第38話 第一王子暗殺計画 ★リオ SIDE

 パーティー後の執務室。私とカミル、第一王子とその婚約者が集まる。リズと公爵も顔を出してくれた。

 

「カミル、助けてくれ!私は殺されるかも知れない!」

 

 ソファに座るなり、取り乱した第一王子に婚約者が寄り添っていた。

 

「それは、スタンピードでは無いのですか?」

 

「あぁ、そうだ。私を暗殺しようとしてる者がいる!」

 

「もしかして、陛下が含みを持たせてたのはこの事か!

第一王子が相談に来たら聞いてやってくれと。てっきりスタンピードの事だと思っていたのに……」

 

「なんだと?陛下もご存知なのか!それなのに直接は助けてくださらないと……そうだよな、魔物があれだけ湧いて来る場所に末弟のカミルを行かせられるんだもんな……」

 

「まぁスタンピードの件は……王太子の条件だったし、勝算があったからね?」

 

 何だか不穏な空気となっている。私はカミルの腕をさすり、第一王子に視線を向ける。

 

「第一王子殿下、殿下は狙われる日時までご存知ですか?予想するに、スタンピードの時かと思うのですが」

 

「その通りだよ、カミキ嬢。良く分かったな」

 

「言い訳と言いますか、理由をつけて殺しやすい日を狙うのは当然かと。『王子殿下が死んでも仕方ない日』がスタンピードの日でしょう。ですが今回のスタンピードでカミル殿下が誰一人として負傷者すら出さずに殲滅なさいましたので、カミル殿下に助けを乞うと少々面倒になるかと……」

 

「あぁ、なるほど。計画通りが有難いんだね?」

 

「計画通りだと!?」

 

「落ち着いてください、第一王子殿下。計画通りであって欲しいのは、『スタンピードの日に暗殺が決行される事』です。いつ暗殺されるかが分からない場合、一日中気を張っていなければなりませんから」

 

「あぁ、なるほど……確かにそれでは頭がおかしくなりそうだ……」

 

「えぇ、お助けしたくても難しくなります。ですので表向きには、今後は直接的なやりとりはしてはなりません。第一王子殿下とカミル殿下が協力していると思われては、スタンピードでは暗殺出来ないと計画を変更されてしまう可能性がありますので」

 

「だが、スタンピードの日には暗殺する気で仕掛けて来るのだろう?」

 

「カミル殿下がお許しになるなら、私がスタンピードの現場に参ります」

 

「君が来て、何になる?」

 

「兄上、リオは僕より強いんだよ。正しくは、この国の誰よりも強いと思う……」

 

「えぇ?先程のパーティーで映されていた戦場では、カミルが上級魔法を撃ってただろう?」

 

「リオは無詠唱で魔法を放てると言うか、詠唱した方が魔法を上手く使えないんだ。詠唱しなきゃと思う方に気が向いてしまって、魔法に集中出来ないらしい。そしてさっきの映像の7割はリオの上級魔法だったんだよ」

 

「何だって?!」

 

「リオは超級の消去魔法までも修得している。双剣も扱えるし、護衛としては最強なんだけど……リオを危険には晒したく無いなぁ……」

 

「カミル、大丈夫よ。今回は私は姿を見せる必要が無いのだから、私は危険に陥る事は無いわ」

 

「あぁ、なるほどね……リオ、兄上に見せてあげて?言うより早いからね」

 

「えぇ、良いけど……」

 

「大丈夫だよ」

 

「分かったわ」

 

 超級水の隠密魔法ね。つい最近、使えるようになったのよ。

 

「えぇっ!カミキ様が消えたぞ!」

 

「兄上、超級水の隠密魔法だよ」

 

「………………超級まで扱えるのか?」

 

「まだ、不穏因子があるうちは内密にお願いするよ」

 

「あぁ、勿論だ。こんなに強力な味方がいるとは夢にも思うまい。カミルさえ公に姿を現していれば、カミキ嬢の姿が見えなくても誰も疑わないだろうからね……」

 

「そう言う事だね。リオ、また負担を強いてしまうね」


「構わないわよ。カミルのお兄様が困ってるのだもの」

 

「ありがとう。愛してるよ」

 

 カミルは私の肩を抱き、髪にキスを落とした。人前でされるのは恥ずかしいんだけど、他人が付け入る隙を見せてはダメだからと言われると、仕方ないのかしら?と思ってしまうわね。カミルの策略にはまってる気もするのだけれど。

 

「カミキ様、本当にありがとうございます!アルフ様が狙われてると知って、私も恐ろしくて……」

 

「マイ、不安にさせて悪かったね。まだ安心とは言えないけど、一緒に乗り越えてくれるかい?」

 

「えぇ、勿論です。アルフ様……」

 

 見つめ合う2人はラブラブな様ね。同じ召喚者として、少し気になっていたから良かったと思うわ。

 

「私は第一王子殿下の実力を存じ上げませんが、デュークに練習装置を使用する許可を貰っては如何でしょうか?」

 

「練習装置って、魔導師団で隠し持ってるっていう?」

 

「えっ?隠してたのですか?」

 

 隣に座るカミルを伺う。

 

「イヤ?隠せとも言ってないよ?あぁ、騎士団に荒らされるのが嫌なんじゃないかな?」

 

「デュークが考えそうな事だな。アイツは昔から魔導師団一筋だからな…………って、カミルは知ってたのか?あぁ、幼馴染だからか」

 

「まぁ、それもあるけどね……アレを開発したのは……ねぇ?」

 

 私に視線を向けて、困った顔をした。困らせる事はして無いと思うのだが?

 

「あの装置は私が考案し、デュークに作って欲しいとお願いしたものになります」

 

「何と……貴女様の価値や貢献度は……」

 

「兄上、それも僕が立太子を終えるまでは内密に……」

 

「あぁ、それらの功績も手札として残すのか」

 

「手札は余る程あるのですが、多いに越した事は無いですからね。兄上も、継承権争いは終わりにしたいでしょう?かと言って、第二王子を王太子には……」

 

「国が滅びるな……アレには大人しくしていて貰いたいが、今回の騒動もアレの取り巻きだろう?」

 

「間違い無いでしょう。僕がやるなら、普通に正論で遣り込める事ぐらい出来ますし」

 

「だろうな。私は王太子になんぞなりたく無いから、早くカミルの臣下に下りたいよ……」

 

「僕も出来る事なら、リオとのんびり暮らしたいですよ。ただ僕が王族で無かったら、リオの手を取る事すら出来なかった。そう思えば、王族であった事に感謝すべきなのでしょうね」

 

「相変わらず、カミルは前向きだな……」

 

「兎に角……兄上は明日から、デュークの所で鍛錬して来てください。リオはリズとのんびりしていてくれるかい?」

 

「えぇ、関わりが無いと思わせた方が良いものね。カミルが王太子になるからと浮かれてる様に振る舞うわ」

 

「わたくしもリオに協力するわ。お父様もよろしいでしょう?」

 

「勿論だとも。第一王子が王になる気が無く、第二王子が傀儡にされそうで、優秀な第三王子が王になると言うのであれば、我が公爵家もお手伝いしましょう。国にも我々貴族にも、良い事しかありませんからな」

 

「陛下もやっと御決断なされた事だし、スタンピード中の暗殺計画も、リオが現場に出るならどうにでもなるでしょう。後は準備など、各々やるべき事を進めてください」

 

「了解した。あの、カミキ嬢。ご挨拶が遅れました……私はアルフォンス。ご存知の通り、第一王子で第二側妃の長子です。宜しければ、アルフとお呼びください」

 

「ご丁寧にありがとうございます、アルフ様。私の事も、気軽にリオとお呼びください。宜しければ、婚約者様もそのように」

 

「ありがとうございます、リオ様。私はマイ=ナミキと申します。私の事も、マイと呼んでください」

 

 リズと公爵閣下も挨拶をして、この場はお開きになった。カミルがとても疲れた顔をしているわね。少しでも私が癒してあげられたら良いなぁと思うわ。

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