わからずや

「はい、これ。探してたんだよね?」

 彼女から唐突に差し出されたのは、僕がずっと探していた四葉のクローバーだった。

 いや、よく見ると違う。四枚の葉のうち一枚だけはボンドかなにかでくっつけられていた。

「どうせあの子に渡すためのものなんでしょ。それなら、こんなもので十分だわ」

 僕の手に四葉もどきを握らせて、馬鹿にした口ぶりで彼女が吐き捨てる。

 たしかに僕は、彼女のいう「あの子」にプレゼントしたくて、四葉のクローバーを探していた。それを最後の思い出とするために。あの子が昔から大好きなモチーフで、新しい人生の門出を祝ってあげようと思っていた。

 彼女はそれが気に入らないらしい。彼女とあの子は顔を見合わせるたびに口喧嘩を繰り広げ、でも根っこのところでは馬が合っていると僕には感じていた。だから、あの子への贈り物の話をこっそり彼女にしたのだけれど。それからずっと機嫌が悪そうだった。

 あの子の話をするたびに、彼女の感情がわからなくなる。

「……あの子にふさわしいのは本物だけだから、これはいいや。ありがとう」

 そうやって、あの子の姿を思い浮かべながら伝えると、やっぱり彼女は怒って、僕の手から四葉をひったくって去って行った。

 最後に見えた彼女の目が、泣きそうだったのは気のせいだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る