幼馴染と始める異世界転生!
ぎあまん
01 家族会議
やらかした。
本日、俺、洞宮卓斗うろみやたくとはやらかしてしまった。
そのせいで家族の前で正座をさせられている。
俺の前にいるのは、父親、母親、祖父母、そして兄貴に妹。
家にいる家族が勢ぞろいしている。
父親と母親、それに兄貴が黒い喪服姿なのは、葬式帰りだから。俺と妹はまだ学校通いなので制服だ。
そう、葬式帰りだ。
「やっちまったなぁ」
祖父が重くため息を吐く。
父親も苦悩顔。兄貴は呆れている。
祖母、母親はちょっと同情している雰囲気。妹は隠そうともせずにニヤニヤしている。するな。
「うちの家業の約束事。行ってみろ」
父親が厳しい口調で問いかけてくる。
俺は覚悟を決めて口にした。
「表向きは農家。本当のことは誰にも言わない。この力をこちら側では使わない」
「そうだ。覚えてるじゃないか」
「だけど、親父! 俺」
「いっちょまえに親父とか言うな、半人前が」
「だけどさ、悔しいじゃないか。こんなの!」
「そうだろうが。なにもできないのがこちら側の普通なんだ」
「まぁ、タク兄も、相手の車を特定してカチコミしなかっただけ、理性的なんじゃないの?」
妹が変わらずニヤニヤ顔で庇うつもりがあるのかないのかわからないことを言う。
本当はそれもしたかったが、我慢したんだ。
「むしろそっちの方がマシじゃ。火事やらなんやら、煙に紛れた麻薬で幻覚を見たとかで隠蔽ができるからのう」
祖父……じいちゃんがそんなことを言う。
え? やってよかったの?
物騒な隠ぺい工作だけどさ。
「人間相手にごまかすのなんて簡単なんじゃよ。だがな、神様相手にはこうはいかんのじゃ。わかるじゃろう? タクト。お前は、一番やっちゃいかんことをした」
「だけど……」
「こちらの人間の魂をダンジョンに送るなど、やっちゃいかんのだ」
そういうと、じいちゃんは腕をゆっくりと上げて、俺たちの間の宙を指差した。
そこに光が生まれ、光の球となり、その内部で映像が生まれる。
それはとある情報を示した画面。
ユニット名:木迷星那(仮)(生前)
ステータス:未決定
履歴書じみた作りの情報欄。
顔写真を乗せるところには本来デフォルメされた外見情報が表示されるのだけれど、いまは魂を示す青白い球が浮かんでいるだけだ。
あまりにも少なすぎる情報。
「あっちの世界に、わしらのダンジョンに、星那ちゃんの魂を送り込んでどうするんじゃ?」
反論の言葉が出てこない。
今日は葬式があった。
棺桶に入っていたのは、木迷星那こまよいせいな。
俺の、幼馴染だ。
彼女とは高校も同じになっていた。
これからも小学校や中学校の延長が、これからも続くんだと思っていた。
それなのに、それをバカなトラック運転手がぶち壊した。
彼女は轢かれて死んだ。
その死を見送った。
通夜、葬儀、そして火葬場へと運ばれて、煙になって昇っていく彼女を見て、俺は我慢ができなくなった。
その魂を捕まえて、俺たちのダンジョンに送り込んでしまった。
「だって……そうすれば……あいつはあっちの世界で生きられるじゃないか」
「異世界転生」
ニヤニヤと笑ったまま、妹が言う。
そう、異世界転生だ。
俺は幼馴染を異世界転生させてしまった。
我が家の家業……表向きの農家じゃなくて、本当の家業はダンジョンマスター。
異世界に存在するダンジョンを管理するのだ。
神様に与えられたこの仕事を、俺たちの一族は秘密にしたまま続けている。
「害獣駆除の後始末とは違うんだぞ」
「わかっているけど」
親父の苦言に、俺はそう答えるしかない。
うちの周りはけっこうな田舎なので、畑にはそれこそいろんな害獣が近づいて来る。
モグラや猪、猿や鹿に熊なんかも来るし、用水路から入って来るヌートリアみたいな外来種もいる。
だけど全部、親父や兄貴が仕留める。
一応は猟師の資格を持っているが、人の見ていないところではダンジョンマスターとしての能力を使って完璧に対処している。
そうして溜まっていく害獣を、俺はダンジョンマスター修行の一環として、ダンジョンに肉体と魂を分けて送り込む。
肉体は、向こうに配置するダンジョンモンスターの素材とするため、魂はモンスターの核とするため。
俺はそうやって練習していた能力を使って、星那の魂をダンジョンに送った。
「……あっちでなら、まだ、人間として生きることだってできるじゃないか」
その方法があることを、俺は知っている。
ダンジョンには攻略者……冒険者が来てもらわなければならない。だから市場調査目的で、俺たちダンジョンマスターもあっちの世界に行くことができる。
だから、知ってる。
ダンジョンマスターが作ることのできるモンスターには人間型のものもあるし、条件によってはダンジョンの外に出すこともできる。
「愛だね」
ニヤニヤ妹の言葉を否定したいが、いまはそんな空気ではないし問題がこじれるだけなのでぐっと我慢する。
だが後で殴る。
グーで殴る。
そして母親や祖母が同情的なのも、そういうことだろう。
「……まぁええ」
祖父がそう言った。
「だが、親父」
「長くやっとりゃ、こういうトラブルは付きもんだ。別に、タクトがうちの一族で初めて問題を起こしたわけじゃない」
「そうかもしれないが……なんとかなるのか?」
「神様にはわしが怒られとく。まぁ、なんか言ってくればだがな」
「そうか。すまん」
「だから、後始末の指導はお前がしとけ」
「わかった」
やれやれという感じで立ち上がって部屋を去る祖父を見送った後で、父親……親父が俺を睨む。
「知らん仲じゃない人間の魂を送ったんだ。そのまま知らん顔というわけにはいかんぞ」
「わかってるよ。……俺が、守る」
「え? 暑い暑い! ここいつから熱帯になったの!」
「うるせぇ!」
妹の茶々に我慢の限界が来て叫んでしまった。
そして親父の拳骨が俺に飛ぶ。
なんでうちって、こういうところは昭和テイストなんだろう。
「それで、どうしたいんだ?」
「ダンジョンのモンスターにする気はない。外に出て、普通に暮らしてもらうつもりだ」
「それなら、能力の制限はかかるぞ」
「わかってる」
「後、うちがダンジョンマスターだということは、星那ちゃんには絶対に秘密だ。いいな?」
「わかった」
「じゃあ、キャラメイクはうちの仕事だよね!」
と、妹が手を挙げる。
「なんでだよ⁉」
「ええ⁉ この家族でうちよりキャラメイクが上手な人っていたっけぇ? うちのコワコワキャラメイクのおかげでダンジョン人気ランキングが上がったんじゃなかったけぇ? アンケート見たぁ?」
「ぐぐぐ……」
「心配しなくても、星那ちゃんは美人に仕立ててあげるよ。タク兄好みに♪」
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