第8話 みにくいアヒル姫は変態皇帝を少し見直す
「俺様、いや帝国の皇帝は代々『鷲の目』と呼ばれる目を継承している。それははるか遠い昔、我々皇族の先祖とされる存在が空を治めた白頭鷲の姿の精霊王だったからとされている。そして、その血を引く皇族は……」
ユリウス皇帝陛下が大切なことを伝えようとした時だった。突然、部屋の中に3人の人影、先ほど勝手に去って言った侍女たちが入ってきて、ユリウス皇帝陛下の前に跪いた。
「……お前たち、何の用だ??」
自身の発言を強引に止められたこともあり少し不機嫌そうに答えたユリウス皇帝陛下に、例のピンク頭の侍女がわざとらしい上目遣いに涙目で言った。
「それが、私達はそちらのご令嬢に先ほど不当に嫌がらせをされましたの。あまりに酷い行為でしたので皇帝陛下のお耳にもいれたく……」
ありもしない虚偽をピンク頭が報告したその瞬間に部屋の温度が急に下がるような感覚を感じた。
「ほぅ」
そう口にしたユリウス皇帝陛下の雰囲気は冷酷で今まで私が感じていた全裸変態美男子のユリウス皇帝陛下とはかけ離れたものだった。
「……その……ですから……処罰……ひぃっ!!」
ユリウス皇帝陛下の雰囲気にのまれながらも言葉を口にしようとしたピンク頭が言葉を完全に失った。そして、まるで怯えるように跪いたピンク頭を見下すように立ちながらユリウス皇帝陛下が私を王宮から攫った時のような低い声で告げた。
「俺様の可愛い可愛いルーナは、人を陥れるようなことはしない。むしろ其方らがルーナに対して行ったことを俺様が知らないと思ったのか??」
「そ、それは……」
あまりのユリウス皇帝陛下の纏う覇王のようなオーラに、ガタガタと腰を抜かして震えるピンク頭に追い打ちをかけるようにユリウス皇帝陛下が告げた。
「ちょうどよかった。其方らを『俺様の婚約者である未来の皇妃を侮辱した罪』でとらえようとしていたところだったからな」
「ま、待ってください、皇帝陛下。私達は帝国貴族の……」
「だからなんだ??俺様の愛するルーナを侮辱するということは俺様を侮辱すると同じだ。捕らえろ」
ユリウス皇帝陛下がそう口にすると、どこからやってきたのか黒ずくめの騎士たちが一切の乱れなくピンク頭たちを捉えて連れていってしまった。
「ルーナ、すまない。帝国にきたら二度とこのようなことが起きないように大切にするはずが……」
「いいえ。すべての人の動きを理解することは誰にもできません。処罰を行ってくださったこと感謝いたします、ただ……」
私には少し気になることがあった。確かにあの侍女トリオは大変不快だったのだが、皇族を侮辱した罪となるとかなり重い罪が課されるはずだ。そこまでは望んでいないことを伝えることにした。
「ユリウス皇帝陛下、私があの3人から受けたのは無理やり眼鏡を奪われるという暴力行為と、悪口を言われたという程度のものです。また、私はユリウス皇帝陛下の正式な婚約者ではないので皇族として扱うのには違和感があります。なのでそのふたつの罪を問う程度にしていただけますと幸いです」
「ルーナは優しいな……。考慮しよう」
ユリウス皇帝陛下の黄金の瞳がまるで蜂蜜のような甘さを持つのが分かった。先ほどまでの冷酷な様子とは違う甘い甘いもので目のやり場に少し困ってしまう。
そうしておろおろしていると、とても優しい声でユリウス皇帝陛下が囁くように言葉を紡いだ。
「ルーナ、色々あって今日は疲れているようだな。無理せずゆっくり休んでくれ」
「……ありがとうございます」
湯あみをゆっくりしたこともあり、頭がぼんやりしてきていたのでその言葉に従うことにした。去り際にユリウス皇帝陛下が小さな声で何かを言っているのがかすかに聞こえた。
「皇族のことは明日話せばいいだろう。これからはずっと……」
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