第47話 潜む敵 ★カミル SIDE

 パーティー会場には既に沢山の人が居た。主役のアルフォンス兄上とマイ様の周りは人だらけで、近寄れそうにも無かった。兄上達への挨拶は後にして、リズと公爵閣下を見つけたのでそちらに向かう。

 

「ごきげんよう、リズ、公爵閣下」

 

「ごきげんよう、リオ、カミル殿下」

 

 2人が仲良く微笑み合っているのを見て和む。

 

「殿下、ご機嫌麗しく……」

 

「あぁ。公爵も元気そうだね」


「えぇ、何も無くて安心しました」


「あぁ……そうだね、今のところはね……」


「何かございましたか?」


「後でデュークか陛下に聞いて貰えるかい?僕から話しても良いんだが……主観が入り過ぎていそうだからね」


「あぁ、なるほど。彼女絡みですか。敵も見る目がありますなぁ……」


「公爵もね……僕が何も言わなくても全部察したんじゃないかと思わせる発言だね……」


「ほっほっ、何年殿下を見て来たとお思いですか?何事にも揺らがない殿下が唯一、心を動かす女性なら存じ上げておりますのでね?ほっほっ」


「君達親子には、叶う気がしないよ……」


 僕は公爵と話をしながら周りを窺う。リオとリズの方を向いてる男達は数人居るが、ただ話し掛けるタイミングを伺っているだけの様だ。2人とも婚約者が居るのにモテるんだよなぁ……リオは全く気付いて無いけども。


「あぁ、宰相が出て来ましたね。そろそろ陛下がお出ましになられるのでしょう」


「あぁ、本当だね。早く挨拶して戻らなければ」


「ほっほっ、過保護ですなぁ」


「実力は彼女の方が上なんだけどね……僕が守ると言い切れたらカッコ良いんだろうけど、下手な博打は打ちたく無いんだよ」


「えぇ、それが賢明でしょう。まだ、彼女の価値に気付いて居ない者も多いようですが。今後陛下が発表なさるなら間違い無く注目され、危険な目にも会う確率は上がりますからな……」


「そうだね。公爵閣下、頼りにしてるからね?」


「勿論、私に出来る事でしたらいくらでも」


「ありがとう」


 口角を上げ、ニヤッと笑った公爵は男前だ。臣下の中でも忠誠が厚いエイカー公爵家の事は、陛下は勿論、僕も信用している。リズと幼馴染って事もあるが、幼少期から見て来た人物で、人柄なども知っているからね。


「陛下がお話になるようだね」


「そのようですなぁ……ん?全く声が届きませんね?」


「おかしいねぇ?風魔法で音は拡散されてる筈なのだが?」


 パリーンとガラスが割れる様な音がする。慌ててリオの元へ向かい手を握る。何があっても一緒に居られるなら、少しは安心出来るからね。


 バタバタと騎士達が誰かを捕縛し、連れ出した。何があったのかは不明だが、危険な場所へリオを近づける訳にはいかない。デュークを見つけて何があったか聞いた方が安全だと判断した。


「殿下、私めが見て参りましょう」


「いや、リズの近くに居てやってくれるか?事によっては部屋から出た方が良いかも知れんしな」


「もう、犯人は捕縛された様ですが?」


「それがフェイクだったなら?」


「そこまで……まさか、敵は……」


「あぁ、その可能性が高い。だから念には念を、で頼むよ」


「かしこまりました。では、私はリズとおります」


「そうしてくれると安心出来るよ」


 公爵と視線を合わせて頷く。全てを言わなくても、勘の良い公爵なら、これまで尻尾を掴ませ無かった敵だと分かっただろう。何事も無くパーティーが終わってくれると良いのだが……


 願いも虚しく、僕とリオの周りに風が吹いた。屋内なのに、草原に居るかのような爽やかな風だ。僕とリオは構えるが、何も起こらなかった。


「何故だ!」


 少し離れた場所から焦った声が聞こえた。その方向を見ると、いつの間にか師匠とデュークが居た。「此奴じゃ」と声を出した男を指差してデュークに捕らえさせている。デュークがその男に魔封じを着けたのを見て、リオに声を掛ける。


「リオ、アレが魔封じだよ。腕に着けてるでしょう?」


「あれが……えっと、思ってたよりオシャレな感じね?」


「作ったのがデュークだからね……」


「あぁ、なるほどね。さすがと言うか……」


「言いたい事は分かるよ。基本的には犯罪者に着けるんだけど、魔力を制御出来ない子供も使う事があるからと、少しカッコ良くしたらしい。子供が嫌がって着けてくれなかったからと……」


「ふふっ、デューク様らしいわね。とても微笑ましい内容で良かったわ」


「あぁ。デュークは心優しい男だからな」


 リオと微笑んでいると、キースが近寄って来て耳元で「退出してください」と言って来た。ひとつ頷くと、リオを連れて廊下へ出る。


「どうかしたの?」


「キースが退出する様に言って来たんだ」


「…………私かカミルが狙われたの?」


「そこまで聞いて無いから分からないが、その可能性は高いね。部屋は心配だから、一旦は僕の執務室へ向かおうか。ここから近いしね」


「えぇ、分かったわ」


 僕とリオが執務室へ着くと、クリスが待っていた。紅茶を淹れてくれながら、キースに待つ様に言われたと教えてくれたが、肝心の内容は聞いていないらしい。


「殿下、お待たせしました」


 キースとデュークが困り顔で入って来る。その後ろに師匠が居た。


「カミルよ、狙われたのは嬢ちゃんじゃ」


「え?私ですか?」


「あぁ。ワシらが男を見つける前に、何か起こったかのぉ?」


「爽やかな風が、僕とリオを包みました」


「やはりなぁ。それは転移魔法じゃろう。何処かへ飛ばそうとした様じゃ。要は、嬢ちゃんをさらおうとした」


「えぇ?何故発動しなかったのですか?」


「魔力が足りなかったのじゃろう。誰かに魔法をかける場合、知らない相手なら、それ以上に魔力が無ければかからんのじゃよ。受け入れる体勢であれば別じゃがな?」


「なるほど……転移魔法って、人にも使えるのですね?知りませんでした」


「あれは、魔道具じゃよ。それも違法のな」


「えぇ?もしかして、持ってるだけで犯罪とか?」


「その通りじゃ。だから、問答無用でひっ捕えたわい」


「ありがとう、爺や」


「礼ならカミルに言ってやりなさい」


「え?僕は何もしてませんが……」


「嬢ちゃんの手を握っておったじゃろう?」


「確かにカミルが手を握って来たわね」


「恐らく、嬢ちゃんだけだったなら訳も分からず、魔法を受け入れていた可能性があるのじゃ。魔法を弾く方法を教えとらんからのぉ」


「あぁ!そういう事か……リオ、明日にでも師匠に魔法を弾く方法と、相手からの魔法の感受の仕方を教えて貰ってくれるかい?」


「えぇ、分かったわ。カミル、魔法を防いでくれてありがとうね」


「あぁ、うん。何かあった時に離れなければ大丈夫だと思って手を繋いだだけなんだけどね?結果役に立てた様で良かったよ」


「そうじゃなぁ……嬢ちゃんの魔力量なら弾くのは簡単だからのぉ。魔法を感受して、味方では無いと分かったら弾く……のだが、相手がワシ以外だと、怪我させる可能性が高いかのぉ……」


「それは魔法を仕掛けた側が悪いからね?人に魔法を向けてはいけないと、最初に習うでしょう。怪我をしても自業自得だよ」


「あぁ、勿論じゃ。カミルの言う通り、魔法を人に向けた側が悪いからのぉ。魔法を反射させる弾き方と、消滅させる弾き方の両方を教えておこうかのぉ……嬢ちゃんは、人を傷付けるのは嫌がるじゃろう?」


「ええ、そうね。爺や、両方教えてください。出来れば人は傷つけたく無いし、法で裁かれるべきだと思いますから」


「うむ、それが良い。ワシがちゃんと教えてやるからのぉ。安心せい」


「ありがとう、爺や」


「それで、捕まえたのは何処の誰か分かったのかい?」


「まだ分かっておらん。自害の魔法もかかっとる様でのぉ……下手に喋らせる訳にもいかんのじゃよ」


「…………それは面倒ですね」


 犯人が何故リオをさらおうとしたのかは、大体の見当はついているけどね。さっきの騒動後の、このタイミングなのだから、それと全く無関係では無いだろうね。ただこの後の事は、師匠とデュークに任せるしかない。僕はリオを部屋に送ってから、陛下と話し合いをする為に、陛下の応接室に向かうのだった。

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