自堕落貴族奮闘記⑦




「見つけたぞ、オズ」


いい気分になっているところにブレイドが登場した。 ブレイドは有力な貴族ということもあり集まっていた女性たちは一歩を引いた形だ。

心地よい気分に水を刺され、加えてあまり見たくもない顔にあからさまに不機嫌になる。


「何だよ、今取り込み中だと見て分からない? まだ俺に何かあるのか?」


その言葉にブレイドはオズの周りにいる女性たちを見る。 それを見て何かを察したようだ。


「いいところだったのかもしれないがちょっと話がある。 オズを借りるぞ」

「何なんだよ、話って」


強引に腕を掴みこの場を離れようとするブレイドの手を振り払った。 ブレイドに話はあってもオズにはない。 とはいえ、昨夜のこともあり少し後ろめたい気持ちはある。


「そう言えばロイはどこだ?」

「ロイ? どうしてロイの話が出てくるんだよ。 あっちで幸せそうに料理を囲っているぞ」


そう言ってロイのいる方を見た。 その異様な光景にブレイドは驚く。


「何だ、あれは? もしかしてオズが用意したのか?」

「当然だろ」

「ふぅん・・・。 本当にこの国の差別をなくそうとしているんだな」

「なくすよりも庶民をこの国に留めることが優先だからな」

「なるほどな。 やはりオズはルーファスが勝つことを望んでいないんだな」

「? 当たり前だろ、俺とルーファスの考え方は違うんだから・・・」

「まずそれを確認しておきたかったんだ。 そして俺の話というのはオズに無関係なことじゃない。 とりあえずこっちへ来い」


あまり付いていきたくはないが雰囲気がとても重たいのを感じた。 仕方なく付いていくと人気がない場所へと着いた。 嫌な予感しかしない。 付いてきてよかったのだろうか。


「・・・な、何だよ、改まって」

「ウチに入り込んだ賊の正体が判明したんだ」

「しょ、正体!? 一体何故・・・。 あ、いや、賊? 賊って何か盗まれでもしたのか?」

「・・・。 盗まれたわけではない。 だが犯人は現場に足跡をしっかりと残していた」

「あ、足跡・・・!?」


冷や汗が流れ落ちる。 暗かったこともあり足跡なんて全く気にしていなかった。 思えば天候は悪く屋敷へ入る時に多少靴の土を払ってはいるが、それで完璧に綺麗になったはずがなかった。


「あぁ。 今オズが履いているのとそっくりの靴跡が泥で綺麗に残っていたんだ」

「は、は!?」

「靴跡を調べ上げ靴屋にも行って購入者を調べさせてもらった」

「な、何を言ってんだ!? そんなわけないだろ! 俺は今朝ちゃんと靴を履き替えたんだから!!」

「ん? どうして賊が侵入したのが昨晩だと知っているんだ?」

「・・・し、しまった」


血の気がサッと引く。


「どうして知っているのか説明してもらおうか」

「・・・えぇと、そりゃあ今こんな話をするということは直近の話だと決まっている!!」

「ほう?」

「成績の入れ替えが問題になったのは今日のことなんだからアンタの言う賊っていうのは昨晩のことだって容易に推測できることだろ?」


得意気になってそう言った。 それにブレイドは頷く。


「やたら早口だな?」

「い、いや、それは・・・。 俺は時々やたらと舌が回る日があるんだ。 ほら、なまむぎなまごめななままご!!」

「言えていないな。 だが、さっき言ったことは一理あるのかもしれない。 だけど俺は成績の入れ替えの話なんて一切していないのにどうしてその話が出てくるんだ?」

「・・・え?」

「賊が何をしていたかなんて俺は話していないだろ」

「・・・し、しまったーッ!!」


ブレイドは一歩歩み寄る。


「これ以上話し続けても墓穴を掘り続けるだけだぞ。 昨晩侵入したのはオズということで間違いないな?」

「・・・ッ」


オズはパニくっていた。 まさかこんなにも早く自分がやったとバレるだなんて思ってもみなかったのだ。 これがバレれば選挙なんて勝てるわけがないし、今更ルーファスと交代するのも無理だ。


「どうしてこんなことをしたんだ?」

「・・・いや、俺じゃ、ない・・・」


ここでバレてしまうと全ての計画が水の泡。 言い逃れできそうにもないが何とか誤魔化すしかなかった。


「ぬ、盗まれたわけじゃないって言ったから推測してそう思ったんだ。 だってブレイド家があの情報を発表していただろ? つまりそういうことじゃないか」

「・・・ふん、まぁ『絶対にない』とは言い切れないな」

「そうだろ? そもそも俺がルーファスを貶めていたとしたらブレイド家にとってはいいことじゃないか? 俺が責められる謂れはないと思うんだが」


そう言うとブレイドは視線をそらす。


「・・・正直なところその通りなんだ。 もしオズが賊だとしたら俺にとって利しかない。 こう責め立ててみたもののどうもしっくりいっていない気がするのは確かなんだ」

「そもそも俺はやっていないからな」

「ふぅん・・・」


未だに怪しんでいるブレイドだったがようやくオズと距離を取った。


「まぁいいや。 すまなかったな、時間を取らせて」


ブレイドはこの場を離れていった。



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