第3話 スルースルの花園<5>

「セアラーっ、どこにいるのーっ?」

 「セアラっ、どこだー!?」

 「セアラー!私たちが悪かったの、帰ってきてよー!」

 「おねいちゃーん!!」

 小さな町のあちこちで、一人の少女を呼ぶ声が聞こえる。

 セアラがどこに行ったのか、誰も知らない。

 アミアンは、セアラはエレーリと一緒に町へ行ったのだと思っていたし、エレーリは、セアラはアミアンと一緒にいるものだと思っていた。

 「どこにもいない……」

 ナンシーは焦った声で言う。

 「ナンシー、」ヘジュがそばにきて小声で告げる。「スルースルの臭いがする」

 「スルースル?」

 「こっちだ」

 ヘジュはナンシーが問い返すのも聞かずに、ナンシーの手を引っ張って走った。



 ヘジュは町の外れまで来ると、足を止めた。

 「ここだよ」

  どきっ

 ナンシーは、自分の心臓が大きく脈打ったのを感じた。

 ヘジュが示したのは、あの気味の悪い老木だった。

 「ねぇ…ここにセアラがいるの?」

 ナンシーの顔色が曇る。

 「わからない。でも嫌な予感がするんだ。行こう?」

 「そうね」

 ナンシーが顔をきっと引き締めて応じた。



 うろを入ると、そこは暗いトンネルだった。真っ暗で、横の壁に手を触れて確かめながらでないと、とても前に進めない。トンネルは長かった。

 「ねぇ、ヘジュ、」しばらくしてナンシーが前にいるヘジュに声をかけた。「スルースルって何?」

 「魔界の花だ」

 今度はすぐに答えが返ってきた。

 「スルースルは普通は人間の世界になんか、生えない。たまに種が飛んでくることがあるけど、普通は育たない。だけど、 人を憎んだり、疑ったり、呪ったり、そういう負の心が花を咲かせてしまうことがあるんだ……」

 「負の心……」

 そのとき、ナンシーはまぶしい光を感じた。

 「出口だ」

 二人は光に向かって急いだ。

 出口は入り口よりもずっと大きく、ナンシーとヘジュが手をつないで両手を広げても、まだまだ両端には両端にはとどかないくらいだった。

 そして、視界には一面、花園が広がっていた。

 それは艶のある、黒に限りなく近い、紫色の花だった。

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