第121話 下手くそなカップル ★カミル SIDE

 ソラの転移魔法で帝国からリオの部屋に帰って来た僕達は、リオを寝室のベッドへ寝かせ、僕の主治医であるトリス爺を呼んだ。リオの専属侍女がリオを楽な格好に着替えさせてくれている。


 リオは意識もあるし、そこまで顔色も悪くはないが、無茶するのが当たり前のリオだからこそ、無理にでも休息させるためにトリス爺の診察が必要なのだ。

 

「カミル、私は大丈夫よ?スキルを広域に使ったから少し疲れただけだもの」


「リオは平気だと思うのかも知れないけど、僕が心配だから信用出来るトリス爺の診察だけは受けて?」


 あざといとは分かっているが、上目遣いでリオを見つめ、コテンと首を傾げる。効果テキメンで大体言う事を聞いてくれるから、どうしても譲れない時は使う手だ。


「うっ……ズルいわね。私が断れないって分かっててやるんだから……」


「そりゃそ〜だよ〜。リオが強情ごうじょうでテコでも動かない時があるって分かってるから小技を使うんでしょ〜?」


「良いとは思うけど〜。カミルはでやってるから照れが無い分、見てるこっちが恥ずかしくなるんだけどね〜」


「あ〜、間違い無いね〜」


 ソラとシルビーが僕の行動を面白がってるけど、僕は本気でリオを心配してるんだけどなぁ。もしかすると、精霊は人間観察が好きなのかも知れないね。


「坊ちゃん、参りましたぞー」


「トリス爺、リオが聖女スキルを広範囲で使った時から疲れが取れて無い様に思えるんだ。ちょっと診てくれないだろうか?」


「あぁ、スキルは強ければ強い程、体に負担が掛かる場合がありますからなぁ。聖女様ですから……浄化系のスキルを使われたのであれば、これは仕方ないですなぁ」


「そうなのかい?聖女のスキルは疲れやすいって事だろうか?」


「聖女様の『祈り系』と言われるスキルは、元々人智を超えた能力と言われておりましてな。便利だからと沢山使ったり、悪い事に使われない様に、極端に疲れるんだと言われておりますなぁ」


「なるほど、ストッパー的な役割で疲れが出るんだね。それにしても、トリス爺は魔法やスキル関連の知識もかなり詳しいよね。これからもよろしく頼むよ」


「あぁ、ジィが魔法関係に詳しいのは、坊ちゃん達の師匠の所為せいですな。あの爺さんは、加減と言う言葉を知らんのです。訓練にしても、現場でも、いつも全力で。しょっちゅう呼び出されては自分を研究材料にしてはジィにメモを取らせておりましたのでな」


 あぁ、なるほど。師匠に付き合わされていたのであれば、詳しくなるのは当然だ。師匠はデュークより研究熱心だったらしいからね……


「あらまぁ。トリス爺はお優しいのですね。爺やの無茶振りをいつも聞いていたのでは、大変なんて言葉では済まなそうだわ」


「ははは、聖女様は分かってくださりますか。あの爺さんはジィより80歳程年上で、若い頃は魔物が溢れる森などにも遠征しては大暴れしてましてなぁ。ジィは救護班で同行しておりましたから、腐れ縁ってヤツですなぁ」


 まぁ、そのお陰で魔導書を作ったり、現在の魔法理論を含めた勉強の基礎が出来上がったんだけどね。


「なるほど、近くで見ていらしたのですね!私も森で魔物を狩ってみたいわ!」


「ちょっと待って、リオ!違うからね?休息する為にトリス爺を呼んだんだからね!狩りはしないからね?」


 ソラが声を出さない様に両手で口を覆って笑っている。猫の姿だから、そこまで声を我慢出来るとは思えないが、仕草は可愛いよね。

 

「え――――」


「え――じゃ無いよ!報告は僕が行くから、リオはゆっくり休んでいて?トリス爺もスキルを使ったら凄く疲れるって言ってるだろう?」


「カミル〜、行っておいでよ〜。リオはオイラがちゃんと見ておくから〜。大人しくベッドに居るとは限らないけど、読書ぐらいの大人しさで良いでしょ〜」


「あぁ、そうだね……ソラ、後は任せたよ。間違っても、練習場に行ったりしちゃ駄目だからね?リオ?」


「分かったわ。寝ちゃうかも知れないけど、起きてたら夕食で会いましょうね、カミル」


 ソラを撫でながらペロッと舌を出したリオは、仕方ないなぁと言う仕草だったが頷いてくれた。過保護なのは分かってるけど、心配なんだよね。


「うん。また後でね、リオ」


 ⭐︎⭐︎⭐︎


「国王陛下に……」


「カミル、早よう座りなさい。シルビー、久しぶりだな。今日はリオは居ないのか?体調などは問題無いのであろうな?」


 相変わらず挨拶をさせてくれない陛下は、大好きな可愛い義娘むすめであるリオがこの場に居ない事が気になった様だ。


「えぇ、大事を取って休ませようとしているのですが、本人が元気で……我々から見るとかなり疲れた表情をしているのですが、本人はまだ大丈夫だと思っている様です」


「あぁ、なるほどな。テンションが上がっていたりするのではないか?何か、精神的に張り詰める様な事が起こったのか?」


 なるほど、確かに気が張り詰めてる時は痛みなども平気だったりするからね。それと同じ現象が起こっている可能性があるわけだ。


「あ、はい。スタンピード開始10分前に、リオがデュークと帝国の魔導師団団長が居ない事に気が付きました。リオが神経を研ぎ澄ませて、デューク達が隠されていた空間……恐らく『狭間』の様な場所を見つけ、聖女スキルで『浄化』したのです」


「な、何と……魔物が湧くまでに間に合ったのか?」


「えぇ、魔物が湧き出した瞬間に、リオが恐らく全力で広域を浄化したので間に合いました。デューク達はうめくぐらい苦しかった様ですが、練習の成果とばかり、リオの上級魔法一撃で300発を喜んで受けていました」


「周りに気を遣ったのだろうな。魔法の実力は本物だから、そういう所は頼りになる。だが、彼奴あやつも水を得た魚のようだな。爺さんもリオが来てから若返った気がするしな」


「何十年も変わらぬ日々を送っていれば、退屈になるのも理解出来ますよ。そこにリオが『練習装置』を始めとした『玩具おもちゃ』を持って来たのですから、仕方ありませんね」


「はぁ……まぁ、そうだろうがなぁ。我が国もリオのお陰で潤っているし、リオの御披露目パーティーは大々的にやりたいな。金は持ってる者から使わねば回らないからな」


「あぁ、確かにそうですね。最近ではスタンピードの時に数回パーティーしただけでしたね。では、王国内だけで先にお披露目をするのも良いのではありませんか?」


「おぉ!それも良いな。皇帝を誘い出す事ばかりに気を取られていたな。折角だから、リオの好きなメニューばかりの立食パーティーにするか?リオが楽しめるものが良いな」


「そうですね……それとなく、リオに聞いてみましょうか。帝国の皇女が仲良くなったらしいので、彼女にも聞いてみようかな」


「そうだな、情報は多いに越した事は無いからな。婆さんにも聞いたらどうだ?どうせ顔を出すのだろう?」


「あぁ、いいですね!パーティーまでは休暇を兼ねて婆やの家で過ごすのでしょうから、色々リサーチして貰うのも良いかも知れませんね」


「招待客などはお前に任せるが、エイカー公爵と話し合って決めるが良い。彼はリオの恩人だからな。少しは感謝の心を見せておかねばなるまい?」


「そうですね、分かりました」


「取り敢えずは今回で、スタンピードは終わりと思って良さそうだろうか?」


「恐らくは。女神様が『予言』してくださる様なので、もし次に来る事になっても問題は無いかと思われます」


「それなら良かった。お前もリオも、少し休みなさい」


「ありがとうございます。それでは少しお休みを頂きます。次は、王国内でのお披露目パーティーの予定を立ててからまた参ります」


「うむ。ご苦労であった」


「失礼します」


 部屋を出る前に、必ずシルビーが陛下の近くまで寄って、「またね〜」と愛嬌あいきょうを振り撒いてから戻って来るのだが、普段はほぼ無表情の陛下が顔面崩壊する程、御機嫌になるので王妃にいで凄いなぁと思うのだった。


 ⭐︎⭐︎⭐︎


「リオ、体調はどうだい?」


 夕食の時間となったので、リオの好きな食べ物をリサーチすべく、トークでドンドン引き出したいね。


「少し眠いぐらいよ。体調は問題無いわ」


「それなら良かった。食欲はある?無ければ食べやすそうなものを持って来て貰おうね」


 食欲が無い時に無意識に選ぶ物が、実は好きって事もあるだろうからね。


「ふふっ、大丈夫よ?いつも通りの食事で平気よ」


 うっ、かわされたね。次は……


「えっと、リオは果物は好きかい?」


「カミル〜、下手過ぎ〜。バーちゃんに任せたら〜?」


「う〜ん、正直に言うならば、ボクもそう思うよ〜」


 うっ……シルビーにまで言われてしまえばそうなのだろうと諦めが付くな。人の好みを知るのは難しい事だと初めて知ったよ……


「ソラ、シルビー、何か知っているの?」


「えぇ〜……リオ、あれで分からないって凄いね〜」


「カミル、リオの天然に救われたね〜」


 本当、精霊ってハッキリ言うよね……まぁ、無駄な事は辞めて、今後の予定だけ相談しておこうかな。


「リオ、明日から婆やの家に行くのであれば、僕も顔を出したいんだけど、一緒に行くかい?」


「あー……えぇ〜っとぉー?」


「うわぁ〜、リオも下手へただったね〜」


「シルビー、オイラも初めて知ったよ〜」


 本当にね……こんな感じだったのかな?ちょっとショックだね。苦手な事は今度からやらない事にしよう。でも、リオの『秘密』は気になるねー?


「何か予定があったのかな?」


「爺やと相談をね?ほら、婆やの誕生日とか……?」


 師匠と相談するのは本当みたいだね。婆やの誕生日では無さそうだ。さすがの師匠も、リオに危ない事はさせないだろうから、ここまでは安心出来るね。


「リオ〜、後でオイラには教えてね〜」


「ボクも知りたい〜。リオ、後でお部屋でお話しするのにお邪魔しても良い〜?」


「あ!ズルいよシルビー!僕も久々にゆっくりと、リオとお話ししたいー」


「わ〜、カミルの心の声がダダ漏れだぁ〜」


「違うよシルビー。カミルの本当の心の声は、リオがドン引くレベルなんだよ〜。オイラ達が照れる程度のセリフは日常的に吐いてるよ〜」


「なるほど〜!確かにそうだね〜。さすが王子様〜」


「いやいや!ソラ、それは言い過ぎだからね?」

 

「アハハ。でも、遠からず〜、でしょ〜」


『カミル〜、ボクが偵察に行くよ〜。カミル居たら、内緒の話ししてくれないでしょ〜?ボクと王子様がカミルに話して良いって判断したら教えてあげるから〜』


 シルビーが念話で進言しんげんしてくれる。


『シルビー!ありがとう!確かにそうだね。話せない事なら、危険な事なのかだけ教えてね』


『りょ〜か〜い』


「ソラ、踏まなくて良い地雷を踏んでしまった感はあるけど、今日は今後の相談を師匠として来るからリオを任せたよ」


「ふぅ〜ん?まぁ、カミルが考えてる事なんて分かっちゃうけどね〜。今日は任されておくよ〜」


「それじゃあ、お部屋に戻りましょうか。お腹いっぱいになったのもあって、少しゆっくりしたいわ」


「おっけ〜。カミル〜、オイラがシルビーとリオを転移で連れて行くね〜。また明日〜」


「あ、うん……」


 僕が返事をする前に転移した様だ……ソラはとってもせっかちだよね?シルビーはどちらかと言うとのんびりしてるから、精霊だからって事では無くて、個々の性格なのだろう。ちょっと寂しさを感じつつ、師匠の元へ向かうのだった。

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