第13話 まだ何の役にも立てナイ
ショウネシー領に入って明くる朝、マグダリーナはとても爽やかな目覚めを迎えた。
(昨日の騒ぎが嘘のよう)
だが、窓を開けると、いる。
コッコことコッコカトリス達が。
領主館の庭園ではころころとメスのコッコ達がカミツレ草の芝生で転がりながら、微笑ましく朝の散歩をしている。
甘く爽やかな匂いのするカミツレ草は、昨日マグダリーナ達がハンフリーを救出している間に、エステラが試しに女神の森から採取して魔法で増やしたそうだ。
元々茂っていた雑草達も、実は薬草であったらしく、どうやらある程度魔力のある薬香草などは、土地の魔力に負けることなく生えるらしいことがわかった。
薬香草は薬の材料として貴重だ。雑に生えている薬香草達の種類と効能を調べて栽培することも視野には入れるが、やはり主食たる作物を自領で栽培したいというのがハンフリーの願いだ。
更に外側の菜園ではオスのコッコが畑の警備に彷徨いている。
整った庭園も、畑もついでに大きな温室も、昨日ハンフリーを迎えに行くまでは無かった。
お隣の家もだ。
(魔法使いって、本当なんでもできるのね)
ハンフリーを連れて帰って来れば、既に館の中も外も整えられ、温室も畑もコッコ達の小屋も出来上がり、隣にはエステラとニレルの家もあった。
コーディ村の家共々引越して来たのだ。
そして使用人の代わりにと、小さな魔導人形……いわゆるゴーレムを数十体置いてくれた。
たぶんこのゴーレム達が一番の超高度魔法なんだろう……
外見は大根くらいの直径の根菜に手足がついている。頭に実の様なものと葉っぱもあり、背中に番号がついていた。
質素な目と口もあって喋るし、歌うし、魔法も使うし、何よりコッコ(オス)に負けずに戦闘もしていた。
なんでもマンドラゴラという植物型の魔獣素材を使って作った魔導人形らしく、マゴーと命名されていた。ヒラに。
不満は全くないが、驚きはある。
それ以上に感謝でいっぱいだったが、父やハンフリーの様子を見ていると、魔法や魔法使いの基準を、彼女達に合わせると多分ダメかもと薄々感じはじめていた。
ドアをノックされ「どうぞ」と返事をする。
エプロンをしたマゴー4号と5号が洗いたてのタオルやドレスを持って、朝の身支度の手伝いにやってきた。
ちょうど良いぬるま湯を用意されて洗顔し、花の香りのする化粧水とオイルで肌を整えられる。
シンプルで動きやすいが品のあるドレスに着替えさせてくれて、髪を丁寧にとかしリボンで結ぶ……こんな風にお世話されるのは、どれくらいぶりだろうか。
ドレスは見たことない新しいものだった。
「このドレスどうしたの?」
「マゴー制作班が作りました」
「でも布地や糸は……」
「それも作りました」
(一晩で? どうやって? とか色々つっこまない方がいいのよね、きっと)
まるで心を読んだかのように、マゴー4号と5号は頷いた。
全員が揃ってしっかりお肉も野菜もパンもあるまともな食事をし、今日の予定を確認し合う。
貴族の食卓に野菜は並ばないものだが、そんなくだらないことを気にする者は一人も居なかった。
午後からはエステラとニレルも呼んで、領地の今後など色々と話し合うことが決まっていた。
これにはマグダリーナとアンソニーも参加する。ダーモットが頼りないのもあるが、いずれこの領地を背負っていかないといけないのだ。今から学んで行った方がいい。
午前はダーモットとアンソニーが、コッコの研究と観察。
ハンフリーは書類仕事。
ケーレブはマゴー達の上司になるので、彼らの現状確認と雑務だ。
マグダリーナはハンフリーの執務室の惨状を思い出して、彼の手伝いをする事にした。前世は事務職だったのだから、書類の整理はお手のもの。
と、思っていたのだが、書類の整理は執務室の掃除のついでにマゴー達が終わらせており、マグダリーナがしたのは子爵家の印が必要な書類に淡々と印を押していくことだった。
それでもかなりハンフリーからは感謝されたが。
会議や勉強となると紙と筆記用具が欲しいところ。
筆記用具はともかく、紙はそのままだとダーモットの妖精のいたずらで破られる可能性が高い。
ダーモットを無職にする妖精のいたずらは、本などの綴じられた状態のものには起こらないことがわかっている。
それもあって、彼は本の虫だったのだろう。
紙が高価なこともあるせいか、ハンフリーの執務室で見た書類はどれも小さな字で紙の端までびっしり書き込まれていて、とても読み難くかった。
彼の本体が眼鏡になったのも頷ける。
とりあえずノートやメモパッドの様にダーモットでも扱えるものを作り、やがては見やすい書式で領内の書類は統一したい。
昨晩軽く家族会議をし、マグダリーナが自力で魔法が使えない状態であることは話したが、ダーモットもハンフリーもマグダリーナのことを傷物扱いする事はなかった。
ダーモットは学園では苦労するだろうけど、無理だったら途中で退学しても構わないし、結婚せずに領地でくらすのも、結婚したい相手ができて、それが平民でも構わないと言ってくれた。
何かあったら、その時皆んなで話し合って、協力していこうと。
その時マグダリーナは、決めた。
たとえ辛くても、しっかり学園で知識を身につけると。
それが今は何も持たない、何の役にも立てない自分の出来る事だから。
因みに寝る前にになんとなく、マゴーにノートやメモパッドを作れるかと聞くと、「何冊必要でしょうか?」と作れる前提の返答が返ってきた。頼もしい。
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