』
思わずふっと笑みがこぼれた。
(
なんだかこんないいことばかりで良いのだろうかと不安になる。
(・・・・え?)
そんなことを考えた瞬間、心の奥にスッと冷たい影が差すような感覚がした。
(なんか・・・嫌な予感?なんで・・・?)
その正体のわからない不安な感情を振り払うように頭を数回ブルブルと振ると、
「どうした?」
私の様子がおかしいと思ったのか、蒼月さんが心配そうに私の顔を覗き込んだ。
「あ、いえ、気のせいかもしれないので。あ、そうそう。
正体がわからないので伝えることもできず、そう言った私に、
「また何かひとりで抱え込もうとしているのではなかろうな?」
眉をひそめて尋ねる蒼月さんに、
「いえ・・・なんというか、ちょっと不穏なものを感じただけで、正体がわからなくて・・・何かあったらすぐ相談しますので・・・」
今伝えられる精一杯の説明をする。なんでもない、と言うのは簡単だ。
だけど、私たちは夫婦になったのだ。気になることはすべて共有しておこう。
そう思った私がそのように伝えると、蒼月さんはふっと微笑んでうなずいた後で、
「わかった。それと・・・受付処に行くのであれば、番所に行くときに共に参ろう。」
と、静かに言った。
そんなこともあり、再び
「本当に!本当〜〜〜に!!もう、なんと感謝したらよいのか・・・」
と、着いた瞬間からぎゅっと握られた手をブンブンと上下に揺らされている。
(
そのあまりにも初対面の時とは違う陽気な姿に、最初はちょっと面食らったものの、よく考えてみたら、お互い話をする中で、気心が知れてきたということなのかも知れないと思ったら、少し嬉しかった。
「ねえ・・・いつまでも握っていたら、琴音さんの腕が痛くなっちゃうんじゃない?」
そう言って助け舟を出してくれたのは、
「でも、ほんと・・・琴音さんのおかげで、再び娘に会えて、かつ、ちゃんと仕事をしているところまで見れるんだから・・・本当にどれだけ感謝しても足りないくらいだわ・・・」
と、こちらもやはりさっきから何回目だろうという同じセリフを繰り返している。
(間違いなく親子だわ・・・)
蒼月さんは二度目のループに入る前に早々に番所に向かってしまったので、今ここにいるのは私たち三人だけだ。
(さて・・・どうやって本題に入ろうか・・・)
と、タイミングを測っていると、
「あ、そういえば、人間界の現在の暦を知りたいんでしたよね?」
急に我に返ったように手を止めた
「お待たせしました!」
と、
琥珀のようにほんのり金色を帯びたその板の内部では、まるで水面に浮かぶ波紋のように、柔らかな光が揺れている。
「これは
(時刻台?
聞き慣れない言葉が出てきたけれど、とりあえず今はその不思議な妖具に目が釘付けで、後で聞けばいいや、といったん流すことにした。
円の周囲には、光で描かれたカレンダーと時計が表示されている。
日付は「2024(令和6)年5月2日(木)」、時間は「午前九時十二分」と、まるで現代のスマートフォンのように明快だが、その表示はどこか和の風合いを帯びていて、奇妙に美しかった。
「おお・・・」
思わず声が漏れる。
「すごいでしょ?人間界との時の歪みが大きくなると、これも不安定になって文字が歪んだり、表示そのものが消えてしまったりするんですけど・・・今日は綺麗に出ています!」
嬉しそうに言う
(本当に・・・時の流れが戻ったんだ・・・)
その実感は、光る文字よりも、珠からふんわりと伝わってくるあたたかな波動のようなもので伝わってきた。
「本当に・・・時間の歪みが解消した、って思っていいんですかね?」
それでもまだ少し不安げに尋ねると、
「はい!季節は見事にずれたままですが、一日の長さと時刻はきっちり合ってますね。」
そう言って部屋の隅の時計を見上げる。
(よかった・・・ということは、まだ、会社に戻るまで3日の猶予がある・・・)
それだけでも私の気持ちはグッと軽くなり、
「ありがとうございます。今日はそれを確認したかっただけなので・・・」
用事は済んだし、母娘水入らずを邪魔したくもないので、そう言って立ち上がると、
「えっ、もう帰っちゃうんですか?」
「はい。私もそろそろ、これからのことを少しずつ考え始めないと。」
笑って答えると、
「繰り返しになりますが・・・本当に、ありがとうございました。」
その言葉に、私は少しだけ胸が熱くなって、静かに頭を下げた。
「こちらこそ。お二人の再会の瞬間に立ち会えたこと、私にとっても宝物です。」
そう言って玄関へと向かう。ふと振り返ると、母と娘が並んで私の背中を見送ってくれていて、それがあまりに穏やかで、胸の奥がじんとあたたかくなる。
(・・・時が戻るって、こういうことなんだな)
そうして、ゆっくりと扉を開け、朝の光が差し込む外へと一歩を踏み出すと、
(さあ、次は・・・)
心の中で小さく呟く。
今度は、私の時間を、私の意思で、進んでいく番だ。
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