自堕落貴族奮闘記
ゆーり。
自堕落貴族奮闘記①
午前4時。 空は雲で覆われ雨も降っていて暗い。 濡れた靴から水が垂れるのを見てオズは溜め息をついた。
「全てやるから俺は何もやらなくていいんじゃなかったのかよ・・・」
現在とある貴族の家へと侵入していた。 時間が時間なだけに静まり返っていて置かれている調度品に不気味なものがあり不安を煽る。 予定ではこんな泥棒のようなことをするはずではなかった。
口から不満が漏れるのも本人からしてみれば当然の話。
「あーもう、面倒くさい。 面倒くさい面倒くさい面倒くさい・・・」
侵入であるため当然バレるわけにはいかない。 だがオズの不満は収まらず口から漏れる愚痴もだんだんと大きくなる。
「酒池肉林」
「・・・え?」
そのようなオズを見兼ねたのか同行者であるロイが耳元でボソリと言った。
「酒池肉林が待ってる」
「・・・その言葉の意味を知っているのか?」
「言葉の意味は分からないけどオズが不満そうな時はそう言えばいいって教えてもらった」
「誰に教えてもらったんだよ・・・。 でも、しゅ・・・。 酒池・・・!! 肉林ッ!!」
ロイの言葉は気にかかったが、それ以上にその四字熟語で本当にオズはやる気が出た。 それを見て怯えた表情でロイが言う。
「僕も来る必要があったのかと不思議だったけど、この時のためだったのか・・・」
「ん? 何か言ったか?」
「ううん、何も」
同行者でありオズの親友でもあるロイ。
「しゅちしゅちにくにくしゅちにくりん!!」
オズは奇妙に『酒池肉林』と呟きながら侵入を進める。 ロイは親友であるが、こういうところは本当に嫌で目を背けたくなっていた。
「というかその四字熟語の意味をオズは知っているんだ?」
「あぁ、つい最近学んでな」
「へぇ・・・」
ロイは言葉の意味は分からずとも自堕落なオズがやる気になるということから碌でもない言葉だと容易に想像がついたようだ。
「もう一度確認だ。 誰か来たら俺にすぐ合図をしてくれ。 ロイの役目はそれだけでいい」
「分かってる。 でもこんな不法侵入とか犯罪まがいのことをする羽目になるなんてね・・・」
「俺はロイを失いたくないんだよ。 大切な今の生活を守りたいんだ。 ロイも同じ気持ちだろ?」
「もちろん。 でもおそらくオズと僕の認識には大きなズレがあると思うけど・・・。 それでも感謝はしている」
「なら俺に協力してくれ。 どうしても誰かに見つかりたくないんだ。 何としてでも成功させたいからな」
「酒池肉林のために?」
「まぁ半分はな。 もう半分はロイのためだ」
忍び足で歩いているうちに二人は一つの部屋の前へと到着した。 何となくの場所だけ知っていたが、驚く程迷うことがなかった。
「ここか」
「え、もう着いたの? あまりにも上手くいき過ぎない?」
「あー・・・。 事前に下見っていうか脳内で侵入経路のイメージトレーニングをしていたからさ」
「それだけでいけるの?」
「俺の唯一の特技であるイメトレにかかればこんな屋敷のセキュリティなんてあってはないようなものさ!」
「そのイメージって都合よく考えているだけだよね・・・。 でも本当に警備もいないし防犯装置も動いていないみたいだし不用心な屋敷だな。 ・・・って、痛ッ!」
「おいおい、静かにしろよ。 流石に転ぶまではシミュレーションしていないぞ?」
「真っ暗だから仕方ないじゃん・・・。 というかこういう緊急事態も予想しておいて。 一体何に躓いたんだろう?」
「そもそも何なんだよ、その荷物。 何の役にも立っていないどころか邪魔になっていないか?」
そう言ってロイが首から下げている箱を見る。
「あ、あぁ。 これは僕たちから発生する音を誤魔化してくれる機械なんだ」
「おぉ、そんなものがあるのか?」
「そう。 だから今転ぶ音だって瞬時に消されたさ」
「へぇ、俺は機械とかそういうもの全く分からないからな」
どうしてロイがそのような高価なものを持っているのか、この時のオズは疑問に思わなかった。 持ってきた特殊な器具を使い鍵ドアを開ける。
「一体どこでそんな技術を憶えたのさ?」
「言っただろ? イメトレしてきたって」
「でもその器具はどこから・・・」
「ロイはここで待っていてくれ。 俺はこれらを目に付くところに置いてくる」
「・・・分かった、気を付けて」
そうしてこの屋敷で一番偉い人の部屋へと入り込んだ。 持ってきたものは自分と弟であるルーファスの成績表だ。 これらは精巧にオズの名とルーファスの名を入れ替えてある。
―――俺は成績優秀なルーファスとは違い学力もない運動もできない本当に駄目な兄だ。
―――全てルーファスが優遇され俺はほぼ両親に見捨てられてきた。
―――・・・でもそれが今日で覆そうとしている。
『今までのルーファスの実績は偽りで本当は兄であるオズのものだった。 これが事実だ』
そう嘘の告発が書かれた文書と一緒に目に付きやすい机の上に置いた。 その瞬間人の気配を感知したのかブザーが鳴った。
「マ、マズいよ、オズ!!」
「は!? あ、あぁ、今行く!!」
―――何だよ、全ての防犯装置は排除したんじゃなかったのか!?
オズは慌てて部屋の外へ出た。 念のため隠れる場所を把握していたオズはそこへと潜った。 ロイも当然付いてくる。
「誰だ、誰かそこにいるのか!?」
すぐさま見張りの者がやってきて開いている部屋へと入る。
「セキュリティが解除されている・・・? これは・・・ッ!?」
そしてオズがたった今持ってきたものに目を通していた。
「・・・ブザーが鳴った時はどうなるのかと思ったけど早々にあれが見つかったなら結果オーライかな」
「そもそもどうして実行するのが今日なの? もっと前もってやった方がよかったんじゃ」
「選挙の本番が今日だからに決まっているだろ。 こういうスキャンダルはタイミングが大事なんだよ」
そうして二人は見張りがいなくなったのを確認し静かに屋敷を後にした。
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