特進クラス選抜試験 ~開幕〜

4月26日。広島県立実力行使専門学校試験会場A地帯。辺りを見回す限り自然が広がっており、かなり目に優しい光景が広がっていた。木々は試験のためか申し訳程度しか生えておらず、木を障害物のようにして戦うことも出来そうだった。

そんな中、俺含む1クラス分ほどもいる生徒達が全員揃って手を後ろで組んで立っている。そして試験官らしき教師が1人だけ前方におり、息を大きく吸う。そして、試験会場全体に響くんじゃないかという程の大きい声量で試験開始の宣言を始める。


「これより、特進クラス出願生徒選抜試験Aブロックを始める。総員気をつけ!!」

全員の動きが、練習もしてないのにビシッと揃う。


「礼!!!」


「「「お願いします!!!!」」」

これから、特進クラスの選抜試験が始まる。

これから俺はこの中から勝ち残って特進クラスに行かなければならない。正直自信はまだ付いてないが覚悟は出来た。後はやるだけだ。俺は握った拳を見つめて目を閉じ、静かに空を見上げる。

そして俺も出発しようと目を開く。

だが、周りには既に生徒は誰もいなく、先程の教師がこちらを睨みつけているだけだった。


(やっべ...っていうかあの先生って担任の先生じゃん...)


「何を突っ立っている、淡生 賢。既に試験は始まっているぞ。やる気がないのなら退出してもらうが?」


「あ、あります!!!やる気はあります!!もう始まってたんですね...」


「はぁ」

わざとでかくため息をつかれ、先生は手をしっしっとする様に振る。俺はそれを見てからすぐになるべく早く走る。


​───────​選抜試験ルール​───────

・試験時間は約80分間、ここ試験会場のエリア内にいる参加者達とのバトルロワイヤル。


・参加者達は力の行使を許可。


・参加者を1人倒せば右腕にあるパネルの数字に3ポイントが追加される。なお、戦闘の最中にモニターから見ている教師の目を引くパフォーマンスがあれば、プラスで1~5ポイントが加点される。


・最終的に残った1人、もしくは制限時間が終わり、ポイントの多いものが選抜試験クリア。


・参加者を倒す条件は相手の降伏、または相手が戦闘不能の状態になった時のみ。


・参加者には全員、生徒間での攻撃を軽減し、死に至らない程度の特殊な結界が編み込まれている。


・2人までのペアを作ることを許可。なお、そのペア2人が最後に残った場合、2人が戦って選抜試験をクリアするものを決めることとする。


・通常は1人だけが選抜試験を勝ち抜けられるが、教師から「将来的に特進クラスに進んでも問題の無い者」と判断を受けたものは選抜試験をクリアすることが出来る。


​───────​───────​───────


この数日間、矢羽根さんに手伝ってもらいながら力について理解は深められたものの、まだ理解出来てないところが多々ある。

とりあえず俺の力のことで分かったのは、俺の力は炎で、内容は以下の通りだ。

・体の好きな部位から炎を出せる

・炎はオレンジに近い赤色

・自分は炎の温度を感じないが、相手には感じるらしい。

・炎を出せる時間は10秒前後

・炎は掴めて、投げつけられる。

・火力の高い炎を出そうとすればするほど、体に負荷がかかる。

・掴んで投げた炎は、地面に着弾すると周囲の建物がえぐれるほどの爆発を起こす。

・力の発動中は自分自身は炎によって自爆する事は無い。

・内界力の消耗が激しい。

ちなみに内界力とは、力を使う際に消費される擬似的な体力の事だ。力の使いすぎなどなんらかの要因でこれが無くなると頭痛や吐き気、体の痙攣などが起こってしまい、戦闘中に内界力が無くなるのは致命的とされている。内界力は生まれた瞬間に決まっており、そこからをすれば内界力が格段に上がる者もいるという。要は魔力やMPのようなものだ。外界力というものもあるが、これはまあ外付けの内界力といった感じだ。詳しい説明はまた機会があったら。


話は戻るが、この力。使い勝手は悪くないが、どうにも物足りない感。

なによりこの力は──


「あ、みーーーっけ!!」

不意に後ろからでかい声が聞こえて反射的に振り向く。だが来るであろう攻撃に対抗策を何も取れず、そのまま相手の飛び膝蹴りによって腹を強打する。


「​──ッッ!!!」

俺は腹に感じた痛みに悶え、手を横に振って相手を払おうとする。


「悪いけどさぁ、降伏してくんない?おれもあんま戦いたくないんだわ」

相手は軽々と避け、手遊びをしながらそう行ってくる。


「....わりぃな、俺は降伏する気は無いんだ。君が降伏したらどうだ?」

いきなり飛び膝蹴りをくらい、鼻血を出しながら言うセリフじゃねぇなと思いながら顔を上げて相手と対峙する。相手は少しツリ目気味の生徒で、黒色の髪型をオールバックにしている。


「そうかよ。はぁ、めんどくせぇな。」

相手がそう言い終わり、こちらへ突っ込んでくる。

俺は何かあるなと一応相手の射線上から離れるべく横に避けようとする。しかし──


何故か俺の両足は動かず、避けられないまま相手の振りかぶられた拳を肩あたりに食らう。

俺は肩を走る鈍痛に堪え、肩を抑えて息を荒らげる。


「​──なるほど、こりゃめんどうだ。」


「何だおまえ、力は使わないのか?」


「あぁ、なるべく温存したいんでな」

俺はあえて曖昧な返答をして俺の力について濁らせる。だが、普段あまり嘘を吐いてこなかった弊害なのか、上手く口を動かせずに不審な口調になっていたかもしれない。


「.....どうせ特殊な条件でしか力使えないんだろ?んな見え見えの嘘で騙そうなんざ、まだ早いと思うぜ?」


「...釣れないな」


俺は、まだ動かない両足を見る。そして先程から感じる違和感を確認すべく、試しに目を閉じてみる。

すると、先程まで動かなかった足はいつも通り動くようになった。さっきから瞬きをする度に少しずつ足が動いているような気がして、試してみたが、どうやら違和感は当たっていたらしい。そして、どうやら片目だけ開けても足は動くようだ。


「....なるほどな。」

相手の力の対処法は分かった。だが、まだ相手が何か技を打ってくる可能性もあるし、片目を閉じた状態で戦うのは思ったより不便なので俺は短期決戦にする事にした。


「出来れば温存したかったんだけどな──通常手、低炎」

そう唱えるように技名を言った瞬間、俺の右手の手のひらから溢れるように炎が出てくる。


「おぉ?炎.....か。警戒、だな」


俺は相手の言葉に反応せず、手で掴み、丸く圧縮した炎を相手へ思いきり投げ飛ばす。


「いや、こんなノロノロボール、運動音痴でも当たんなくね?」


「あ、あれ...」

ところが、自信満々に投げた炎は投げ方を間違えたのか、早いどころか誰でも避けれるような、それこそ警戒になど一切値しないほど親切設計のノロノロな炎のボールとなってしまった。


そして、この失敗に相手が情けをかけてくれるわけもなく、相手はこちらへ飛びかかってくる。力の使用の余韻から、俺は思うように動けずに思いっきり顔面を殴られる。重いパンチが直撃した鼻の痛みが必要以上に脳に訴えかけ、軽い頭痛を起こす。俺は狼狽え、何とか逃げようとするが手足が動かない。

───そうだ!両目を開いたら...


「はっはっ!混乱してるだろ?苦しいだろぉ?自分の思うように身体が動かないってのは。さっさと降参しちまえよ!」


相手は俺に大きく出来た隙に付け入り、反撃をする間も与えずに俺に馬乗りになって何回も殴る。相手も普段は喧嘩慣れてないのか、息を荒らげるようになって段々と殴る速度が遅くなっていく。俺は相手に出来た隙を見逃さず、殴られ続けている間に掴んだ炎の塊を相手に投げつける。今回はちゃんといつも通りの速度だ。先程の炎は想定外だったが、それも最大限利用させてもらう。


「...?これでも俺にとっちゃ激遅ボールなんだが...ッッ!これは──」

相手は首を少し動かしただけでさっきよりも早い炎の塊を避ける。

だが、避けたのが仇になる。


──相手の後ろには、最早進む力を失っていつまでもそこに留まり続けているノロノロボールがあった。


低炎は障害物に当たったら爆発する。これは元々力に組み込まれていた設定だが、俺が何となくで理解したつもりになっているだけに過ぎない。障害物に当たった時の爆発の威力は、炎にどれだけ内界力を込めているかが威力の大きさを決める。そして、遠くに離れた低炎でも、力を解除しなければ後付けの形でいくらでも内界力を注ぎ込める。


先程俺が投げたノロノロな炎は、込めた内界力の割り振りを威力の方に偏らせすぎた結果なのだろう。

低炎は障害物に当たったら爆発する。その障害物は低炎の炎の塊でも例外ではなく、俺が今撃った炎がノロノロだった炎に当たった瞬間、周りの地面が爆ぜ、轟音が響いた直後に空気が澄んだ青色から一気に熱を孕んだ赤色へと変貌する。この爆発には相手どころか俺も巻き込まれ、結果的に自爆技に....


「俺は、炎が与える影響を受けないんだけどな」

土煙から無傷で出てきた俺は、服やズボンを軽く叩いて汚れを落とす。


そして俺は両目を開いても手足が動くことを確認し、爆発に巻き込まれて相手が気を失ったことを確認する。結界の影響のおかげなのか、今の爆発でも気を失う程度しか怪我はしないらしい。


「これで4P、か。これこの先耐えられるのか...」

これで4Pゲット、あの人には悪いが俺は勝ち残らせてもらう。


「さて、どこから行くかな」

俺はまだ痛む肩を擦りながら歩く。

しばらく歩くと、分かれ道のようなものがあり、俺はその場に止まって少し考える。こういうものはどちらかはハズレでどちらかは当たりだと決まっている。ここはよく考えて当たりの道を吟味しなければ....

「適当に右に行くか。」

そんな当たりやらハズレやらは俺にとってはどうでもいい事だった。


「あの!左にしましょう!右は危ない人達が沢山居ます!」

横から声が聞こえ、肩を少し震わせてから横を向く。翔庭さんだ。そうだ、翔庭さんもこの試験会場だったんだ。試験が始まる前に互いを激励した事を思い出しながら、

(俺はぼっちから女子と試験前に激励し合えるまで成長したのか...!!!)

と、物思いに耽っていた所を翔庭さんがいる事を思い出して翔庭さんの顔を見る。翔庭さんはキョトンと不思議そうな顔をしていて俺のあほ面も見られていたのだろう。


「あ、あ~、えっと翔庭さん?」


「はい!」


「今の顔、見なかった事にして...?」


「はい!承知しました!」


と、変な再開の仕方をしてしまったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る