第116話 初めましてのご挨拶 ★カミル SIDE

 リオの手料理を堪能し、『リョクチャ』でホッと一息吐いていると、コテツ殿の気配を感じた。彼を知ったから感じ取れる様になったのか、彼がわざとやってるのかは不明だが。


「リオ、ご飯を食べたから眠くなったんだけど、少しお昼寝して来ても良いかな?」


「えぇ、勿論よ。カミルは普段から忙しいんたから、寝られる時に寝ておいた方が良いと思うわ」


「ありがとう。良かったら一緒にお昼寝しないかい?」


「そうね、少し疲れたし、キッチンを片付けてからお昼寝しようかしら?」


「じゃあ、先に行ってて良いかな?」


「えぇ、おやすみなさいカミル」


 コテツ殿に会うという目的も勿論あるが、リオと同じ部屋で、それも添い寝出来るならと思って誘ってみたんだけどね。ちょっとリオは無防備なんだよなぁ……でも、部屋に来てから気付く可能性はあるね?


『ソラ、リオが部屋に来たら、ベッドがひとつしか無い事に気付いて恥ずかしがる可能性があるから、安全に眠らせてあげてくれるかい?僕はコテツ殿の所で待とうと思う』


『あ〜、そうだね〜。りょ〜かい!眠らせて、カミルの居る場所に飛ばすね〜』


『よろしくね』


 キッチンを後にしてさっき起きた部屋へ向かう。リオの事はリオを大好きなソラに任せておけば安心だろう。変な場所で眠らせて、風邪でも引いたら大変だからね。


「カミル〜、ボクはカミルを眠らせたら良いの〜?」


 ベッドで横になろうとしている僕に、シルビーが話し掛ける。


「うん、よろしくねシルビー。コテツ殿、そこに居るのでしょう?夢でお待ちしてますね」


 リオが横になるスペースを確保して、ベッドの少し奥側で目を瞑った。


『ほぉ。それがしの気配を察知するか。そなたも剣を嗜む……って、そういえばやっていたね』


『先程振りですね、コテツ殿。確かに僕も剣を扱いますが、魔法の方が威力はありますよ。デュルギス王国の王族は魔力が強いので、僕は魔剣士なのです』


『ふむ。某に肉体があれば剣の稽古をつけてあげるのにね。そうだ、そなたは忍者を知ってたりするかい?』


『いいえ。『ニンジャ』とは人物名ですか?それとも職業ですか?』


 この世界では聞いた事の無い言葉だから、恐らくあちらの世界の言葉なのだろうね。


『こちらで言う『影』ね。忍んで行動したりと、隠密行動が得意だから諜報も出来る人達ね』


『やぁ、リオ。さっきは美味しいご飯をありがとう。リオも『ニンジャ』を知っているのかい?』


『うーん、知識として知っているだけね。私の時代には、既に『侍』も『忍者』も居なかったのよ』


『あぁ、そういえばさっき言ってたね。コテツ殿、貴方が生きた時代は何時代なのですか?』


『それなんだが……簡単に言えば、何時代かは生きてる人間には分からない事が多いんだよなぁ。我々が死んだ後に、あの時代は〇〇時代と名付けようって決めたみたいなんだ』


『あぁ、聞いた事がありますね。何年からその時代なのか曖昧だったりもしたのですよね』


『そうなのだよ。そして初めまして、某の子孫よ』


『初めまして、私は神木莉央と申します』


『某は平虎鉄と申す』


苗字みょうじが『平』だから平氏の方ですか?』


『あ、いや…… 某の時代には既に平家は滅びておったからなぁ?平と名乗っていたのは、職場に同じ『コテツ』という名前の者がおったからで。某が平地に住んでいたから『タイラのコテツ』、もう1人は丘の上に住んでいたから『オカノウエノコテツ』と呼ばれていたのだ』


『平家が滅びていた事しか分からないのであれば、細かい時代は分からないですね』


『某の生きた時代に何か問題があったのかい?』


『コテツさんの生きていた時代が江戸時代だったとすれば、私の生まれる随分前なのですよ。150年より前が江戸時代なので、コテツさんの年代の感覚とは違うんです。私が玄孫と仰っていらしたとお聞きしましたが、私はもう少し後に生まれたのかも知れませんね』


『凄いね。えっと、莉央だったかな?某の時代には無い知識量だね。学舎まなびやの先生が素晴らしかったのかな?』


『えっと、私の時代は知りたい事を誰でも調べる事が出来たのです。パソコンとかスマホという機械があって、知りたい事を書けば調べられたり、誰かが教えてくれたりもしましたし。私のは自分の知りたい事を好きで調べていたから知ってるだけですよ』


『へぇー、リオは本を読むのが好きだとは思っていたけど、知る事が好きだったんだね!調べたり、文字を読むのが速いとは思っていたけど、経験からなんだろうね』


『確かに慣れかしらね。私の時代は、娯楽用の漫画や小説……本が沢山あったのよ。分からない事はそのままにして置くのが嫌だっただけなんだけどね』


 それはよく分かる。僕も分からない事は早めに解決したくなるし、師匠やデュークに聞いたりして情報を集めたりするからね。


『ほぉ……それで、知識欲の旺盛な君達は何を知りたいのかな?』


『あ、いいえ。近くにコテツ殿の気配がしたので、折角ですし、リオともお身内と言う事でしたから、一度2人で挨拶しておいた方が良いのかなぁと思っただけですよ』


『そうですね。私としては、コテツさんが辻斬りをやってた訳でも無く、まともに働いていらしたと知れたなら満足ですわ』


『某は辻斬りなどせぬよ……襲って来た辻斬りを成敗せいばいした事は何度もあるけどね』


『コテツさんは剣もお強かったのでしょうね。立ち姿が剣道を習っていた父と似ていますし』


『リオの父上も剣を嗜んでいらっしゃったの?』


『うーん、私の時代は真剣は使わなかったけどね。竹刀しないや木刀を使って練習していたわ。『居合斬り』で真剣を扱う人は居たけど、斬るのは藁を巻いた竹だったわね』


『あぁ、巻いた藁は肉、竹は骨の硬さに似ているからだろうね。人を斬らない時代になったのなら良かったよ』


『へぇー、そう言う理由があったんですね!私も剣道を習えば良かったかな〜?まぁ、この世界で双剣使って戦えてるから良いんですけどね』


『これから忙しくなるけど、結婚して時間が出来たら、剣術を基礎から学んでみるかい?僕も一緒に稽古しようかな』


『某が稽古をつけたかったなぁ……肉体が無いから何もしてあげられないのが残念だ。某の魂と子孫なのにね』


『今回の魔道具の件でお手伝い頂けるだけでありがたいですよ。コテツさんの子なら、私の血縁関係にもなるんでしょうしね?』


『あぁ、そうなんだ。今回、あの子が暴走したら、莉央の『純白の魔力』と『聖女スキル』が必要になる。これは莉央じゃないと無理なんだよ。某の子孫だからと言って強い魔力を持ってるとも限らないし、『純白の魔力』を持ってる人間になるとは限らないからね』


『リオは聖女として選ばれた人間って事ですか?』


『そうなるね。女神が言うには、某の血筋の魔力がこの世界に合っているから召喚させたと。そして、この世界に合う『純白の魔力』を持つ人間はまれだと』


『私が解決させなきゃ駄目なんですね……そこまで女神様の期待を背負ってるなら……』


『いや、そうでも無いから、そこまで自分を追い詰めるで無い。今回は生まれ変わった魂のカミルとも話しが出来たし、何度も繰り返し見て来た歴史とは変わって来ているからな』


『え?コテツさんはこの世界が何度か時間を遡った事を覚えているのですか?』


『そうだよ?某は違う世界に居るからか、客観的にこの世界を見学出来るらしい。ただ、儚くはかななってからは女神と話したり出来ないからもどかしかったんだよね』


『知り得る人間が少ないから、助言出来る者も少ないって事ですよね。あ、じゃあ、ユーグ達もかしら……?』


『どうだろうね?某はカミルの近くか莉央の近くしか彷徨えないみたいでね。あぁ、イナリの近くも見えるよ』


『なるほど、コテツ殿が情報通だったのは移動出来るからでもあったのですね……コテツ殿、早朝と夕方以降はリオの近くには寄らないでくださいね?』


『そんなに冷たい目で睨まなくても、湯浴みを覗いたりはしないから安心したまえ。某は妻にしか興味が無いし、何も感じないからね』


『本当に一途でいらっしゃるのですね。奥方様はお幸せでしたでしょうね』


『最後まで守ってあげられなかった男だからね……幸せに出来たのなら良かったんだがね』


 何となく分かるかな。愛する人には最後まで幸せで居て欲しいと思うもんね。そして、幸せにするのは自分でありたいと強く思う。


『まぁ、幸せだったかなんて、それこそ御本人にしか分からない事ですし。コテツ殿がそう想って暮らしていた事実が大事なのでは?』


『あぁ、そうだね。ありがとう、カミル。君達が生きる世界の為にも、今度こそ魔道具を作れない様にする事が最優先だしね』


 3人は顔を見合わせて頷き合った。愛する人達の生きているこの世界の未来のために、全力で進めて行こうと思ったのだった。

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