第60話 弟子入りへの挑戦 -14-
蒼月さんが奥に引っ込んだあと、翔夜くんが月影さんに
「あんなこと言ってますけど、わかんないじゃないですか!」
と食い下がる。月影さんは苦笑いしながら「まあまあ」と宥めているけれど、月影さんは優しいから私の目の前ではっきり言えないんだと思って、私から口を開いた。
「えー・・・翔夜くん、聞いてた?私には、おまえには一ミリも興味ないって聞こえたけど・・・」
自分で言っておいて凹む。
「いや、そんなはずがない!こんなにかわいい女の子が同じ屋根の下にいて、何も起こらないはずがない!」
いや・・・褒めすぎでは・・・?力説する翔夜くんに苦笑いしかできずにいると、
「その通りだ!」
なぜか
(今日初めて二人の意見が合ったな・・・)
フッと笑って見ていると、二人も同じことを思ったのか、向かい合って握手をしている。
(仲がいいのか悪いのか・・・)
そんな二人に、月影さんが呆れたように口を開いた。
「男が全員、翔夜みたいに見境ないわけじゃないからな。」
(言い方・・・笑)
「それに、俺も琴音ちゃんと同じ屋敷に住んでるって忘れてないか?」
そういえば、朝晩一緒に食事をしているのに、普段あまり意識したことがなかったな。前に、千鶴さんから、月影さんと千鶴さんは長老の屋敷の私が住ませてもらっている離れとは逆の方向にある離れで暮らしていると聞いたことがある。
その言葉に、二人が揃って月影さんを見る。
「確かに・・・でも、月影さんには千鶴さんがいるから・・・」
と、それでも食い下がる翔夜くんに、
「いや・・・なんか、心配してくれてるのはありがたいんだけど・・・今までの蒼月さんの私に対する態度を見ても、何かがある可能性は限りなくゼロに近いと思うよ?それに・・・」
私だって浮かれた気持ちで弟子になりたいと言ったわけではない。
「実は、前に長老から蒼月さんには深く関わるなと言われてるの。それなのに、その長老が蒼月さんのお屋敷に住むようにって言ったのは、修行するのに一番効率的だからではないのかな・・・だから、どんな修行が待っているか想像もできないけれど、私は今できることをまっとうしたいと思う。」
そう言って翔夜くんをまっすぐと見つめる。
すると、私の決意を悟ってくれたのかどうかは分からないけれど、
「はぁ・・・まあ、言っても蒼月さんも分別のある大人だからな。ちょっと心配しすぎたかもな。」
私に言っているのか自分にそう言い聞かせているのかは分からないけれど、
「何か困ったことがあったらいつでも相談して。」
と言った後、
「とりあえず、今日はおつかれ。」
と、力なく笑った。
そんな翔夜くんを見て、
「久々に山から降りてきたんだ。たまには酒でも飲みに行くか?」
と尋ねる。すると、翔夜くんも、
「そうだな。たぬきも誘って久々に飲みに行くかぁ。」
と上半身をぐっと伸ばしてポキポキと身体を鳴らした。それから、印を結んで指先にフゥッと息を吹きかけると、小さな
「じゃあ、千鶴も琴音ちゃんの試練の行方を心配してるだろうし、俺たちは帰ろうか。」
月影さんに声をかけられて、そうだ、千鶴さんにも報告しなきゃ、と思い出す。
荷造りもしなきゃだし、今夜は忙しくなりそうだ。
帰る前に・・・と、卓の上の湯呑み茶碗を台所に運び、洗うところまで済ませてしまう。
一緒に飲みに行く友達を待っているという二人を残して、私と月影さんは帰ることにして、広間を出る前にふと気がついた。
「
お礼を言い忘れていたことを思い出して、
「ははは。父上は昔からああだからな。」
と笑った後で、
「またお嬢さんに会いに来よう。」
と手を振って見送ってくれた。それに反応するようについ私も手を振っていると、外から騒がしい声が聞こえてきた。
「来たぞ〜!ほら、さっさと行くぞ〜!」
この声・・・・聞き覚えのあるその声に振り返ると、
「椿丸くん!?」
「琴音〜!?」
と、その突然の再会に二人して大きな声をあげる。
「おまえ、なんでこんなとこにいるんだよ〜。」
いや、それはこっちのセリフだよ。と思いつつも、背後で「はぁ?」って言ってる翔夜くんの声が聞こえてきて、またもや話が長くなりそうなので、
「えーっと、それはまた今度。今日は帰ります。じゃあね〜!」
とだけ言って、「え?おい!」って訳がわからないという顔をしている椿丸くんを放置して、月影さんを引っ張るように番所を後にした。
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