Day.13散らばったままの定規が指に刺さる

「なあトッキー、俺はどうしたらいいと思う?」


「知らねーよ!」


 サークルが終わって、駅に向かう途中の帰り道。

 オレは幼馴染みのコウこと一ノ瀬孝二に絡まれていた。

 やだなあ。

 なんで好きな子に恋人の相談なんかされなきゃいけないんだ。

 しかも恋人である最上初からもコウについて相談されている。

 なんなのこいつら。


(オレを挟まずやってくれよ)


 って言いたいけど、言うと初の相談にこっそり乗ってたことがバレるわけで。

 なんでオレが間男みたいになんなきゃいけないわけ。

 コウから間男扱いされたらメンタル死んじゃう無理。


「つーかそんなん初と話し合えよ。うだうだオレに絡んで、それをあいつが「ステキ! 男らしい! 抱いて!」とでも言うのか!?」


 まああいつは本人いわく無性愛者だそうなので、コウがどれだけ男らしかろうとも抱かれたくはないんだろうけど。


「うるさいなあ、わかってんだよ。てかトッキーの方が初のことわかってるみたいに言うなよ。俺今めちゃくちゃ凹んでるからね。場合によっては引くほど泣くぞ」


「重症じゃん」


「ツラ」


 かわいそう。オレが抱きたい。

 つーか、あれじゃん、ここから慰めてやればいいのでは?

 黙ってしまったコウを押して、とりあえず電車に乗る。

 よくも悪くも幼馴染なので家の前まで一緒だし、間が悪いと母親に見つかって、


「あら孝二くん久しぶりじゃない、夕ごはん一緒にどう?」


 などと寝るまで一緒になる。

 無理。

 どうにかこいつには前向きに自宅に帰ってもらいたい。

(うちの前でグダつかれると母親に見つかる確率が上がるし、なんなら母親が恋バナを聞き出したがる)


「なあコウ。お前、初のことで思い詰めすぎてさ、視野が狭まってない? もうちょっと違うことしてみたら?」


「……例えば?」


 お、食いついてきた。

 けど、確かに違うことってなんだ。

 自分で言っておいてなんも思い浮かばんぞ?

 手持ち無沙汰でポケットを探る。

 スマホくらいしか入っていない。


「んー」


 考えているふりをしながらカバンも漁った。

 筆箱がちゃんと閉まってなくて鉛筆と定規、消しゴムが散らばっている。

 (オレはシャーペンより鉛筆派なんだ)


「絵、描いてみるとか」


「はあ?」


「なんでもいいんだけど。カバンの中で鉛筆とか散らばってたから言ってみただけでさ。スマホで写真撮ってもいいし、ラーメンの食い歩きでもいいし、そんくらいならオレも付き合うから」


 むろん一生付き合うまであるが、ここはサラッと提案だけしてみる。


「写真撮ったら初に送ればいいし、ラーメンがうまかったら誘えばいいし。なんつーかさ、ヤるだヤらないだで、そればっかり迫られてるのって仲のいいカップルでもウザくない?」


「確かに」


 思いつきだけで言ってるけど、そうだよなー。

 がっつくのって、相手もオッケーじゃないとウザい。間違いない。

 ご覧よ、オレ全然がっついてないでしょ。

 なにしろ合意が取れないので。


「じゃあさ」


 電車を降りて先に改札を抜けたコウが振り返った。


「次の土曜日、付き合ってよ」


「いいよ」


 どこだって付き合うよ。

 いくらでも、なんだって。

 あーあ。オレクソほどちょろい。

 ちょっと泣きそうなのをカバンの中のスマホを探すフリして誤魔化した。



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