Day.11それは土塊を金に変えるのと、どっちが難しいだろうか。
数日前の雨の日、初を初の家のも寄駅まで見送った。
俺は彼氏なんだから彼女を家まで送ったっていいと思うし、なんなら上がって行ってもいいと思う。
でもそうしなかった。できなかった。
「コウ、送ってくれてありがとう。雨も止んだしここまででいいよ」
そう初は微笑んだ。
顔色はあんまりよくなくて、どうにも元気がなさそうで。
やっぱりトッキーについてきて貰えばよかったと、めちゃくちゃ情けないことを考えてしまった。
「そっか。気をつけて帰ってな」
「うん。またね」
俺が手を振ると初はあからさまにホッとしたような顔で手を振り返して改札を出て行った。
そのまま姿が見えなくなるまで突っ立っていたけれど、初は一度も振り返らなかった。
けど帰ったら、
『送ってくれてありがと』
なんてメッセージが届いて、それだけで単純な俺はあの子が好きだと再認識してしまうのだ。
本当は逆ギレしてしまいたい気持ちもあるのだ。
俺は彼氏なんだぞと。
彼氏が彼女と手を繋いでキスをして、そのことの何が悪いというのかと。
けど、その場でそうやってキレ散らかせるなら、多分こんなことになっていないのだ。
そういうわけで、俺はここ数日このように悶々と過ごしている次第である。
外はそりゃあいい天気だ。
梅雨? もういいんじゃない? 夏だよお!!! って感じでピカピカに晴れている。
だというのに俺ときたら数日の間、いや違うわ。数日じゃなく、割とずっと悶々としてたわ。
そもそも俺と初はあまり授業が被っていない。
だから同じ授業を受けているトッキーに様子を聞くしかない。
トッキーは聞けばどうであるかを教えてくれるけど、積極的にあれこれ言ってくるタイプではない。
まー普通に嫌だよね。
幼馴染の色恋沙汰に巻き込まれるの……。
そのトッキーともそんなに会ってない。
こっちは単に向こうのバイトが忙しいのと被っていた授業が先生の都合で休講になったからだ。
だからあの雨の日以降はサークルで一回顔を見たくらいで。
サークルの方でもあまり初とは絡めていない。
初は初で女の子たちと固まってるし、俺だって野郎どもの付き合いがあるのだ。
つまり部室でのいちゃちゃも不可。
つーか、そんなことしたら、彼女のいない先輩方に刺されちゃう。間違いない。
そんなこんなで、彼女持ちなのに欲求不満で、これを満たすには彼女に手を出すしかないけど本人にはめちゃくちゃ嫌がられている。
(詰んでてウケる)
いやウケねえよ!!!
というか、言葉で拒否されたわけではない。
初めてキスした時に顔色を悪くされて走り去られて、そっから避けられてるだけだ。
直接的な拒否よりもっと悪いわ。
ふわっとあくびをしながら窓の外を見た。
雲一つない空、薄暗くて涼しい講堂。
つらつらと耳を素通りするおじいちゃん先生の話し声。
おじいちゃん先生は髪も髭も眉毛も真っ白ふさふさで魔法使いみたいだ。
魔法であの子の気持ち、教えてくんねえかな。
そんで、俺の方に向けてくれ。
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