第36話 白頭鷲姫は堂々とした姿を披露する

扉の先に、静寂が保たれていた。


どうやら、クーデターの首謀者は捉えられて、ユーリの前に拘束されていた。その顔に見覚えは全くないはずだがどことなくユーリと面差しが似ている気がした。


しかし、ユーリと決定的に違うところがある。それはその瞳は空色であり『鷲の目』ではないことが一目でわかることだろう。


そして、その中を私はただ堂々と歩いた。


突然、現れた私に周囲の王族や、帝国の騎士たちは見つめることしかできないでいるようだ。


玉座の間のあちこちで未だに煙が立ち上っているがその中を風を切るように歩いた。その中に見慣れた人が立っていた。


「……まさか、ルーナ??」


その声に答えることはしなかった。


王国に居ることはずっと美しいと思っていたお母様。いつも私を醜いアヒルだとあざ笑っていたその人を外に出てみてみた時今までと全く違う感情が湧くのが分かった。


この場にいる王族として、似つかわしくない派手な色のドレスに若作りのためにされている化粧。お母様の年齢であればもっと落ち着きのあるドレスと化粧をした方が品格があるように見えるのにそれをしないで若さを失うことを恐れているようなその姿に悲しくなるのが分かった。


(……私の美意識はずっと歪んでいたのね)


その隣で驚いた顔をしているお父様。お父様は落ち着きのある恰好をしていることもあり完全にお母様が浮いてしまっているが、それに対してこの人は何も言えないのだろう。


(私は、もうこのふたりの元で悩む苦しむ醜いアヒルの子ではない。むしろ……)


色々な思いを追い払いながら正面を見ると笑顔のユーリが居るのが分かった。


「皆に紹介しよう。俺様の婚約者、白頭鷲わしのめのルーナ姫だ」


静まり返っていた玉座の間が歓声に包まれる。


「……あれが醜いアヒルだと??ふざけるな!!なんて美しい姫なんだ……」


拘束されているクーデターの首謀者が狂ったように声を上げた。


そうだ、もう私は醜くない。むしろ気高い白頭鷲姫となったのだ。私はユーリから差し出された手を取った。


「だめよ!!ルーナは、みにくいアヒル姫よ!!私より美しいなんて許されない!!許さない!!」


茫然と私を見ていたお母様が叫んだが、周囲の誰もその言葉に耳を貸す者はいない。


「……私が一番なの、すべて一番であり続けないといけない。だから……」

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