第58話 親子の会話? ★カミル SIDE

 リオが目を覚ましてから5日経っていた。リオはすっかり元気になり、サイラスを伴って練習場へ向かったらしい。

 

 変わらぬ日々も大切にしたいと、今回の出来事で強く思う。そのためにも、前にリオが言っていた『戦闘メイド』を選ばねばなるまい。

 

 陛下に呼ばれていると、キースが慌しく書類を机の上に置き、謁見の準備をし始める。何か大事な用があるのだろうか?アラン兄上の処罰が決まったのかな?

 

 急ぎ陛下の元へ向かう。あれから僕にも普段から護衛騎士が数人つく事になった。執務室にいる間は扉の外で護衛しているらしい。

 

「陛下、第三王子カミルです」

 

「入れ」

 

 陛下は執務室のソファで紅茶を飲んでいた。いつものピリピリした空気は無く、穏やかなようだ。

 

「御用でしょうか」

 

「あぁ、リオ嬢を襲わせた侯爵だが、叩けば叩くだけ埃が出たらしく、やっと捕らえたらしい。……一族処刑は免れないが良いか?」

 

「陛下がお決めになられたのであれば、従います」

 

「相変わらずカミルは飄々ひょうひょうとしておるな」

 

「私の心を乱すのは、リオだけで充分ですので」

 

「くくっ、そこだけ変わったのか」

 

「王太子は完璧であれと……陛下が幼い頃から言い聞かせて来たのではありませんか……」

 

「ははっ、そうだったな。あぁ、そう言えば……爺さんがリオ嬢の後見人になったぞ」

 

「…………はぁっ!?」

 

「先日、爺さんから「ワシが後ろ盾になる」と言い出してな。王太子妃には彼女しか考えていないんだろう?」

 

「勿論です」

 

「丁度良いから、爺さんに任せる事にしたからな」

 

「はぁ……かしこまりました」

 

「あと、立太子の儀を来月末に行う予定だったが、アランの処分を先にする。再来月になるが良いか?」

 

「仕方ありませんね。リオのドレスを新しく仕立てる事にします」

 

「ブレないな……アランは国外追放にする予定だが、処刑が良かったか?」

 

「立太子する年に王族を処刑するのは如何かと……なので、当分は監禁して置くのはどうでしょうか?」

 

「国外にも出すなと?」

 

「アラン兄上の支持者はまだ多いですからね。匿われでもしたら面倒ですし、婚約者の事もあるでしょう?」

 

「うむ。良く分かっておるな」

 

「ですので、アラン兄上を見なくなり、会えなくなったのだと理解させ、その者達が落ち着いてから行動した方が安全且つ迅速に物事を進められるかと」

 

「お前はそれで良いのか?」

 

「えぇ、構いません」

 

「私がアランに慈悲を与えると思う人間も出て来る」

 

「立太子の儀と結婚式が終われば、誰も何も言えなくなるでしょう?私にはそれだけの権限が与えられる」

 

「自信があるのだな?うむ、その件はそれで良いだろう。カミル、結婚式はどうするのだ?プロポーズはしたのか?」

 

「いえ……あんな事があったばかりですし……」

 

「リオ嬢は素晴らしい女性だ。早くしないとさらわれるぞ?」

 

 ガハハと陛下に揶揄からかわれる。分かっているのだが、臆病になってしまう。リオの事に関してだけは思い通りに行動出来ない自分にため息を吐く。

 

「デュークもリオ嬢を気に入ってたな?爺さんもだが、あれは年齢的に祖父と孫ほど離れてるからな……これからリオ嬢の価値は更に上がる。『大聖女』の称号を得た事も発表するのだからな」

 

「精霊の件はどうなさるのですか?」

 

「発表せずともいずれバレるだろうが、危険過ぎるからな……隣国が欲しがるだろう?あそこは精霊信仰が盛んだ。リオ嬢の存在は、あの国にとって神以上の価値がある」

 

「そうですね。完全にバレるまでは隠せたらと思っています。リオは普段、ソラを連れて歩きません。連れて歩く時は隠密魔法をソラにかけているようです」

 

「本当に素晴らしい嫁だな……言わずとも理解し行動する事は、誰にでも出来る事では無い」

 

「リオの基準は、国や民、私達が混乱せずに穏やかに暮らせる事ですから。リオ自身が穏やかに暮らしたいと思ってくれているのでしょう。表では私を立て、裏では私を支えようと努力してくれています」

 

「早くに子を授かると良いな。側妃は争いの元になる」

 

「えぇ。我が国も出生率は低いですからね……少なくとも、20年間は側妃を娶る気はありません。私が70歳になるまでは……」

 

「そうだな。側妃の問題は必ず誰かが言い出すだろう。カミルがリオ嬢を溺愛していると噂は流しておくが、お前もしっかり彼女を捕まえておくのだぞ?」

 

「言われるまでもありません」

 

「ははは!では早くプロポーズして、結婚式の日取りを決めなさい。王太子の結婚には準備に時間がかかるのだからな。どんなに急いでも半年はかかる」

 

「はい……」

 

「ん?何だ、迷っているのか?」

 

「いいえ!私の伴侶はんりょにはリオしかいませんし、後の王妃としてもリオ以上の者は出て来ないでしょう。私が意気地なしってだけです……」

 

「怖いのか。ほぉ、とても良い傾向だな」

 

「えっ?良い傾向、ですか?」

 

「王というのはな、身内だろうが腹心だろうが切らねばならぬ時がある。今回のアランがそうだな。カミルの周りは優秀な者が多いし、カミル自身が賢いから、裏切られた事も無いだろう?それ自体は良い事だが、全く経験が無いのも困る。相手に振り回されたり、悩んだり、割り切れない事をもっと経験しなければ、良い王にはなれんのだ。お前は私が出した難問や課題も、平然とした顔で完璧にクリアしてしまう。賢過ぎるのも考えものだと思っておったのだよ」

 

「父上、僕はリオが刺された日の夜、40年ぶりに泣きました。手の温もりに触れ、生きている喜びに泣き、失うかも知れなかった恐怖に泣き、守りきれなかった不甲斐ふがい無さ、悔しさに涙しました。自分の感情が抑え切れない事実に驚きました」

 

「そうかそうか。彼女はお前の心を揺さ振れる、唯一の人なのだな。それにしても、40年も泣いて無かった事に驚いたけどな……」

 

「昔、母上が仰っていました……自分の頭で考えなくても、心動かされる事があるのだと……」

 

「ふむ、王妃も危惧きぐしておったか。王妃は心の機微を捉えるのが上手くてな……カミルにも知って欲しかったのだろうな」

 

「えぇ……そうですね。私も腹をくくります。早くに結婚する事は、リオを守る事にもなりますし」

 

「そうだぞ。守りたければ行動するしか無い」

 

「あ!そうだった。リオに『戦闘メイド』をつけたいのですが、良い人物はいませんか?」

 

「そうだな、今回の事があったしな。私から優秀な女性の影か諜報員で戦闘の出来る者を、リオ嬢に褒美として授けよう」

 

「ありがとうございます!」

 

「お前と一緒で、褒美なぞ要らんと言われそうだからな……お前が選ぶか?」

 

「宜しいのですか?」

 

「あぁ。リオ嬢との相性もあるだろう」

 

「そうですね。長い時間を共に過ごすのですから、リオが気に入る人物を選びたいと思います」

 

 それから数人の女性の影と会った。顔半分は布で隠されているから分からないが、性格や話し方で1人に絞り込む。

 

「彼女にします」

 

「リューか、良いだろう。リューよ、今この時点をもって、カミルの婚約者であるリオ=カミキの『戦闘メイド』に任命する。異論は無いか?」

 

「異存ありません。光栄で御座います。我が主を、命をしてお守りいたします」

 

「よろしく頼むぞ。我が国の宝となる人物だ」

 

「はっ!」


 僕が王太子になる事で、リオにも負担が増えるからね。専属騎士であるサイラスと、上手く連携をとって頑張って欲しいね。補佐官や執事も必要になるだろうけど、それはもう少し待ってもらおう。しっかり厳選してから任命したいからね。

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