第141話 時ノ廻(ときのめぐり)という街 -10-

蒼月さんの低く沈んだ声に、私の胸もぎゅっと締めつけられる。彼の言葉の重みがずしりと私にのしかかり、あまりの沈痛さに何も言えなくなった。


「最終的に巫女の命は助かったのだが・・・それを機に、人間とあやかし数名で協議を行い、複数あった異界の門を1つだけ残して封鎖し、その1つも一時的に閉じた。これで、人間界とあやかし界を行き来するすべがなくなり、大戦争は終息した。」


その説明を聞きながら、最初から閉じてしまえば良かったのでは?という疑問が湧き、蒼月さんに尋ねてみた。すると、


「元々異界の門を制御できる者が誰もいなかったのだ。それが・・・」


そこまで言った蒼月さんは、少し口ごもった。そして、何かを決意したようにゆっくりと息を吐くと、こう続けた。


「巫女を生き返らせたことにより、私の妖力が巫女に移り、その結果、巫女の元々の神通力と私の妖力が交わり合い、その結果、巫女が異界の門を制御できるようになったのだ。」


その説明に驚きが込み上げる。つまり、死にかけていた巫女が復活しただけでなく、二つの力が融合して稀有な能力を手に入れた結果、大戦争が終結したということだ。


それ以外にも色々と気になる点はあるけれど・・・


「その巫女さんが大戦争を終わらせたんですね。」


結論だけポツリとつぶやいた私に、蒼月さんはうなずいた。


「ああ。なので、この世界の人間はこの巫女をとても尊敬し、今もなお伝説として語られている。この巫女がいなければ、今の平和はありえなかったからな。」


(あ・・・またこの顔・・・)


懐かしむような、いつくしむような・・・今まで何度も見てきたこの表情。

そして、今日はそれに加えてとても優しい穏やかな顔をしている。

勘のいい私には、その表情だけで十分だ。

この人にこんな顔をさせているのがその巫女だということに気づいた瞬間、私の胸がギュッと締め付けられる。


(この気持ちは、一体なんなんだろう・・・)


嫉妬なのか、それとも違うのか。よくわからないまま、その思いが胸の奥でくすぶっているのがわかる。

そんなモヤモヤとした気持ちのまま、私は思わず想像を巡らせてしまう。


蒼月さんの大事な記憶の中にいるその巫女は、きっと強くて、優しくて、人を思いやる気持ちを持った、素晴らしい人だったに違いない。

でも、彼の目の奥に宿る彼女への想いを感じながらも、私は私で今を生きる蒼月さんへのこの複雑な想いと向き合うべきだ。

巫女について聞きたいことは山ほどあったけれど、こんな時だけ臆病になってしまう私は、


「すごい人ですね。そのうち、お話聞かせてください。」


と、できるだけ平静を装うように言葉を発するので精一杯で、ざわつく心の内を見透かされないように、最後のお団子に手を伸ばして頬張った。


それから少しの間、私たちの間には静かな時間が流れていたけれど、壁に掛かった時計の音でふと我に返った。


「あれ?もうこんな時間なんですね。」


時間を見ると、もう夕映ゆうばえの刻(16時〜18時)が始まるところで、朝食を食べてすぐにこちらにきたことを考えると、かなりの時間が経っている。


「ああ、おまえは過去に行っていたからな。時間のずれが生じたのだろう。」


過去にいたのはせいぜい30分くらいだったと思うので、なんだか時間を損した気分になる。


「私はその間に調べたいことは調べ終わったので、後はもう帰るだけだが・・・」


そう言った蒼月さんは私を見ると、


「まっすぐ帰るか?それとも、どこか行きたいところはあるか?」


と、そんなことを言うので、私は迷うことなく、


「干し芋屋さんに行きたいです!」


と答えた。すると、蒼月さんはまたもやクスリと笑いながら、


「干し芋か・・・この街の干し芋は確かにうまいからな。屋敷の皆にも土産に持って帰ろう。」


そう言ってお茶を飲み干すと、


「では、参ろうか。」


と立ち上がった。


お店を出る時に(蒼月さんが)色々な人から声をかけられてなかなか出られなかったけれど、なんとかお店を後にする。

その後は、もう行く先を決めているように歩いて行く蒼月さんに、私はただただついて行く。

そうしてたどり着いたのは、小さな干し芋屋さんで・・・


「ここは昔から長く続いている干し芋屋だ。この街は干し芋が特産だが、ここのは格別にうまい。私もこの街に来ると、つい食べたくなるくらいにな。」


そう言った蒼月さんは、お店の人から何かを受け取った。


「まあ、食べてみろ。」


突然口元に差し出された干し芋につい反射的に口を開けると、「ほら」と言う声に押されて、思わずパクリと食べてしまった。


(うう・・・恥ずかしい。)


結果的にアーンされてしまった私は、干し芋を食べながらとてつもない羞恥に襲われる。けれど、それは長くは続かなかった。なぜなら・・・


「美味しい〜〜!」


しっとりと柔らかく、しかし、噛めば噛むほど口の中にはしっかりとしたお芋の味が広がる。


(あれ・・・?これって・・・)


そういえば、天狗にもらった干し芋に似ているなと思いながら食べていると、


「おお、嬢ちゃん。なんだ?気に入ったのか?」


頭の上からそう言われ、思わず顔を上げて見上げると、そこにはさっきの天狗がいて、


「わしもつい全部食べてしまって土産分がなくなってしまっての。」


そう言って少し照れくさそうに笑う。


「今朝はありがとうございました!はい、とても美味しかったです!」


その言葉を聞いて、天狗は嬉しそうに店を出て行った。手には大量の干し芋の包みを抱えて・・・


そんな後ろ姿を見送り、いつの間にかいなくなった蒼月さんを探す。

すると、蒼月さんはお店の中に入って、お会計をしているようだった。

それを見て、お店の入り口で試食品を配っているお姉さんにお礼を言って中に入ると、そんな私に気が付いた蒼月さんは、


「うまかっただろう?」


と、お会計を済ませたばかりの干し芋の包みを抱えて、満足そうに笑った。

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