第119話 精霊が辛辣 ★カミル SIDE

 帝国でのスタンピードを終え、書類をまとめてから陛下の元へ報告へ行く予定だ。その前に、お互い汗を流して着替える事にしたので部屋に戻って来たのだった。


「おかえり、カミル〜」


「ただいま、シルビー。ごめんね、落ち着くまでもう少し待ってね」


 帝国の皇族しか精霊と契約出来ないと言う事実が僕によってくつがえされてしまうのだから、今の忙しい時期にシルビーの存在を発表すべきで無いと言う陛下の考えからだ。


「うん、大丈夫だよ〜!ボクの為だって分かってるよ」


「いや、僕の力不足が原因だよ。王国に精霊が2匹もいるってバレたら面倒だと言う父上の言葉をくつがえす事が出来なかった僕が悪い」


「カミルは完璧主義者ってヤツなの〜?どんなに時間が掛かっても、帝国の皇帝が帰ったら普通に行動出来るんでしょ〜?それぐらいは待てるし、気にしないよ〜?」


「あ……そうだな。自分だけで解決しようとするのは悪い癖だって、リオにも言われたんだったよ。シルビー、少しの間は帝国へ連れて行ってあげられないけど、いつか一緒に帝国へ行こうね」


「うん!楽しみにしてるね〜。カミル、ボクにもっと頼って良いんだからね〜?これまでとは違って、リオもボクも絶対にカミルの味方なんだからね〜」


「あぁ、ありがとうシルビー。君が僕の相棒でとても幸せだよ。この出逢いに感謝するよ」


「うん。ボクも出逢いに感謝してるよ〜。さぁ、お風呂に入って来なよ〜」


「あぁ、行って来るね」


 ⭐︎⭐︎⭐︎


 ふぅ、汗を流してさっぱりとしたら喉が渇いたので水差しの水をゴクゴクと飲んでいると、コンコンと扉をノックする音に振り向く。


「誰かな?」


「ジーちゃんだ」


「師匠?どうぞ」


 ひょっこりと顔を出した師匠は嬉しそうだ。子供の様な人だから、こういう時の感情は読みやすい。


「カミル、嬢ちゃんに頼まれとった箱が出来たから持って来たんじゃが、嬢ちゃんは風呂に入ってる可能性があると言われたからお主の所に来たぞ」


「あぁ!『黒いモヤ』を通さないから安全に魔道具を運べる箱ですね」


「うむ、それじゃ。嬢ちゃんは本当に先が見えているのでは?と思う時があるのぉ。ワシと今いる魔導師だけで作れる物しか言うて来んしなぁ?」


偶々たまたまだと思いますけどね?リオも万能では無いと、ちゃんと僕らが思っていなければ皆で頼り過ぎてしまう」


「そうじゃな。女子おなごはワシらからすれば、守るべき対象でしか無い。女子に守られていては男がすたるからな!ホッホッホ」


「そうですね。僕達もしっかり働かなければ。サポート程度になると思いますけどね」


「スタンピード中は仕方あるまい。嬢ちゃんの得意分野だからのぉ」


「そうですね……」


「どうしたんじゃ?元気が無いのぉ?」


「えぇ、話せない事が多過ぎて……相談するにも難しい内容が多くて困ってますね」


「魔道具関連での事かのぉ?」


「はい。話してはいけない事を話しても、勝手に口をつぐむ魔法で、喋る事は出来ないらしいので安心ではあるのですが……リオの事を相談出来るのがコテツ殿だけでは心配で」


「コテツ殿……の事は、ワシが聞いても大丈夫の様だから、話せる所まで話して見るが良い。ワシは嬢ちゃんの保護者だからのぉ?ホッホッホ」


「そうですね。つまんで話すなら、今回の元凶にリオが会いに行きたいと思っている様です。婆や、皇女、ソラ達もそうだろうと言っていました」


「なるほど……その元凶は何処におるんじゃ?」


「帝国の教会の地下……あれ?これは話して良いんだ?」


「嬢ちゃんを守るのは当たり前だと言う見解かのぉ?嬢ちゃんはこの世界の救世主なのじゃろう?」


「はい、その様ですね。リオが中心となって解決するのが前提となっているのだろうと推測します。ですので、そこへ行って確認したいと言うリオの願いは……」


「叶えてやるべきだと分かっておるのではないか……まぁ、気持ちは分かるがな。わざわざ元凶の下へ愛しい女子を連れて行く男はおるまい」


「そうなのです。誰かに聞いて貰って、同調して欲しかっただけなのだと分かっているのですが……僕は彼女を最前線に立たせなければならない立場で。その立場故に愚痴すら言えない」


「そうだのぉ。ただ言える事は、嬢ちゃんが前線に立たなければ、この世界は終わりを迎えてしまうのじゃろう?失う怖さも、世界が終われば同じじゃて」


「分かってます……でも、やっぱり心が追い付かなくて。結局、最終的にはリオにやって貰う事になるのに」


「それで良いんじゃよ。カミルがちゃんと人の心を持っていたと言う事が分かって何よりじゃ。アッサリと『行っておいで』なんて言う王様には仕えたく無いからのぉ?ホッホッホ」


「あぁ、そうですね。リオにだから感じるのかも知れませんが、この気持ちはリオが自分より大事だから感じる気持ちなのですね」


「今は血も涙も無い冷徹な王太子だと、世間には言われるかも知れないが、それでも世界を守る為に戦った2人を知る我々や帝国は、お主ら2人を英雄とたたえるだろう」


「ははっ。リオは嫌がりそうですね。僕も、リオが居れば何も要らない。リオがこの世界に来て良かったと思える人生を送らせてあげたい。ただそれだけなのです」


「それで良い。その為に、住みやすい王国をと働けば良いのじゃからな。動機なんて不純ふじゅんでいいのじゃよ。ホッホッホ」


「ふふっ。それだけでは駄目だと思いますが、気持ちは楽になりました。師匠、ありがとうございました」


「あぁ、構わないが、カミルはもっと周りを頼って良いと思うぞ?」


「はい。相談出来る、しっかりとした信頼関係を……」

 

「そういう所だよ〜、カミル〜。もっと気軽に生きたら良いよ〜」


「ホッホッホ。その通りじゃのぉ、シルビー。カミルのパートナーとして最適な相棒じゃのぉ。ホッホッホ」


「えへへ〜。そうだと嬉しいな〜。これからも頑張ってカミルをサポートするよ〜」


「ふふっ。よろしく頼むね、シルビー」


「任せといて〜!あ、王子様が準備出来たかって〜」


「あぁ、今迎えに行くって伝えてくれるかい?師匠、謁見に行きますが……」


「行って来ると良い。ワシはデュークがいない分、魔導師団の団員に、指示を出す必要があるからのぉ」

 

 ⭐︎⭐︎⭐︎


「国王陛下に……」


「良い良い、早よぉ座りなさい」


 相変わらず挨拶をさせてくれない陛下に呆れつつ、陛下専用の応接間のソファにリオと並んで座る。


「リオよ、調子はどうだい?」


「はい、陛下。私はとても元気ですわ」


「それは良かった。帝国は楽しかったかい?」


「はい。新しい出逢いもありましたし、『練習装置』も役に立ってくれそうで良かったです」


「クックッ。相変わらずだな、可愛い義娘むすめよ。カミル、調子は良さそうだな?」


「はい、問題無く進んでおります。この度のスタンピードは魔物150万匹前後を30分で、防御壁を帝国の魔導師団とデューク達で張り巡らせ、リオが上級魔法のみで殲滅致しました」


「はぁ……まぁ、何匹来ようが関係無いんだろう?硬い壁とリオが居れば、スタンピードは脅威きょういでは無くなりそうだものな……」


「はい。女神様もそう仰っておりました。リオが居れば、スタンピードなんて恐れる必要は無いと」


「リオ、今回も良く働いてくれたね。6日後にもあるらしいが、スタンピードが来なくなるまで手伝うつもりなのかい?」


「はい。乗りかかった船なので、最後まで責任を持って取り組もうと思っております」


「そうかそうか。お前達が怪我など無く終わらせてくれるなら、それに越した事は無いからなぁ。帝国の民も助かるのだから、動くだけの価値はあると思っておる」


「あ……ごめんなさい。王国の事を一生懸命やった方が良いですよね?」


「いやいや。今回も、王国側としては利はあるからな。リオは無茶をし過ぎない程度に、好きに動くが良い」


「そうだよ、リオ。リオは気にせずにやりたい様にやって大丈夫だからね。駄目な時や相談したい時は、ちゃんと僕が一旦止めるから安心して良いよ」


「ふふっ、分かったわカミル。信用してるからね」


「あぁ、勿論だよ。それで、次のスタンピードの話しは今日やった事とやるべき事は変わらないから問題無いと思われます。そして、今日の報告書は……」


「書いておいたわ。はい、これね」


 相変わらず仕事が早いね……僕なんてシルビーや師匠と話しをしてるだけで呼ばれてしまったのに。


「クックッ、その反応はリオの手際の良さに驚いたんだな?この前もカミルが知らないうちに書き終えていたな」


「私の取り柄なんて、それぐらいですから」


「相変わらずだね〜。リオはどうやったら自信がつくんだろうね〜?」


「本当にね〜。どう考えても、取り柄しか無いのにね〜」


「ソラ、シルビー。言いたい事は良く分かるんだけどね。リオはそのままでも良いかなって、僕は思ってるよ」


「どうして〜?」


「リオは王太子妃になる事も、王妃になる事も決まっているだろう?自分を過信せず、慎重に物事を進めるのは大事な事だからね。それに出来ない事は努力してくれる。何でも頑張って達成するぞと言う、その気概は大事だと思うんだ」


「あぁ〜、なるほど〜?下手な自信を持たせるより、今のリオの方が頑張れそうだね〜」


「カミル凄い〜!リオの事もしっかり見てるんだね〜。リオの性格だと、それが良さげ〜」


「そう?ふふっ。ありがとう、シルビー」


「お前達は仲良しだな……王様、ちょっと寂しい……」


「王様〜、ボクは王様も大好きだよ〜」


「オイラも〜」


 シルビーは優しいなぁ。ソラのは完全にリップサービスだね。同じ精霊でも、こんなに性格が違うものなんだねー。


「さて、そろそろ戻ります。リオは疲れたでしょう?今日は早めに横になると良いよ」


「えぇ、そうさせて貰うわ。少しだけど眠いのよね」


「おぉ、それは早めに休んだ方が良いな。気付かないうちに疲れて居る事は良くあるからね」


「はい、ありがとうございます。おやすみなさい、陛下。カミルもおやすみ」


「あぁ、おやすみリオ。良い夢を」


「ゆっくり休んでね、リオ。また明日」


 リオはソラの転移魔法で部屋まで飛んだ様だ。ソラは去り際に、シルビーと手を振り合っていた。可愛いな。


「それでは僕らも失礼します」


「クックッ、お前は扉から帰るんだな?」


「えぇ、一応、僕だけでも礼儀を尽くそうかと」


「あはははは!お前とリオは気にせずとも良い良い。2人とも、ただでさえ忙しいんだからな。王より働いてるのだから、気を使う必要は無いぞ?」


「ありがたき幸せ……早めに動いて、帝国に貸しを作りたいのは陛下も同じでしょうからね?ふふっ」


「まぁ、国を守る為だからなぁ。攻めるつもりは無いが、攻められた時の切り札は必要だからな」


「はい。その通りだと思います。ジャンは信用出来る男だとは思いますが、ちょっと頼りないので保険ですね」


「はぁ〜……カミルに任せて置けば問題は無さそうだ」


「そんな事はありませんからね?陛下もちゃんと仕事してください。不在にしていても書類仕事はやってますからね?今回、少し多くありませんでしたか?」


「凄いな……リオも書類仕事は早いから、2人で終わらせてくれても良いんだぞ?」


「冗談はよしてください。アラン兄上の分まで僕がやってるんですから、これ以上増やさないでくださいよ。帝国の問題が片付いたら、リオとデートする予定なんですから、絶対に邪魔しないでくださいね!」


「ほぉ……?それは楽しそうだのぉ。ワシも連れてけ?」


「師匠……相変わらず、陛下の応接室は師匠にかかるともろいですね……」


「許してやってくれよ、カミル。お前達が日々忙しいから、婆さんに文句言われて大変らしいぞ?」


「あぁ、近々婆やの所にも2人で顔を出しますよ」


「よろしく頼むよ。私の所にまで婆さんからリオを返せと手紙が来たからな……」


「…………皆んなリオが大好きなんですね。僕、嫉妬しっとしちゃうなぁー」


「仕方なかろうて。嬢ちゃんは『特別』だからのぉ」


「あぁ、き付ける何かがあるよな」


「はぁ、それじゃあ仕方ないですが……2人の時間も欲しいので、その時は手伝ってくださいよ?」


「分かっておる」


「勿論じゃ」


 大きく頷く2人が本当に分かってくれたのか不安ではあるが、この2人に何を言っても無駄だと知っているので、僕も部屋に帰って寝ようと思うよ……

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