第86話 擬態魔法とモフモフ ★リオ SIDE
翌朝、私はスッキリと目覚める事が出来た。昨日までの不調が嘘の様だ。王様とソラのお陰ね。今日は擬態魔法を完璧にマスターするわよ!
「おはようございます!」
「リオちゃん、おはよう。元気になったみたいねぇ。本当に良かったわぁ」
「おはよう、リオ。やる気に満ちておるな?クックッ」
「婆や、心配かけたわね。もう大丈夫よ。王様、御指導よろしくお願いします!」
「リオは朝から元気だね〜。最終的に何を目指してるのさ〜?」
「特に何かを目指してる訳では無いわよ?折角の異世界だもの。何でもチャレンジしてみたいじゃない?」
「好奇心旺盛な事は良い事だ。こちらの世界のニンゲンですら、精霊魔法を使えるニンゲンは少ないからな。既に亜空間を作れる様だし、恐らく難しくは無いだろう」
「リオちゃんの亜空間は綺麗よねぇ。ステンドグラスの扉なんて、とても素敵だわぁ」
「取っ手だけ浮いてるけどね〜」
「ソラ!それは言わないのー!ちょっと気にしてるんだからね……?ふふっ」
「気になるなら作り直せば良かろう?」
「いえ、何気に気に入ってるからこのままで良いんです。初めてソラと一緒に作った亜空間ですからね」
初めて亜空間を作った時を思い出して、つい口元が緩んでしまう。
「そうかそうか。それも良き想い出になるな。さて、それでは擬態魔法の訓練を始めようか」
「「よろしくお願いします」」
「先ずは、己の魔力を、体を纏えるぐらいの量……
私も婆やも直ぐに一抱え程度の魔力を目の前に出した。爺やのお陰で、自分の魔力を扱うのにも随分と慣れたわね。
「さすがだな。これなら直ぐに出来る様になりそうだ。次は、その魔力でなりたい動物を形作ってくれるか?」
「えぇ――――!私、本当に絵心が無いのよ……」
可愛い動物になりたいのに、私の絵心では何に擬態したのか分からなくなるのでは……?ちょっと焦ってしまう。
「リオ、イメージは出来るでしょ〜?頭の中でイメージしたまんまを魔力に投影する感じだよ〜」
「動物を想像して……魔力に投影!そりゃっ!」
良かった、動物の形にはちゃんとなってるわね。
「お〜、やっぱり描かなければ何とかなるんだね〜」
うっ。ソラ、辛辣ねぇ……でも動物の形を作れると分かったからちょっと安心したわ。ソラは説明が上手いわよね。
「婆やのはトラ?」
「そうよぉ。リオちゃんのは翼の生えた猫ちゃんねぇ」
「飛行魔法使うなら、翼があった方が良いかなって」
「可愛いわぁ。猫ちゃんになったリオちゃんを膝に乗せたいわねぇ。カミルちゃんも乗せたいって言いそうよね?ふふふ」
「ふふっ、そうですね。目の前で変身してみせたら驚くかしらね?固まってるカミルとデュークが目に浮かぶわ。ふふふっ」
精霊界で何をして来たんだと言われそうだけどね。ちゃんと体調も良くなってるし、怒られはしないかな?新しく出来る事が増えるのは楽しいから仕方ないよね。
「そこまで順調に出来たのなら、後はそれを纏うだけなのだが、大きさもイメージしながら纏わないと、ニンゲンのサイズになるぞ?」
「ソラぐらいの大きさが、精霊達の普通の大きさ?」
「オイラより一回り小さい子が多いかな〜。精霊は魔力の強さも比例するからね〜」
「そうなのね、分かったわ。纏う……着ぐるみに入るイメージで良いのかしらねぇ?」
まぁ、やってみましょ。うんしょ、うんしょ……で、ギューっと小さく……どうかしら?王様を見ると、驚いた顔をしていた。狐さんでも驚く顔になるのね……
「り、リオ……纏ってから小さくなったよな?凄いな」
「まぁ!リオちゃん、凄いわぁ!ちゃんと可愛らしいサイズの黒猫ちゃんになってるわよぉ。婆は上手く出来なかったわぁ」
「シア、それが普通だ。リオが凄いだけだ……本当に、普段もイメージだけで魔法を使ってるんだな?」
「えぇ、そうです。逆に、イメージ出来ない物は全く出来ないのですけどね……」
「ほぅ……リオ、混合魔法は使えるよな?もしかしたら魔法を作れるのでは無いか?」
「混合魔法は使えますが、魔法を作りたい時は、爺やが居る場所で、と約束してるので……」
「あぁ、なるほど……既に爺さん達が対策済みなのか」
「私、何もやらかしませんよ?」
「あぁ……魔力が強いからな、用心してるのだろうな?気にしてくれる仲間がいて良かったなぁ?」
精霊王がスゥーッと視線を逸らして遠くを見つめる。わざとらしいわね……まぁ、違う意味で色々やらかすつもりだから、
「リオよ、一度魔法を解いて、再度掛け直してみてくれるか?」
「違う動物でも良いかしら?」
「あぁ、なんでも構わんよ。楽しいなら色々擬態して見ると良い。練習にもなるからな」
私は鳥になったり、ウサギになったりと楽しく練習する事が出来た。あまりに調子に乗り過ぎて、後半はちょっとクラクラしたわ……魔力残量には注意しないとね。
「リオ、擬態魔法は、最初に決まった量の魔力を出すだろう?他の魔法とは違って、普段より魔力を使うから注意するんだぞ?一度擬態して長い間維持するだけなら問題無いがな。リオの魔力回復スピードなら、自然回復で余裕だろう」
「はい、気をつけます……擬態魔法も、慣れたら魔力量は少なくて済んだりしますか?」
「減らさない方が安定しやすいぞ?どうしても減らしたいと言うのであれば、姿を最初から小さくする必要があるから、オススメは出来ないな」
「なるほど。まぁ、当日は擬態しっぱなしでしょうし?練習の時以外は問題無いですね」
「向上心があるのは良い事だが、無理は良くないからな?己の限界もしっかり知る必要がある」
「確かに……では、擬態したまま飛行魔法を使う練習もしておいた方が良さそうですよね」
「そうだな。だが、随分と魔力が減ってるから、今日は少し休んだ方が良いぞ?」
「はい。作戦決行するのはいつになりそうですか?」
「こちらの時間で明後日の予定だな」
思ったよりまだ時間があるわね。
「では、明日は擬態しながらの飛行訓練をしますね」
「うむ、よろしく頼む。これから少し皇太子と帝国について話そうと思うが……」
「何か重要な事が?」
「リオは魔物を見た事があるか?」
「スタンピードで倒したので、じっくりとは見てませんが、見た事はあります」
「ふむ……近くに魔物が100匹いきなり現れたら、リオならどうする?」
「隠密魔法を掛けて、飛行魔法で空から確認しつつ、中級魔法で倒します」
「何故、中級魔法なのだ?」
「スタンピードで上級は使いましたが、周りに甚大なダメージを残しますよね?草木が生えていれば焼け野原になりますし、土だったとしても、クレーターの様な穴が沢山出来ましたから」
「そうか。それだけ考えられるなら良い。ただな、焦ると人は魔法を暴発させたりするのだ。出来るだけ威力の弱い魔法の精度を上げる練習を、日頃から忘れてはならんぞ」
「はい……戻ったら、その様にします」
何か懸念があるのだろうか?精霊王は思案する仕草を見せてから視線を合わせた。
「いいか、リオ。今回の騒動にはニンゲンが絡んでる可能性が高い。ニンゲンは、ニンゲンに向かって魔法を使う事は禁忌とされているのは知っておるな?」
「はい。爺やとデュークに教えて貰いました」
「どうしても身を守らねばならなかったり、誰かを助ける為には魔法を使わねばならない時もあるだろう。そんな時、ニンゲン界に居づらくなったら、いつでも精霊界で保護してやろう。だから思い詰める事が無い様に……そして、自分の行動に恥じない生き方をするのだぞ?」
「はい、分かりました。お心遣い、ありがとうございます」
何を言いたいのか、ぼんやりだが分かった気はする。精霊王は私の心を案じてくれているのだろう。
「そうねぇ。婆の家で匿う事だって出来るからね。何かあったら、婆か王様に相談して欲しいわぁ」
「ふふっ、婆やもありがとう。そんな事にならない様に頑張ってみるけど、何かあったら相談するわね」
「あぁ、そうしなさい。リオは賢いし強い。しかし、心は脆く壊れやすいのがニンゲンだからな」
精霊王の過去には何か大きな出来事が起こったのだろうか?私達人間の事まで考えてくれる、優しい精霊なんだなぁと……その時はただ単に、そう思ったのだった。
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