第315話
「では、皮を剥ぎましょう」
「皮と肉の間に刃を挿して」
「バカ、鈴様が刃物を扱えるわけないだろ」
「魔法でなんとかされるだろ」
「それこそ先程と同じことになるぞ」
「刃物で切るんじゃなくて、魔力を滑り込ませて分離させればいい」
「しかないだろうな」
「ということです」
「ご理解頂けましたか?」
「え、あ、う、うん」
「……ダメそうだな」
「なんでもホイホイできたら鈴様らしくないだろ」
「う……」
「シッ。さ、鈴様、バカどもは放っといてやってしまいましょう」
「俺がバカならお前もバカだろ」
喧々諤々と言い争う声の中、鈴は魔力を……何処に滑り込ませればいいのか迷っていた。
「鈴様、基本構造は人間と同じですよ」
「基本構造……」
鈴は医学書の内容を思い出した。そして皮と肉の間を意識して魔力を入れてみた。
抵抗はそれほど強くない。むしろ抵抗の少ない方へ魔力を滑り込ませるような感覚だ。スルスルと皮が剥けていく。小さいこともあって一分と掛からず綺麗に剥けた。
「おおっ」
「美しい」
「はぁ……」
「なんなんだ」
感心する者、呆れる者、当たり前と誇らしい者、未だに信じられない者と、様々な反応を示す
「後は食べやすいよう、焼きやすいように切り分けましょう」
「関節に刃を滑り込ませると楽に切れますよ」
「鈴様には関係ないだろ」
「そうかも知れないが」
「鈴様、包丁を錬成して捌きましょう」
「今更だろ」
「お手を切られたらどうするつもりだっ」
「結界があるだろ」
「鈴様が錬成した包丁だぞ。どんな結界だろうと切り裂いてしまうわっ」
「いいや、結界の方が強いな」
「なにおぉー」
「なんだとぉー」
「止めろっ。無意味な議論だ」
「俺でも切れた結界だぞ」
「特化型と万能型を一緒くたにするな」
「お前ら黙れ!」
そんな様子をイーリンは蚊帳の外から眺めている。今は鈴よりこっちの方が興味を引くようだ。
当の鈴はというと、そんな声にオロオロとしているだけで、行動を起こさない。
「鈴様、自分の思うとおりにやっていいんですよ」
それまで
「おいっ」
「それでお腹を壊されたらどうする!」
「いいじゃないか。それも経験だ。元々そういう趣向だっただろ」
「違うっ」
「目的は探知での地形把握です」
「ネズミを捌いて焼くことは含んでないっ」
周りの
「お前ら、甘やかしすぎだろ」
「肉型が言うな」
「俺たちはお前の複製なんだぞ」
「元は同じでも、既に別人だろ」
「ほぉ、持たざる者の自覚が芽生えたのか」
「そうでは……はぁ、ああそうだ」
イーリンは、いったんは否定しようとしたが、面倒臭くなったのか、そういうことにしたようだ。
「ふんっ」
「では、引っ込んでいてください」
「あっ」
イーリンはマイクを切り、画面も全て消した。
「なにをするっ」
「早く点けなさいっ」
慌てる
「自分で点ければいいだろ」
一人平然と大人しいイーリン。
「くっ」
「そ、それは……」
「ふっ、だから既に別人だと言ってるんだ。次元収納も、全員別空間ではないのか?」
「なに?!」
「くっ」
「調整が……」
「おいおい、不安定なのに手なんか突っ込むと」
「いっ……」
「お、おい!」
「う、腕が……」
「いわんこっちゃない」
突っ込んでいた右腕の肘から先がズタズタになってしまった。
「運のいい奴め。無くならなくてよかったな」
「おい、早く治療しろよ」
「いや、それが……」
「空間が歪んだままなんだろ。先に安定させろ」
「分かってるっ。くそっ」
「はぁ……」
そんな混沌としている
「鈴様、後はお一人でやってください」
「えっ、あ……うん。分かった」
「次は、狩りが終わったら……ですね」
「う……うん」
「あっ、鈴様! って、消すな!」
「五月蠅い。点けたければ点ければいいだろ」
「くっ」
「あたしはロックなんか掛けてないんだからな」
イーリンは端末にロックを掛けていないと言うが、実際には使用に際して個人認証がある。その個人認証が通らなくなった為、
イーリンにしてみれば、特別なロックなんて掛けていない……という意味なのだろう。事実、
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