第15話 領民がいナイ
コッコの卵を五つ、藁と羽毛を詰めた蓋付きの籠に入れ、ダーモットに持たせた。
エステラにしっかりと品質保持の魔法をかけてもらったので、落としても割れることもない。
護衛兼何かあった時の連絡係用に、ダーモットの鞄にはマゴー16号、ケーレブの鞄にはマゴー17号もこっそり入れて、途中まで目立たぬように転移魔法で。その後は貸し馬車で王宮へと向かってもらう。
マゴーは転移魔法も使えたのだ。
ハンフリーもコッコ(オス)にニレル特製鞍と手綱をつけ、さらに鞍の両脇に籠を取り付け、マゴー30番台から50番台をみっちり詰めていく。
領民達に領地大改良に伴う家屋の新築と引越しについて説明するついでに、作業を迅速に行うために収納魔法を使えるマゴーを貸出す事にしたのだ。
(一世帯に一マゴー貸し出すとして、二十か三十世帯くらいしか領地に居ないのかしら……)
このただっぴろい領地に、いくらなんでも少なすぎる……
前世でいえば、ご町内の一〜二班程度しか領民がいない事になる。超過疎地だ。
これじゃあ税収なんて期待しようもない。子爵家の資産がすり減ったわけだ。
マグダリーナはハンフリーがエステラの『全部作りたい』をあっさり認めた理由がわかる気がした。
これを気に、領民が増えてくれると良いのだけども。
ハンフリーを送り出した後、マグダリーナとアンソニーは、昨夜までにコッコ達が討伐し、マゴー達が解体した魔獣の素材を魔法収納に詰めて行く。
肉と皮は冬の準備に使うので、マゴーの魔法収納に収める。
マゴー達は袋片手に、コッコの抜け羽毛も抜け目なく収集している。
誰も指示していないが、彼らにはエステラの知識がインプットされてるので、周囲の状況から判断して動いているのだろう。素材集めに余念がない。
今日のマグダリーナの予定は残ったメンバーで隣のゲインズ領にある冒険者ギルドへ素材の買取をしてもらうことだ。
治安の件は、ニレルとエステラも一緒に来てくれるので、気にしすぎないことにした。
冒険者ギルドでは本名を名乗る必要は無いから、身分は隠せる。
マグダリーナとアンソニーはそのまま愛称のリーナとトニーで通すことにした。
ニレルはニィでエステラはタラと名乗っているらしい。
マグダリーナの髪色は目立つので、念のため魔導具で茶色にする。
そうして冒険者ギルドにコッコ(オス)で乗りつけたら、当然注目が集まった。
ガチガチの筋肉をまとった、あまりお行儀の良くなさそうなおじさま達の視線が痛い。
「ヨォ、ニィさん、なんだいこの変な鳥は」
「やあチャド、この子の従魔なんだ。おいで」
ニレルに手招きされて、マグダリーナとアンソニーは慌てて近寄る。
「リーナとトニーだ。これから素材の買取のためにここに通うことになると思うから、よろしく頼むよ。リーナ、トニー、彼はチャド。こう見えて子供好きで面倒見が良いから頼りにするといい」
「「よろしくお願いします」」
チャドと呼ばれた無精髭の男は、弱ったように顎をかいた。
「なんでおまえさんは、こんな毛色の変わった子供ばかりここに連れてくるかねぇ。ま、一応気をつけてはおくよ。あ、ギルドに用事があるんなら、今日はさっさと済ませて帰った方がいいぜ」
「何かあったのかい?」
「大物の討伐に失敗したやつがいるらしい」
それだけ言うと、チャドはヒラヒラ手を振って去っていった。
「討伐に失敗したらどうなるの?」
早く帰れというくらいだから、気になってマグダリーナはニレルを見る。
「依頼時の条件にもよるけど、最悪契約不履行で損害賠償を払うことになる場合もあるね。ただそういうのは荷運びやその護衛の場合で、魔獣討伐だけだと、一番の問題は怪我かな。
教会の治癒師は貴族しか診ないから、回復薬で対応するしかない。怪我の具合によっては上級回復薬を使用する場合もある」
「本人が回復薬を持ってない場合はどうなるの?」
「ギルドの回復薬を使用して、手持ちが無ければ代金は分割払いかな」
なるほど。なるべく軽い怪我だといいなと思った。
冒険者ギルドに入ると、受付の女性の視線がニレルに集中した。
ニレルは素知らぬ顔で優雅に通り過ぎて、奥の買取カウンターへ行く。
「さ、ここで買取してもらえるよ」
柔和な雰囲気の初老の男性が、「品物を見せてくれるかね」とカウンターに品物を置くよう促した。
マグダリーナとアンソニーが魔法収納から素材を出すのを見て、一瞬驚いた顔をするも、騒ぎたてたり詮索することもない。
「二人分一緒にまとめて買取でいいのかい」
「はい」
「ふむ、どれも状態がいいね…数が多いから、この番号札を持って、そこに座って待っててくれるかい」
しばらく待って番号を呼ばれると、まず金額の確認をと明細を渡される。
エアウルフの爪、牙、骨 銀貨五枚 二十体分
マーダーグリズリーの爪、牙、骨、肝 大銀貨五枚 四体分
角兎の角、前歯、骨 銀貨三枚 二十体分
火蛇の毒袋、牙、目 金貨二枚 十体分
オークの脂、牙、骨、精巣 大銀貨三枚 十体分
(蛇たっか……)
蛇は泣く泣くマグダリーナの収納にしばらくそのまま入れてあっただけに、嬉しい。
「さて、合計で二百六十六万エルになるが、金貨二十六枚と銀貨六十枚でいいかな。良ければここにサインを頼むよ」
マグダリーナもアンソニーも、お金のことは全くわからなかったので、ニレルとエステラを見る。
二人とも頷いたので、適正価格なんだろうけど……
「金貨じゃなくて大銀貨で欲しいんだ」
ニレルがそう言うと、ギルド職員のおじさまは、大丈夫かいと聞く。
「大銀貨が二百六十枚だとかなりの重さになるが」
「収納魔法付与の鞄があるから大丈夫だよ」
そっとエステラがマグダリーナに囁いた。
「一エル一円の感覚でいけるわ。銀貨一枚が千エルで、大銀貨一枚が一万エル、金貨一枚が十万エル」
(なんてこと……!! エステラに出会わなかったら、教会に二十万エル支払わなければいけなかったのね!)
コッコが討伐したのだからと、アンソニーにサインしてもらう。もちろん偽名で。
革袋に入ったたっぷりの大銀貨と銀貨を受け取り、アンソニーが何気ないそぶりで買取のおじさまに聞く。
「あの、コッコカトリスの卵の買取価格はいくらなんですか?」
「コッコカトリスの卵かい? 状態にもよるけど、かなり珍しいから一つ金貨十くらいかね……」
「「金貨十……」」
(食べてる……食べてるよ私達毎日百万エル……買取でその価格なら売るのはもっと高いのよね? それを素材に作る特上回復薬っていくらになるの? 病気怪我には気をつけるようにしなくちゃ)
母が回復薬が無くて流行病で亡くなったことを思い出し、マグダリーナはまず皆んなの健康に気をつけようと思った。
そうして、さて帰ろうかというときに、少女の悲鳴が響き渡った――
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