あやかし恋奇譚

天宮 るちあ

プロローグ

夜空に浮かぶ満月が、静かに世界を見下ろしている。



幼馴染の結婚式からの帰り道、琴音は普段とは違う道を選び、導かれるように神社へと足を運んだ。


冷たい風が神社の境内を吹き抜け、古びた鳥居をくぐるたび、木々の影が踊る。


てんてんてんこ、稲穂が揺れる

さらさら流れる、水のそば〜

静かな静かな祠の下で

いい子にいい子にねんねしな〜


琴音は幼い頃、母と何度も訪れたこの神社で聞いた子守唄を思い出し、微かな懐かしさに胸を締め付けられる。


「おかえりなさい」


ふと聞こえたその声に、琴音は振り返ったが、そこには誰もいない。

聞き覚えがあるような、ないような、一瞬しか聞こえなかったにも関わらず、心を掴んだその声。

その意味を探り続けていると、遠くで聞こえる鈴の音が琴音を現実に引き戻した。


誰もいないはずの神社に漂う微かな霊気。


霧が立ち込める参道の奥、神秘的な光が彼女を誘う。


心のざわめきに抗えず、琴音は一歩、また一歩とその光へと進んでいく。



でも、その時の琴音はまだ知らなかった。


この一歩が、琴音を新たな運命の渦へと引き込むことになろうとは。

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2024年7月8日 09:00
2024年7月8日 10:00

あやかし恋奇譚 天宮 るちあ @lucia_writer

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