第158話 芽生える変化 -16-

結局それからすぐに俺は屋敷に戻った。

疲れたからというのが月影への説明だったが、実際は、番所に二人が戻ってくるところを見たくなかったからだ。


しかし、思いがけず、屋敷に戻って四半刻ほど過ぎたあたりで、琴音から伝書が届いた。


『これからお屋敷に帰ろうと思うのですが、蒼月さんはどちらにいらっしゃいますか?近くにいるなら一緒に帰りませんか?』


受信したのは自室だ。しかし・・・


『近くにいるので迎えに行く。番所で待っていろ。』


それだけ送ると、


「蒼月、また出かけるのか?」


食堂から顔を出して尋ねた小鞠殿に、


「ああ、琴音を迎えに番所まで。」


それだけ告げると、さっきまでの疲れはどこへやら、自分でもこんなに単純だっただろうかと苦笑いをしつつ、むしろ帰宅時よりも軽い足取りで番所へと向かった。

なぜ、こんなにも心が簡単に動かされるのか・・・そんな自分に少し呆れつつも、心の中には不思議な温かさが広がっていた。


屋敷は番所のすぐ裏手だ。あっという間に番所に着くと、俺は琴音と一緒に再び番所を後にした。


そんな番所からの帰り道、


「結構前に帰られたと聞いていたので、もうお屋敷にいるかと思ってました。寄り道ですか?」


琴音が俺を見上げてそんなことを聞いてきたので、


「いや。屋敷から来た。」


隠すことなくそう答えると、琴音は驚いた顔をして、それからすぐに申し訳そうな顔で言った。


「すみません!もうお屋敷に着いていたのに、わざわざ迎えに来てもらう形になってしまって・・・」


困った顔も可愛らしいと思ってしまうくらいには、俺の中で琴音の占める割合が大きくなっている。


「いや、屋敷と番所なんて目と鼻の先だ。わざわざ翔夜に送ってもらうよりいいだろうと思ってな。」


これは本当のことだ。

ただし、翔夜に手数をかけさせるのが申し訳ない、ということではなく、単純に翔夜と琴音が一緒にいるのを見たくない、というだけのことだ。


我ながらあまりにも心が狭いと思うので、口には出さないが。


「本当にすみません・・・あ、そうだ。これ、皆さんにお土産買ってきたので、後で一緒に食べましょう。」


琴音はもう一度謝ると、ふと何かを思い出したかのように右手を上げて小さな箱を俺に見せた。


「どうしたんだ?」


「これ、妖花蜜羊羹ようかみつようかんです。実は、これが食べたいっていうこともあって、あのお店に行ったんですけど・・・まさか蒼月さんにお会いするなんて驚きました。」


(俺も驚いたが・・・)


「翔夜くんにこの前のお詫びをしなくちゃなと思ってたんですが、蒼月さん、今日は番所には行かないとおっしゃってたので、ほむらくんに番所まで送ってもらったんです。」


ほむらのやつ・・・そんな報告、受けてないぞ。)


「今日一緒にいた方・・・ときめぐりでお会いした時、ものすごい蒼月さんのファン・・・あ、えーと、崇拝?してるみたいでしたけど・・・お知り合いだったんですね。」


「ああ・・・まあな。」


琴音がこれ以上踏み込まないのを願いながら、曖昧な返事をした。

見合いも断った以上、もう会うこともないだろう。これ以上彼女の話をすることになんの意味もないこともあり、かつ、変な誤解を与えたくないというのもある。

すると、そんな会話をしているうちにあっという間に屋敷に到着した。



玄関を入り、自室に戻ろうと琴音と別れると、


「蒼月さん!」


少しして後ろから呼び止められた。


その声に俺がゆっくりと振り返ると、


「今日・・・」


そう言った琴音は、一瞬、何かを言おうとして躊躇うように黙り込んだ。

しかし、その後小さく首を振ると、


「今日も、鍛錬頑張ります!でも、その前にみんなでこれ、食べませんか?」


打って変わって笑顔でそう言うと、手に持っていた箱を見せた。

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