第274話 見慣れた神社 -1-
私がなかなか泣き止まないのを見て、
「あやかし界の有事を救った一人とは思えん泣きっぷりだのう、
少しからかうようなこの言葉も、私が泣き止むタイミングを作ってくれたのだということはわかっている。
「ふふ・・・」
そうして、ようやく涙も止まり、はぁ・・・と深く息を
「ずっと張り詰めていた緊張が解けて、安心したの!」
それでも、少し文句を言おうと、ゆっくりと顔を上げると、
それだけで、蒼月さんの深いグレーの瞳に釘付けになる。
妖力の暴走で蒼月さんが倒れてから、いろいろなことがあった。
時間にするとほんの数時間くらいの出来事なのに、盛りだくさんすぎて思考が追いつかない。
私はふぅと大きく深呼吸をする。
そして・・・
「お待たせしました!みんなのところに、帰りましょう!」
そう言って、蒼月さんを見上げる。
蒼月さんは、そんな私を見て少し驚いたような、それでいてほっとしたような顔をした後、自惚れかもしれないけれど、ちょっと嬉しそうに目を細めた。
そうして蒼月さん、
段々と遠ざかっていく地面と引き換えに再び広がる灯りの海を眺めながら、ようやく自分の中で「終わった」という気持ちが湧いてきた。
「時に、
すると、
「このまま真っ直ぐ東に向かってください。今もなお雪を被った大きな山を超えてさらに東へ。」
しかし、1つだけどうしても閉じることができなかった場所があった、と。だから、そこに向かおう、と。
そして、全部閉じていた場合、異界の門と繋ぐためには数日を要したから、結果的にはよかった、と言っていた。
それから彼女は
背中に取り残された私と蒼月さんは、道案内は彼女に任せることにして、しばしの間、二人で眼下に広がる幻想的な夜景を楽しむことにした。
蒼月さんが隣にいることが嬉しくて、自然と笑みがこぼれる。
「ふふ・・・蒼月さんとこの景色を見ることができるなんて、夢みたい。」
「俺もまさかこの歳で人間界に再び来ることになろうとは・・・まったく、何が起こるかわからんな。」
お互いの言葉に見つめ合ってクスリと笑う。こんな些細なことが幸せで、嬉しい。
そんな中、
——くしゅん!
夏用の着物では、今の人間界では少し肌寒い。
先ほどまでの緊急事態という興奮状態が落ち着いたことと、上空を飛んでいることで少し寒さを感じた。
それを見て、蒼月さんがふわりと私を包んでくれる。そのため、後ろから抱かれる形になって、急に恥ずかしくなってしまった。
「大丈夫か?」
「あ、はい・・・ありがとうございます。」
「おまえは体温が高いから、俺の方が温められている気がしなくもないが・・・」
そう言ってフッと蒼月さんが笑うから、耳元で囁かれてくすぐったい。
蒼月さんが私を包む腕に少し力を込めて、その温もりがじんわりと伝わってくる。
いつの間にか、寒さはもう感じなくなっていた。
それでも、この抱きしめられている感覚が心地よくて、甘えてしまいたくなる。
「蒼月さん・・・」
「ん?」
「帰ったら・・・また、一緒に花火、見に行きたいです。」
「・・・ああ、そうだな。」
短いけれど、力強い返事が嬉しくて、私は思わず笑ってしまう。
ふと、前方を見やると、
その背中はどこか寂しげに見えて、
だけど、彼女もまた、一つの道を選んだのだ。
(
そんなことをぼんやりと思っていると、
「おお、見えてきたぞ。」
視線の先に広がるのは、木々が集まり林のようになっている場所。
そこにゆっくりと
夜風がふわりと頬を撫でる。
さわさわと揺れる葉の音が心地よい。
私たちが
それはまるで鳥のようなサイズ感で、なんだか可愛らしい。
そうして私たちは
木々に囲まれた境内が薄明かりの中に浮かび上がっている。
(・・・あれ?)
林の中から出てきたから気づかなかった。
ふと立ち止まって辺りを見渡すと、やはりそこは、見知った神社だった。
「え・・・!」
見覚えのある場所に驚きの声が漏れる。
そう、ここは、私が異界に迷い込んだきっかけの場所。
「
その言葉に、
「はい、ここが、今唯一、人間界からあちらに渡ることができる場所です。」
私があの日あやかし界に迷い込んだのは、たまたま残っていた異界の門との接点だったからなのかも・・・
それが偶然なのか必然なのか・・・あの日の不思議な体験を思い出す。
「この神社は、
私はその言葉にハッとした。
(じゃあ、あの日・・・私が迷い込んだのも・・・?)
あの日、この場所に吸い寄せられるように訪れたのも、偶然じゃなかったのかもしれない。
その運命が、こんなにも大きな形で繋がっていくなんて・・・。
そう言いながらも
しかし・・・
「あ、ちょっと待ってください。」
(こんな夜更けに、人・・・?)
社殿から少し離れた場所から聞こえた気がするけれど、社殿に隠れて見えない。
「どなたかが参拝しているようですね。少し待ちましょうか。」
その言葉に、私たちは社殿の裏手に身を潜め、その人がお参りを終えるのを待つことにした。
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