第244話 黄泉の扉 -5-

私の様子がおかしいと感じたのか、蒼月さんがすぐに駆け寄ってくる。

そして、震える手を見ると、その手をきゅっと握って再び声をかけてきた。


「どうした?」


その手の温かさに少し平静を取り戻した私は、蒼月さんを見上げて「もう大丈夫です」と言うと、握られた手をそっと解き、ゆっくりと落ちている地図に目を向け、その中の一枚を拾い上げた。


「この地図を・・・こうします。」


市ノ街の地図を障子に当てる。そして、蒼月さんに、


ほのおさとの地図をください。」


とお願いして拾ってもらうと、少しずらすように重ねる。そうして残りの地図についても、「あるもの」を基準にして、地図をずらしながら重ねていく。


「これは・・・?」


残り一枚となったところで蒼月さんも気が付いたのだろう。私は最後の一枚を重ね終わると、二人に地図を近くで見るように声をかけた。


廊下に面した障子に貼り付けた地図は、廊下に灯る灯りのせいで紙が透けて見える。


「湖が・・・」


煌月さんがそう言った通り、なんと、この7つの街の湖は、ほぼ同じ形をしているのだ。

東西南北に沿って書かれた地図だったので、気づきにくいのだけれど、こうして合わせるように回転させて重ねると、実はほぼピッタリと合うのだ。


そして、大事なのはここからだ。

湖の形が同じになるように重ねると、先ほど煌月さんが「各街のもう一ヶ所」と表現した印が意味のある形になる。


私たち人間の世界では、その形はあまりに有名なのだけれど、この世界の人たちは知っているのだろうか。


地図を二人に押さえてもらいながら、私はそれを指でなぞる。


「お二人は・・・この形を、ご存知ですか?」


すると、煌月さんは横に首を振ったけれど、蒼月さんは縦に首を振った。


「北斗・・・星の並びだ。」


その言葉に、煌月さんは蒼月さんを見た。


「星・・・?そういえば・・・おまえ、夜空を見上げるのが好きだもんな。」


二人の会話を聞きながらも、ドキドキが止まらない。北斗七星の形が偶然浮かび上がるなんて、そんなことは絶対と言っていいほどないはずだ。


「ああ・・・」


蒼月さんもそう答えながらも地図に視線が釘付けになっている。


その重ね方を崩さないまま、重ねた地図をそっと畳の上に置き直してもらうと、私は二人に告げた。


「これは、人間界では北斗七星と呼ばれていて、北極星というものを探すときの目印となっています。」


そう言って、この地図から北極星にあたる位置を探してみる。けれど、どの街に当てはめても、これといって特別そうな場所はない。


「うーん・・・」


大発見だと思ったのに、違ったのかなと思いながらふと顔を上げると、二人が驚いた顔で私を見ていることに気づく。


「あ、すみません。大事な場所が見つかるかと思ったんですけど、なんか、勘違いだったみたいで・・・」


そう言い終わるか否かのタイミングで、煌月さんがすくっと立ち上がった。


「いや、そうとは限らない。ちょっと待ってて。」


煌月さんはそのまま結界の外に出ていってしまい、残された蒼月さんと私は無言のまま地図を見つめ続けていたけれど、


「琴音、お手柄だな。」


蒼月さんはそう言って私に微笑むと、


「おまえのおかげで、黄泉よみの扉の場所がわかるかもしれん・・・」


と言った。


その言葉に、今度は私が「???」となる。

そういえば、長老から扉を開くのを止めてくれって言われてたっけ。あれ?昨日蒼月さんが口にした「奈落の門」とは別物なのかな?印象としてはどちらも似たり寄ったりだけど・・・


そんなことを考えていたら、煌月さんが巻物をいくつか抱えて戻ってきた。

両手に抱えられたそれらを畳の上に置き、一つずつ紐解いていく。


「あ・・・」


すると、そこには見覚えのある地図が描かれていて、


「これは・・・」


日本地図ですか?と聞くよりも早く、煌月さんは、


「人間界の地図だ。ちょっと古いものになるんだけどね。」


と言った。





この世界で日本地図にお目にかかるとは思わなかった。


和紙に筆で書かれた地図。山脈と大きな湖が記されている。

煌月さんは古いものだと言っていたけれど、私から見たら普通の日本地図だ。


日本全体のものから一部の地方のものまで数種類ある。


「確かに私の知っている地図ですが・・・どうしてここに?」


耐えきれず質問をした私に、


「うちは代々人間界の稲荷神に使役を遣わせている家系でね。昔はこれを使って使役先を決めていたんだ。」


確かにこの前蒼月さんもそんなことを言っていたっけ。でも、決める側の家系だというのは初めて知った。


「さっき、琴音ちゃんが湖をひっくり返したりしているときに、ちょっと思い出したことがあってさ。」


そう言って煌月さんは全体が載っている日本地図の横に、市ノ街の地図を少し回転させて並べた。


「ほら・・・似てると思わない?」


そう言って二つの地図に載っている湖をそれぞれ指差す。


「うそ・・・!」


全然気が付かなかった。なぜなら、日本地図に描かれている方はもう少し縦に長いから。それに、地元でもない限り、湖の形なんて覚えていないと思う。


市ノ街の地図の方の湖は、日本地図の方の湖と比べると下の部分が一部欠損しているように見える。

けれど、確かに似ているのだ。










—— 琵琶湖に。

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