あした天気になあれ

木之下ゆうり

第1話 雪が溶けたら

以前読んだ小説の中にこんなやりとりがあった。

「雪が溶けたら何になるでしょうか」

「春かな」

 衝撃的だった。世の中にはこんなにも優しい感性の持ち主がいるのだと、感銘を受けたのを今でも覚えている。

 それ以来、人と出会い仲良くなれたなら、この質問をするようになった。相手の感性を見極めたいわけではなく、ただ単純にどんな答えに出くわすのか楽しむ感覚でいた。

 ある人は水、ある人は川、またある人は水溜りと答えた。今のところ春を凌ぐ衝撃には辿り着いておらず質問をし続けている。 

 とあるお昼時にふと思い出して先輩に聞いてみた。

「先輩。雪が溶けたら何になると思いますか?」

「雪? どうした、推理の話?」

「いえ、別の話なので気軽に答えてもらえれば」

「そうか。雪が溶けたら、か」

 彼は楽しそうにくうを見上げ、そしてすぐにひらめきの表情を見せた。

「自由になるな」

「じ、自由……その心は?」

 こちらの困惑の視線の先で彼はニコッと笑った。

「雪が沢山積もったら外出を控えるだろ? 溶けたらほら、解禁だから」

 衝撃的だった。こんなにも柔軟な発想が出来る大人もいるのだと、感動して無意識のうちに拍手していた。そうか、雪は何にでもなれるのだ。捉え方次第で何にでも。

「で、これ何? 心理テストとか?」

「はい。息抜きの必要性を測るテストでした」

「嘘だろ。『自由』って仕事から解放されたい願望でしかないじゃん。え? 大丈夫? 俺?」

 そして笑いが止まらなくなった。お互いに。

「ちなみにライは何だと思う?」

「そうですね、雪が溶けたらお花見と三色団子です」

「団子いる?」

 やっぱり笑いが止まらなくなった。二人とも。

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