第12話 1日目の報告 ★デューク SIDE

 「カミル殿下、おられますか?デュークです」


 執務室の扉をノックし声を掛ける。クリスが扉を開いてくれ、「待っていたよ」と殿下がソファから声を掛けてくださった。


 待っていたよと仰ったな。私が来る事は想定済みだったのだろう。さすがはカミル殿下だが、私の行動全てを読まれている様で少し恐ろしく感じる事がある。


「カミル殿下、失礼致します。本日の進捗具合を報告に上がりました。お時間よろしいでしょうか」


「あぁ、大丈夫だよ。リオはこちらにおいで。キース、デュークとリオにお茶を出してあげて」


「御意」


 リオ殿はカミル殿下に促されて殿下の隣に座り、私は殿下の目の前のソファに座る。キースはお茶とお菓子を用意してくれた。


「デューク、この部屋に防音を」


 無詠唱で防音膜を張った。防音結界は大きくても5m四方程度にしか張れないが、防音膜は魔力量にもよるが、王城の1番大きなパーティー会場ぐらいなら余裕で張る事が出来るのだ。勿論、私の執務室も防音膜を張ってある。


「わぁ!壁に沿って張る事が出来るのですね!」


 カミル殿下がバッ!と音がする勢いで、驚いた顔のままリオ殿を振り向いた。気持ちは分かる。私もさっき驚いたからな。


「り、リオ?デュークの張る防音膜が見えるのかい?」


「カミル殿下、私から説明をさせていただいても?」


「あぁ、専門家のデュークからだと納得出来そうだ」


 眉を下げ、申し訳なさそうに殿下が促す。


「1から説明しないと分からないと思いますので……」


「デューク、ここは防音膜も張ってある。補佐官の2人も幼馴染なのだから敬語は不要だ。聞いていて疲れる」


「あぁ、助かる。そうだなぁ。昔、殿下も魔法を初めて習った時に、魔力の流れを感知するため師匠と手を繋ぎ、魔力を流して貰った事を覚えているだろうか?」


「あぁ、最初は全く何も感じずに困惑したよね」


「リオ殿は、流した瞬間に魔力を感知された」


「なっ!」


「私もまさかと思い、わざと多めに流した魔力も感じ取られた。疑いようが無い程、そのタイミングでハッキリと感知なさった」


 殿下だけで無く、補佐官の2人もあんぐりと口を開けて固まってしまった。驚くべきはこの後なのだが。


「それは想定外とはいえ、ご自分の魔力を巡らせる事までは難しいだろうと思ったのだが……」


「ま、まさか……」


「あぁ、そのまさかだ。自分の魔力を感知するだけでは無く、意図して操り動かして見せてくださった」


「……………………」


 長年魔道師団で働く人間ですら驚くだろうな。見た事も聞いた事もないスピードでやって退けたのだから当たり前だが。


「さらに、」


「まだあるのか……」


「あー、後数回は驚くかと思うぞ?」


 苦笑いして伝えると、殿下と補佐官達は目を大きく見開き、遠くに視線を逸らした。


「まぁ、自分の魔力を感知するまでに、普通ならひと月は掛かるからな。言いたい事は分かるが、取り敢えず全部聞いてくれるか?」


「既に予想外過ぎて、この先を聞くのが怖い……」


 補佐官2人も頭を縦に大きく振っている。首がもげそうな勢いだ。


「基礎中の基礎は15分程度でクリアし、大気魔力を駄目元で集める練習をしたのだが、私が上を向いて一息ついたタイミングで薄っすらと魔力が集められていた。そこからはあっという間に掌いっぱいの大気魔力を……」


「す、凄いな……」


「それだけでは無い。溜まった魔力で『ヒール』を発動し、1発で成功していた」


「んなっ!そんな事が、あり得るのか?」


「あり得た、としか……目の前で起きたからな。信じるしか無いだろう?幻覚だと思いたかったが……」


「思いたかったが?」


「その後、初級魔法を全属性!全て1発で成功させたんだぞ!ヒールがまぐれなんてあり得ないだろう!」


「…………………………」


「それで……」


「まだあるのか!ちょっと休憩しないか?既にキャパオーバーだぞ」


「カミル、ごめんなさいね?駄目だった?」


 殿下は慌てて両手をバタバタと横に振り、弁解する。


「違う!そうじゃないんだ、リオ。リオが凄過ぎて、驚いてしまっただけなんだ。そのな、驚く回数が多過ぎて疲れただけだよ?」


 優しい手つきでリオ殿の頭を撫で、良くやったと褒め出した。まだ続きがあるのだが、落ち着くまで待つか。


 冷めてしまった紅茶をキースが淹れなおしてくれる。カミル殿下の補佐官は、本当に気が利く。とても羨ましい……


「デューク、それで?」


 湯気の立つ紅茶で一息つき、殿下も補佐官もやっと落ち着いたようだ。


「どこまで話しましたっけ?」


「全属性の初級魔法を1発で成功させたと」


「あぁ、そうだった。リオ殿は無詠唱がやりやすい天才型という事と……鑑定スキルがな、人物鑑定で間違いない」


「なんだって……?」


「リオ殿には侍女にすら他言無用だとは伝えたが、殿下からキチンと説明してあげてください。後は、魔力量が58倍の2914まで増えたぐらいかな」


「…………………………一応、それが1番重要では?」


「魔力量50をどうにか増やしたかったのだから、成功って事で良いんじゃないか?」


 ぶっきらぼうに答える。言うべきはほぼ良い終わり、張っていた気が緩み、グッタリとソファに背を預ける。


「ご苦労だった。デューク、やはり君に任せて正解だったようだね」


 苦笑いしつつも殿下が労ってくれる。確かにこのスペックでは誰が敵が分からない現時点では最適解だっただろう。殿下と2人でもう少し話を詰めたいのだが……


 コンコンと扉をノックする音が聞こえる。キースが扉を開き、そこに居たのは魔道師団副団長のリュカだ。


「団長、お届け物に参りました」


「ご苦労、待ってたぞ」


 キースが受け取り、渡してくれる。


「それでは失礼致します」


 リュカは一礼して去って行く。


「リオ殿、こちらが中級魔導書になります。お疲れでしょうし、部屋にお戻りになってゆっくりご覧ください」


「そうですね。まだ夕食まで時間もありますし、一度部屋へ戻って着替えもしたいですし……」


 リオ殿はカミル殿下をチラッと見ると、殿下はにっこりと笑顔で頷く。


「それでは失礼します。デューク様、本日はありがとうございました。明日もよろしくお願いします。カミル、また夕食の時に」


「リオ殿、お疲れ様でした」


「リオ、夕食にまた会おう」

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