第287話 人間界かあやかし界か -1-
本当に、蒼月さんの緩急の付け方には振り回されっぱなしだ。
熱くなった頬に手を当て、パタパタと仰ぎながら恨めしそうに蒼月さんを見上げると、
「大事なことだからな。きちんと話がしたい。」
そう言われて、確かにその通りだと思った。
私がどちらの世界に留まるかで、これからの私たちの関係も変わってしまうのかもしれない。
でも、それはこのケースに限ったことではない。人間界でも普通に遠距離恋愛、別居婚などはある。
本音としては、ずっと蒼月さんと一緒にいたい。
けれど、もし、万が一、蒼月さんとうまくいかなくなってお別れすることになった時、人間界に私の居場所はあるのだろうか・・・
今は、こちらの約一ヶ月が人間界の一日、みたいな時の流れになっているけれど、常にそうとは限らないということだから、逆もあり得るかもしれない。
そうなった時、もし人間界に帰っても、私の周りには知っている人は誰もおらず、なんなら私の存在証明すらない可能性があるのだ。
そう考えると、距離よりも時間の流れが障害といってもいいだろう。
「私は・・・」
蒼月さんは、話し出した私をじっと見つめたまま、耳を傾けてくれている。
「正直、今この瞬間のことだけを考えたら、ここにいたいです。」
だけど、時間の流れが違う以上、どちらかに身を
「せめてこちらとあちらの時間の流れが同じだったら、こんなに迷わなかったのに・・・」
ふぅと小さく息をついてつぶやいた私に、蒼月さんがおもむろに口を開いた。
「時間の流れか・・・それについては、対処のしようは、なきにしもあらずだがな。」
なきにしもあらず・・・つまり、あるかもしれないということだ。
「え!本当ですか?」
思わず食い気味にそう被せた私に、蒼月さんは説明を始めた。
なぜか今は人間界の方が時の流れが遅くなっているが、元々は時の流れは同じだった。
それが、大戦争が終結した以降、定期的に捻れるようになった。しかし、こちらの200年が人間界では1000年以上経っていることからもわかるとは思うが、基本的にはあやかし界の方が時の流れは遅いはず、だった。
もちろん、波があるので、今のように逆転していた時期もあると思う。
つまり、大戦争がきっかけで時空に歪みが生じたということであれば、その原因を探れば、もしかしたら元の同じ流れに戻せるかもしれないと考えていること。
そして、何よりも、こちらの世界から出掛けた者が人間界から戻ってくる際は、出発した以降の希望の日に戻ることができる、ということ。
そこまで聞いて、思わず声が出た。
「え!」
今の最後の説明は、こちらの世界から旅立てば、戻ってくる時は日付指定で戻って来れる、という風に聞こえたからだ。
改めて蒼月さんに確認をすると、
「ああ、そう言ったつもりだ。」
と、なんてことない感じでうなずく。そして、さらには、
「ちなみに、指定した過去に行く方法は一つしかなく、それは人間界とあやかし界を横断して行うことはできない。」
と言った。
なんだか頭が混乱してきた。
人間界ではタイムリープやタイムマシンはフィクションの世界の話だと思っていたから、そもそも深く考えたことなんてなかったし、まさか自分が体験するなんて考えたことすらない。
「ちょっと今の情報を整理させてください。」
そう言って、頭の中で情報を整理していく。
一つ目の方法は、大戦争をきっかけに時空が歪んだ原因を突き止めて、それを解消することで時空の歪みを正す方法。
これは、原因を突き止めること自体が難しそうなのはさておき、原因がわかったところでそれが解消するという保証もないので、賭けとしては危険すぎる。
二つ目の方法は、こちらの世界を旅立つ時に、帰ってくる日を決めて旅立つという方法。
これは、一見簡単そうに見えるけれど、あくまでも生活の基盤がこちらにある時にしかメリットがない。要するに、旅行などで単発で人間界に行く分には向こうの時の流れは関係ないので有効だ。
だけど、私のように向こうにも生活がある場合、いつどの時点に飛ばされるかわからない状態ではリスクしかない。
「う〜ん・・・」
そこまで考えて、ある一つの可能性が思い浮かんだ。
「あの・・・これって、反対の場合はどうなるんですかね?」
その言葉に、蒼月さんはなんのことだ?と訝しげな顔をする。
「たとえば、人間界からあやかし界にくる時は、同じように日付を指定して戻ってきたりすることは、できないんですか?」
だって、時空の歪みの影響は、人間界側にもあるはず。
人間界からあやかし界を訪れた人が戻ってきたら、10年経ってました、とか・・・なしでしょ?
特に「陰陽院」だっけ?管理している機関があるのであれば、それくらいはできそうな気がしなくもないのだけれど・・・
でも、流石に無理か・・・人間界側はあくまで「人間」が管理してるんだもんね。そんな特別な能力なんて、なくて当たり前か・・・
そんなことを考えていたら、蒼月さんはすぐさま否定するわけでもなく、
「確かにそうだな。明日、
と、言った。
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