そのまま私に銃口を向けて、引き金をひいてください! -不死身の魔女と魔導銃-
@kanetokei
プロローグ
私はただ死んでしまいたいだけなのに、残念です。
「そう。その角度です。いいですね」
少女は言った。
つばの広い三角帽子を被って、笑っている。
「最高です」
それは、銃を構えている敵の兵士たちへ向けた言葉だった。
少女は上機嫌だった。まるで演劇の指導者が、最高の役を演じきった舞台役者へ賞賛をおくるみたいに、満面の笑みを浮かべていた。高揚した感情が抑えきれずに、顔の表情筋に滲み出てしまっている。
彼女はふと気付いたように、兵士のひとりを指した。
「ちょっとそこのきみ。そう、右から二番目の」指された兵士は恐怖で顔をこわばらせる。「それだと銃弾が上方に逸れます。ストックを肩のもう少し上へ――そうそこ! 上出来です」
少女の周りには、
「
一人の初老兵士がつばを飛ばして
兵士たちの銃口は、一様にして彼女に向けられている。
皆、鍛えられた大きな身体の男たちだ。戦闘で使い慣れた銃を持ち、よく訓練された狙撃態勢をとっていた。彼らは今にも引き鉄をひくことができるし、状況に応じてすぐに撤退行動をとることもできた。指揮官の命令をできるだけ
相手は一人。年端もいかない少女だ。
にもかかわらず、兵士たち全員が血の気を失った顔をしている。絶望をにじませた、まるで部分的にはすでにもう死んでいるかのような、灰色の顔をしている。
ここは戦場だった。
周辺はすでに長引く戦況で焼け野原だった。遠くで地響きとともに爆煙が立ちのぼった。兵士たちにはそれが味方による爆撃なのか、敵国によるものなのかはわからなかった。ただ、同じエリアに派兵されていた二個小隊はすでに損耗率が七十パーセントに達し、戦線を離脱していたことは、軍用通信で分かっていた。
「
初老兵士は、一瞬肩を震わせた。
「小娘の分際で馬鹿にしおって! 総員、撃てい!」
弾かれるように、八人の兵士たちはいっせいに魔導銃の引き鉄をひいた。
被弾にあわせて、彼女の身体は
しかし、彼女は倒れずにそこに立っていた。
ほんの数秒、沈黙が流れる。
八人の兵士たちの喘ぎ。遠くの地響き。
「頭部に当てたあなた」少女はいちばん左の兵士を指す。「素晴らしい。冷静な狙撃でした。いい腕をお持ちです。でも、銃がよくなかった。そう、まったくよくなかったのです。私の言いたいことがわかりますか? よくなかったというのはつまり、
なにごとも起きていなかったかのように、少女は飛ばされた帽子を拾い上げて、被りなおす。
そして、大きなため息をついた。
「めずらしく『99式500
少女は、被弾したばかりの身とは思えないほどなめらかに、よく通る声で繰り返す。
「
魔導銃が貫いた痕はいつのまにか消えていた。
本来ならば致命傷である頭部の損傷も、きれいに癒えている。ただ、どっぷりと血が流れて、顔が赤く濡れている。笑顔はすでに消えて、失望の表情だった。
少女は口元の血をぺろりと舐めた。
初老の兵士がわななく口を懸命に動かした。
「ばっ、化け物が……! 総員、待避だ。待避!」
指揮官の命を受け、兵士たちはいっせいに後退する。
〈――こちらベアー02。ルビー01、遊んでないでさっさとやれ。
「こちらルビー01、やれやれ、せっかちですね。
彼女はローブから小さな銀のシガーケースを取り出した。
中には数種類の指輪が入っていた。小ぶりダイヤモンドがひとつだけついたシンプルなものもあれば、
彼女はすでに左手の小指に、青い宝石の小さな指輪をはめていたが、さらに赤い宝石のついた指輪を取り出し、右手の中指にはめ込む。
すでに兵士たちが数十メートル待避してしまっていたが、彼女は気にしていない様子だった。
指輪をはめた右手を広げ、突き出す。
「私はただ死んでしまいたいだけなのに、残念です」
炎の塊が大きな渦を描いて、魔法陣から現れた。
炎は大蛇のようにうねり、のたうちまわるようにして、兵士たちの行く手を阻んでいく。
「こちら、ルビー01。敵魔導銃分隊を
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