第3話 散髪
大衆食堂 うましかてで食事をしてから数日後、入学式前日になった。新居に生活に必要な物を全てそろえ、少し落ち着いたので俺は入学式に必要な持ち物を再確認していた。
「うん。必要なものは全て入れてるな。」
「ねぇ。ゆうくん?まさかとは思うけどそのボサボサで伸び切った髪で行く訳無いよね…?」
美乃里が裕二に問う。
「え?このまま行く予定だったけど…」
そう。入試があってから全く散髪に行っていなかったのだ。これと言ってどうしても切りたくない理由は無い。面倒だったから後日で良いやと先延ばしにしていたのだ。
「だと思った。知り合いのいる店予約してあるから今から行くよ!」
「え、ちょっいきなり!?まっ、待ってよ〜!」
「ゆうくん?しっかり髪を切らないとだめよ?髪を切らないと別れるからね!」
「ちょ、そんなぁ…」
結局、強制的に散髪する事になったのだ。場所は、自宅から約10分の所にある。ちょっとおしゃれな理髪店になっていて隣には美容室になっている。
「いらっしゃいませ~!」
「やっほー!予約してた美乃里だよーっ!久しぶりだね〜!」
「美乃里〜!会いたかったよ〜!」
「美乃里ちゃーん!やっほー!久しぶりだねぇ。元気にしてた?ってその感じだと聞くまでも無いね〜。」
店員とやけに仲が良いな。知り合いなのか?と思いつつ二人の挨拶を聞いていた。
「ってか、隣の方は?電話で話してた方?」
「そうそう、今日はこの人もお願い!めっちゃかっこよくして頂戴ね!」
「分かった。一応会員カード作っとくね。えーとー…名前は?」
「高橋裕二です。」
「私は『れい』。これからよろしくね。」
「よろしくお願いします。」
凄い清楚で美人だな…長髪だけど凄い髪がまとまっててサラサラだ。
「ん?高橋祐二?どっかで聞いたときあるような…あ!!!昔から美乃里が話してた彼氏!?ははぁん…」
と言いながらここの美容院の店員のれいさんが怪しげな顔をしながらニヤニヤしている。
「俺の事知ってたんですね。」
「いやぁね、ここに来るとね惚気話しかしなくてね…」
「ちょっと〜!恥ずかしいからやめて〜!!!」
と赤面しながら凄く慌ててれいさん口元を防ぐ。そんなになるくらい話してたのか?
「なんだよ、さっきから騒がしいなぁ…もうちょっと静かにならんのか〜?」
と奥からまた女性が現れた。今度は、いかにも金髪ギャルって感じの人が来た。
「りんちゃん!大ニュースだよ!美乃里ちゃんがついに彼氏を連れてきたの!」
「ふーん…彼氏ねぇ…え!?あの美乃里が彼氏を連れてきた!?」
店員さん二人とも、なんか…盛り上がってない?俺ら髪を、切りに来たんだけど…
「いやぁ〜ついにあの美乃里がここに彼氏を連れてくるとはねぇ…あたしは『りん』。宜しく!」
「俺は高橋裕二です。宜しくお願いします。」
「って髪長!4ヶ月からひどけりゃ半年位散髪してないでしょ。」
「まぁ、そのくらい切ってなかったですね…」
「こりゃ切応えありそうだな。れい、美乃里を宜しく〜。」
「は〜い。」
軽く世間話をして散髪が、スタートしたのだ。と言ってもなぁ…特にやりたい髪型も無いし今流行りも知らないからどうすればいいのやら…
「なぁ裕二、今回はどんな髪型にしたいとかあるか?」
「あのー実はですね、髪型とか全然分からず全てお任せでとしかお願いした時無くて…」
「んじゃぁ、こーゆー系統の髪型にしたいとかある?かっこいい系とかオラオラ系とか。」
「んー…オススメとかありますか?」
初めてしっかりと散髪するから分からないため相談してから髪を切る事にした。
「それなら…ツーブロックにして73オールバックヘアにしてバレない感じに髪も染めてみよう。」
「え?髪染めちゃだめなんじゃ!?」
「ゆうくん、もしかしてちょっと前にあった説明会での話聞いてなかったの?『過度な染髪やパーマを禁ずる。』って言ってたでしょ?要は金髪とかピンク色に染めたり、チリチリパーマにしなければ問題ないって事。だから地毛じゃなきゃ駄目なんて規則無いよ。もー…しっかりしてよねぇ。」
「ちょ、俺のせい!?しっかり話してないあの人が悪くない!?」
正直、そんな事言ってたような無いような…記憶に無い…この時、店が忙しくてその手伝いを長時間手伝っててそのせいでウトウトしてたかもな…
「夫婦の言い合いはここですんな〜家でやれ〜」
「りん(さん·ちゃん)夫婦じゃない(です)!」
「ここまで息ぴったりならもう夫婦やろ…ってか動くなー。変に髪切っちまったらどーすんだ?大人しくしてろー。」
「ごめんなさい…」
こうして散髪が終わり、後は髪染めとシャンプー、髪のセットだけ。髪がさっぱりした。
「嘘…マジかよ…」
「え、嘘…」
りんさんとれいさんが俺を見つめて固まった。どうしたのだろう。何が変なものでも付いてるのだろうか?え、もしかしてミスった?ちょ、まじなに!?
「ちょっと美乃里…」
「どうしたのよ二人揃って…何か私悪い子とした!?」
「めちゃくちゃイケメンじゃない!!!どうしてもっと早く言わないのよ!」
「なんでって言われてもー…」
なんかあっちで3人共コソコソ話をしている。なんか…店員さん2人ともすげぇテンション高くない!?
「なんかありました?」
「あーごめんごめん。あのさ、相談なんだけど、つい最近公式SNSを作ったんだけど、その髪型をアップしたくてさ、2人ともモデルになってほしいんだよ。」
「そうだ、りんちゃんりんちゃん!それなら一緒にコーデも組んで見ない?」
「それ良いな!早速やってみようぜ!」
なんやかんやあってか髪のセットまで終わり、何故か服まで着替えさせられた。普段こんな服着ないからめっちゃ恥ずかしい…
「あのー…なんでカップルコーデなんです?」
「そりゃああんたらカップルだし?それにアパレルブランドを立ち上げたんだけど、モデルの募集をかけてたんだけど中々集まらなくてね。そしてあんたたちに公式SNSの専属モデルになってほしいって思って声をかけた。モデルをするからにはしっかりお給金も出す。」
「保護者とかの許可とか必要なんじゃないですか?」
「もしもしー?パパ?おじさんと一緒にいたんだ!実は………OKだってー!」
「ちょ!?」
「許可も出たことだし、早速やりますかー!」
こうしてSNSに上げる写真をいくつか撮影する事になった。やった時無いから凄いぎこちない。モデルをするのも大変だ。
「よし、撮影終了!おつかれ!」
「終わったー!楽しかった!ね、ゆーくんってあれ?大丈夫?」
俺はその場に四つん這いになった。慣れてない事をやったために凄い疲れた。かなりの重労働の様に感じた。
「大丈夫。お疲れ様でした。どうでしたか?」
「かなり良い感じに取れたぞ。10回分の投稿分は確保出来た。」
「だからかなりの写真を取ってたんですね。」
「良い感じだから楽しみにしといてな。後これ。弁当。ここは本当は定食屋なんだけど、弁当も注文すれば出来るって聞いてね。美味しくて半年くらい前から結構リピートしてるんだよ。」
「ありがとうございます。頂きます…ってこの弁当、うちの店じゃん!」
「え、嘘!?マジで!?」
「はい。【うましかて】に来た際は一声かけていただければ予約して置きますね。」
「分かった。ありがとうな。後は…給料の事だな。各種SNSにアップし続けるけど、君たちの頑張り次第や伸び具合によっては給料が上がるから頑張れよ!これからも宜しくな。」
「分かりました。宜しくお願いします。」
こうして散髪が終わった。まさかモデルのような仕事を任されるとは思わなかったけど。
「ゆうくん、服買ったんだね。」
「うん。服そんなに持ってきて無かったから今回の撮影で使った服を何着か買わせてもらったんだ。」
「私も買えば良かったな〜。」
「いや、クローゼットに入り切らない位だから持ってるだろ。」
「あれは冬物!春物は数着しか持ってきてないし、夏と秋物の服は1着も持ってきてないからこっちで買わないと行けないのよ。」
「俺も季節物の服は最低でも2〜3着位は持っておいたほうがいいのか。また今度一緒に買いに行こうな。」
「うん!これから楽しみだなぁ。」
そう言いながら帰路につく。明日は入学式。これから彼らの高校生活に幕をあける。
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