第24話 最後の抵抗


翌朝……朝食を済ませれば、私たちは再びローゼンクロスに戻ることになる。

本当はゆっくりと実家に……といきたいところだが、新体制で忙しいだろうし、いずれ落ち着いたらゆっくりとしたい。


「そうだ、お父さま……そう言えば跡継ぎはどうするの……?」

お父さまの唯一の娘である私は既にロシェの妻であり、誓いを済ませているため産まれる子は純血のヴァンパイアとなる。


「傍系から養子を取ることにしている。今回新体制の樹立にもしっかりと尽力してくれた。この国の行く末は……シャーリィの祖国として恥にならないよう、代々語り継ぐつもりだ」

そうよね。私はお父さまを見送った後も、何百年もこの世界を見守って行くことになるのだ。


「私も祖国の名、ガーネット王国に恥じぬよう、立派にロシェの妻であり続けます」

「うむ」

その言葉にロシェも力強く頷く。


「あぁ」

そしてお父さまも満足そうに頷く。お父さまとはこの後もしばしお別れだが……国に帰ったら手紙でも書こうかしら。

出発前の点検をするジェーンやグレイを見守りつつ……あれ?


「グレイさんの今回の用事って何だったのかしら」

「さぁ……?」

ロシェが首を傾げる。滞在中はわりと私たちと一緒にいたし……まさかとは思うが、弟の結婚の挨拶を見守るため……だったりして。


いやいや……そんな……。でもそれはそれでほっこりしてしまうなと思う。


さて……そろそろ……そう思った時だった。その場が一瞬にして騒がしくなる。


「ここは私のお城よおぉっ!」

「どけぇっ!人間どもぉっ!」

その不快な声はとても聞き覚えのあるものだ。植え込みから出てきたその2人は、私たちの姿を見て動きを止める。


「……っ」

あ……アイリーナとアッシュ!?ローゼンクロスから追い出されたからって何でここに!?ここはもうエメラルド王国……アイリーナの王国じゃないのよ!?


「陛下、申し訳ありません!どうやら城の緊急用の出入口から侵入したようです!」

有事の際に王族が逃げ出すための通路……!そりゃぁアイリーナは元王女……しぶとく逃げ出すための経路は知っていたのか。

旧王族たちは逃亡に失敗して処刑されたようだが、ひとりだけ……生き残っているアイリーナがいたっけ……。


「こ……この……っ、エメラルド王国を奪った謀反ものどもめぇっ!」

アイリーナが私とお父さまに敵意を向けてくる。いや、お父さまを謀反ものにしたのはあなたの両親だけど。そして国を私物化して好き勝手した元王女が何を言うの……?ここまでは元高位ヴァンパイアのアッシュの力を利用してやって来たのでしょうが。まさか本当に堂々と戻ってくるとは。暴政を働いた旧王族の、しかも元凶が国に帰ってきたらどういうことになるか……そんなことも分からなかったのか。


「この……売国奴がぁっ!」

アイリーナが私に向かって飛び出してくる……!

しかし当然のようにどこからかアイザックが現れ容赦なくアイリーナをぶっ飛ばした。

「きゃあぁぁっ!」


「あんたに売国奴とか言われたかないわよ!私を売ったのはそもそも、アンタたちでしょうが!」

その上幾つもの最低な行為に身を染めたのはあなたたちよ!


「こ……この……っ!」

そしてアイリーナのエメラルド王国があったここが最後の綱とばかりに、ロードの前で足掻くアッシュが向かってくるが、そこは舞い降りた白髪の専属護衛が容赦なく沈めた。


「ぐはぁっ」

「これはもうハンターの領域かね」

そう、白髪の護衛が冷たく吐き捨てる。


「そうだな……どうやらヴァンパイアの力を使い人間を不当に威圧していたようだし……ロードの妃の祖国に手を出そうとしたんだ。人間とヴァンパイアの両者の関係を破壊する醜悪な行為……許すわけにはいかないな」

そう言うと、グレイがアッシュに拘束具を付けていく。

あれもきっとヴァンパイア用のものね。


「それで、あの女はどうする。我らは特にいらぬ」

そう、ロシェがお父さまに問えば。


「あの悪辣な王女には我々も怨みが積もっております。また城に侵入されてもかなわない。民衆の怨みをここぞと浴びながら最期を迎えてもらうとしましょう」

お父さまが笑顔で頷き、アイリーナは拘束され、ガーネット王国預かりとなった。


それでもアイリーナは私に向かって『悪女』だの『親の仇』だの言ってくるが……。


「何が悪女かどうかも分かっていないのかしら……?言っとくけど、アンタを親の仇だと思っている民衆は多いのよ。知らないの?」

「な、何よ、シャーロットのくせに!!」

「私だったら何なのよ。言っとくけど、私のせいにしても何も変わらないから。全てアンタの自業自得よ」

「そんな、嘘よ、嘘よ――――っ!」

アイリーナは騒ぐが、王の前だからこそ抑えているものの、憎しみを込めた目でアイリーナを睨む騎士たちに引きずり出されていく。アンタに親の形見を盗られたひとも、家族や婚約者を奪われたひともたくさんいるのよ。あの女はそれをちゃんと認識すべきよ。


その後聞いた話だが、アイリーナは一週間に渡り王都の広場に牢屋に入れられて飾られたらしい。贅を貪ったその元王女の姿に、民衆ちは石を投げ恨み辛みを込めて罵倒し、中には新体制の貴族たちもいたと言うのだから、本当に様々なひとに怨まれている。その後は誰にも惜しまれることなくこの世から地獄に突き落とされたと言うことだ。


そんな報せをローゼンクロス城で受け取りつつ……。


「そう言えば先代夫妻とアッシュはどうなったの……?」

侍従長室を訪れたついでに、ロイドに問うてみれば。

「ハンター協会からとても有益な実験ができたと報告があった」

なるほど。あっちはあっちで長年の恨み辛みを含めてハンターたちに思う存分やられているようだし。


「ハンターの中には、元混血もいるからな」

「へ……へぇ……?」

つまりは混血であったが純血のヴァンパイアと主従の契約をすることで、ヴァンパイアになって生きながらえるハンター。

ヴァンパイアになったのにハンターと言うのは少し違和感があるものの、もとは人間の部分を併せ持ち、そしてグレイと言う強大な前例があるのだから、文句はそうそう言えないわよ。しかも……現ロードの異母兄である。

そんな重要人物はなかなか手放せないわよね。


「あと……近々各国の主賓を招いた婚姻のパーティーがある。打ち合わせには参加するように」

「……わ、分かったわ……!」

前回の国内へのお披露目とは違う、各国の……お父さまたちもくるパーティーである。


また、会えるのね。

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