第12話
「あんたたち、大丈夫かい?」
コンビニを追い出された二人に、五十代で小柄な
たまたまコンビニの前を通り掛かったとき、店員の怒鳴り声を聞いて中の様子を覗き見ていたのだ。そうしたら子供が追い出されるところに出くわしたので、首を突っ込まずには居られなかった。
兄は突然声を掛けられ、反射的に逃げなくてはと思い、鈴の手を取ると走り出した。
「ちょっとお待ちよ」
しかしそこは誰もが呆れるお節介オバさん。華麗に兄の腕を掴み、決して逃がさなかった。
「うわっ、なぁにあんたたち、泥だらけじゃない。しかも下水臭くて鼻が曲がりそうよ」
遠慮の無いオバさんの言葉に、兄は改めて自分たちの格好が如何に汚れているかを実感させられた。
「それじゃ追い出されて当たり前だよ」
叔母さんの正論に、兄はぐうの音も出なかった。実際追い出されている。何処かで汚れを洗い流さなければと考えた。
現状可能性があるのは、公園の水道か川の水だろう。一番良いのは銭湯だが、兄は鈴を一人にすることを良しとしない。だから自然と選択肢には含まれない。
「うちにいらっしゃいな」
「えっ?」
オバさんは兄の腕を掴んだまま歩き始めた。
「離して下さい」
兄は抵抗したが、そう簡単にオバさんの拘束から逃れることはできず、ズルズルとオバさんに引きずられた。
「そんな格好じゃ何処にも行けないでしょ。うちでお風呂にお入り。服も洗濯してあげる」
そう言われ、兄は喜びそうになったが、見ず知らずの人にそんなことをされる
「結構ですっ」
「子供が遠慮するんじゃないよ」
「遠慮ではありませんっ。ちょっ、離して下さいっ。誰か!」
「ほら、行くよ」
兄が助けを求めても、周りの人は遠巻きに避けるだけで誰も助けようとしない。
ある者は揉め事に関わりたくないから。
ある者は二人の格好を見て無視。
ある者はああまたあのオバさんかと放置。
だからオバさんの進行方向は、ササッと人が
兄は、これは逃げられないと悟り、大人しく付いていくことにした。
「あんたたち、何処でそんなに汚してきたんだい?」
兄はなにも答えず、ただ引かれるままに歩いている。
「えっと」
「リィン、話さなくていい」
鈴が代わりに話そうとするが、兄が遮った。まだ気を許すわけにはいかないからだ。
「おや、リィンちゃんっていうのかい?」
「違うけど、そうです」
「答えなくていい」
「ふふっ、オバさんはね、節子っていうのよ」
「聞いてません」
名を教えてもらったところでそう呼ぶつもりは無いし、覚えるつもりもない。
「お兄ちゃんはなんていうんだい?」
やはり兄は名乗らない。
だからオバさんは質問する対象を変更した。
「リィンちゃん、教えてくれるかい?」
「教えなくていい」
「お、お兄ちゃんは」
鈴はチラリと兄を見ると、怖い顔で鈴を見ていた。とても顔を合わせていられないので、直ぐ顔を俯けてしまった。
「お兄ちゃん……です」
「おや、そうかい。じゃあ、そうなんだねぇ」
「はい……」
「おうちは? ご両親は? お腹空いてないかい?」
その後もオバさんは色々聞いてきたが、その全てを兄は無視し続けた。
鈴は答えた方がいいと思いつつ、ただオロオロすることしか出来なかった。
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