愛しい愛しいぼくのばら

愛しい愛しいぼくのばら

花弁を落としたとき

ぼくは

刺されたのでした

ぼくだけではなく

そのハチさえ

ばらを

愛しい愛しいと

愛でているのでした


ぼくは迷ったのでした

刺したのは

愛でているばらの

棘ではなかっただろうかと

いいえ

たしかに

そこを通りかかったハチなのでした

ふいに

ぼくの

皮膚に触れたかとおもうと

針を

食い込ませ

また

去っていくのでした


ぼくは

愛しいばらに

祈ったのでした

ぼくと

ハチは

争って君を奪い合って

などと

あろうものかと

ぼくらはただ

通りかかったのでした

その色彩に

惹かれ目を細め

じっと眺めいる風景の一部の

その主人公の君

ぼくと

ハチとは

まったく同じ動きで

愛しい愛しいばらに

近寄ったのでした

そこに

争いなど

あるはずもないのでしょう


ぼくは

花弁を

手折し

ハチの

怒りを

買って

しまい


そういう物語を想像して

ぼくは

君に

謝ることとします

決して

傷つけようと

思ったわけではないのだと

祈り

捧げたのでした


夜になり

くすみがかった

色彩にかわるころ

ぼくは

落ちた花弁を拾いに行くでしょう

月明かり

青白くひかる

庭のかたすみの君を

希ながら



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る