第32話 ある男の企み(???視点)
「もうすぐ、全てを取り返せる」
小さく呟きながら何もない伽藍堂の部屋を見回す。全ての狂いを元に戻さなければいけない、そうして、かつて失くしたすべてを取り戻さなければいけない。
「計画は順調です。ホーク王国の王妃からは想定通りの返事が来ました」
影のように気配を完全に消した配下が跪く。
「そうか、しかし現在の『鷹の目』の伴侶はまるで何も見えていないらしい。いや、すでに古のような力は失われているに等しいのだろうな。しかし、『鷲の目』は別だ、あの忌々しい瞳の力が……、そのせいで本来ならば皇帝になるはずがない者が皇帝になったのだ、あの忌々しいユリウスが……」
「そうです。『鷲の目』を持つだけのケダモノでしかないあのような男が全ての頂きにいるのは許されません」
「ああ、しかし、『鷲の目』の伴侶であるルーナ姫がこの手に入れば風向きも変わる」
目は番いを持って完璧となるが、片方だけでも力を発揮する。
帝国の皇帝に『鷲の目』が必要ならば、我が母上のように皇后が持っていれば問題ない。つまりルーナ姫を手に入れたなら皇帝になれるのだ。
「その通りでございます。前皇帝陛下に愛されて帝王学も学ばれた殿下こそが皇帝に相応しいのです。あんな人かも怪しい男よりずっと……」
「そうだ、我こそが相応しい」
『鷲の目』を持つ母から生まれた私を前皇帝である父は愛したが、『鷲の目』を持つ祖父からは嫌われていた。
後で知ったが、父も『鷲の目』を持たずに生まれて『鷲の目』を持つ母と結婚して皇帝になったのだという。
しかし、皇族でも『鷲の目』は引き継がれない場合もある。父曰くは『鷲の目』などなくても皇帝になれるが、祖父は頑なに『鷲の目』の子を跡取りにしたがった。
我は知らなかったが、祖父はユリウスの存在に勘付いていたようだったが、父が頑なにユリウスの存在を秘匿し続けた。
しかし、父はユリウスにある日殺された。混乱の中、私はなんとか難を逃れたが代わりの死体を城に残したため、今や存在しない幽霊のような存在と成り果ててしまった。
皇帝になるべく育ったのに、まるで世捨て人のように目の前の帝国の影の中でも前皇帝派だった侯爵家の別邸に匿われている状況は絶望的で何度も死にたいと思った。
しかし、私を愛してくれた父や母のために、たとえみにくいアヒル姫と呼ばれるルーナ姫でも娶り皇帝にならねばならないのだ。
そのため、今回の記念式典にてホーク王国と通じてクーデターを起こすのだ。
「準備は整いました」
私はその部下の言葉を合図に立ち上がった。
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