第32話 灼熱のフィナーレ
地上では魔王崇拝者たち1000人との乱戦が始まっていた。
まず闘技広場へと敵の前衛戦士が駆け下りてきて俺たちを遠巻きに囲んで徐々に距離を詰める。さらに後衛の弓、魔術師が射程距離を生かし高威力の遠隔攻撃を撃ってきた。
机上なら包囲完了で俺たちは詰みだが、ムスターファが【アンチマジック】【火炎防壁】を発動したことで真逆に状態になった。
なぜならこの二つの防護がチートレベルに凄まじくレベル60以下の物理攻撃と魔法攻撃をすべて無効化するようなのだ。しかも【火龍王の加護】のバフがかかった俺とディオーネもその恩恵を受けている。
これがどういう状況かというと、この防護を破るにはレベル60超の戦力が必須なわけだが、ここにいるA級〜B級冒険者はレベル20〜50相当しかない。つまり1000人いようと1万人いようと、その攻撃は火龍王ムスターファと俺たちには無効という状態なのだ。
すると地面が揺れるほどの衝撃が走る。ムスターファが【龍王化】したのだ。
「愚か者どもには、灼熱の畏怖を与えてやろう!」
【龍王灼熱ブレス】
ムスターファの口から放たれる灼熱の炎が、段上の後衛部隊を一掃する。その暴力的な灼熱と破壊により、後衛の魔術師たちが次々と倒されていく。
「わっはっは!脆過ぎるぞこやつらは!」
ムスターファはさらに後衛弓部隊に突撃し、凶悪な尻尾を振り回して次々と蹴散らす。さらにディオーネがマシンガンのような高速射撃で追撃し、戦いを圧倒していく。一歩的に倒され、混乱した後衛の一部が逃げ出そうとしたがムスターファ【龍王の暴風】によって逃げ場を塞がれ、さらに灼熱ブレスを浴びせられ壊滅していく。
俺はというと前に出てきた前衛達を高速で一方的に殴り倒していく。敵の剣士の集団が、一斉に俺を囲もうとするが、引き寄せた上で【ファストアタック】や【乱撃】を使い一気に葬った。
スタンド上の部隊にはもう逃げ場がなく、灼熱ブレスと強烈な矢弾に襲われ続けて大混乱に陥っている。前衛はというと、たった一人の棍棒使いに無双され蹴散らされるという屈辱的な状況。まさにワンサイドゲームってやつだ。
ちょうどその頃、地下から美月とアルティナが俺たちのところへ戻ってきたので、ムスターファが二人にも【龍王の加護】を与える。
「なにこれ……私の出番あるの?」
呆れ顔のアルティナだったが、とりあえず大魔法を発動し俺の周囲の敵を掃討しはじめた。美月はアルティナの詠唱が邪魔されないよう周囲の敵を叩いている。
「もはや興が乗らんな……よし皆、背中に乗れ。」
ムスターファはそう言うと、両手を地面に突き立てて、聞き取れない言語の詠唱を始めた。何かやるつもりだろうか。
俺たちは急いでムスターファの背中に乗り込んだ。見渡すと敵は残り半数といった感じか、少数でよくもまあ500人近く倒せたもんだ。これ以上時間をかけて魔族師団が動いてしまうと面倒だ。
「まあ、このへんが潮時か。」
俺がボソっと呟くとムスターファが首を上げニヤリと笑う。
「何を言ってる、フィナーレはこれからぞ」
すると、グラグラとコロシアム全体が揺れはじめ、轟音と共に地面が割れて陥没し始める。それと同時にムスターファが飛翔し上昇すると、目を赤く輝かせてスキルを発動した。
「【大噴火】」
発動と共に、コロシアムの地面が円形に拡大しながら崩れ、裂け目から爆炎と溶岩が大量に吹き出し周囲を焼き尽くしていく。灼熱のマグマ海は瞬く間に広がり、残っていた魔王崇拝者たちを呑み込みこんでいった。
「ムスターファ……ちょっとやり過ぎじゃね?」
俺はドン引きしていたが、ムスターファはただ笑みを浮かべるだけだった。
「もうここが溜まり場になるもとはないな、わっははは!」
ディオーネも驚愕の表情を浮かべている。
「これでは災害級どころか天変地異ではないか……こんなバケモノと喧嘩してたとは……」
マグマはコロシアム遺跡全体を呑み込み、建物は次々と崩壊し、燃え尽きていく。敵の姿はもう見当たらない、誰もこの大災害からは逃れられないだろう。壮絶な光景を、俺たちは空からただ傍観するしか無かった。
「また我が……神話になったなぁ」
とムスターファは誇らしげに自画自賛している。
あと一番驚いたのが、1000人以上倒した事でアルティナと美月がレベル59まで一気に上がったこと。彼女らは最上位職や真の勇者を経ればすぐ60になるはず。俺に至ってはそもそもレベル上限が無いので一気に63まで上昇している。ディオーネとムスターファのレベルも少し上昇したようだ。
「そういや美月、地下に敵はいたのか?」
「うん、メーデスよりも強い鬼神アグニスがいた、でもニコルと一緒に倒したよ」
へえ!やるじゃん美月。さすがは勇者ってところか。このメンバーなら案外魔王もあっさり倒せたりするかもな。
すると美月が何やら考え込んでる。
「でもね、その鬼神が……魔王の正体は半分人間だって言ってた」
「え?どういうことだ!?」
「あと、魔王と繋がってる裏切り者は……大神官メーディアだと思う」
美月はそう言うとアルティナの方を見た。
「私もそう思う…でも、今どうこう出来る問題じゃないわ」
アルティナはそういうと考え込んでしまった。
「大神官は……国王に匹敵する強大な権力者だ、確実な証拠も無しにそんな主張すれば、死罪は免れんぞ」
ディオーネはそう言いながら腕組みして黙った。
確かに、政治に口を出さないだけで大神官メーディアは王国の権力の半分を握るっているわけだからな。しかも120年以上かけた権力地盤は相当に堅いだろうし、何より伝説の勇者オーディーンの娘ってカリスマまである。美月とアルティナがそう確信してるなら、彼女の裏切りは間違いないんだろうけど、正攻法で今どうこう出来る相手じゃない。
「一緒に聖地に行きましょう。必ず何かヒントがあると思う。」
アルティナは、俺をジッと見た。
え?まさかご両親に挨拶をしにいくっていう例のイベントですか?心の準備がまったく出来てないんですが。
俺たちは王都に着くと、ディオーネさんに同行し、冒険者ギルドに戻ってマスター・ゼロスに成果を報告した。もちろんX級冒険者オビオンの裏切りについてもだ。大神官の件をゼロスに伝えるかはディオーネさんに任せているので今回はあえて報告しなかった。
——おそらくオビオンを操ってるのは大神官メーディアだと俺は予想している。理由は奴の能力「思考予測」がメーディアの【心眼】と類似しているからだ。特に盲目状態でも俺が見えていた挙動にピンと来た。
もし黒幕確定なら彼女で間違いない。
俺たちはこれから聖地に向かうことを告げて、ディオーネとはここで解散することにした。
「戻ってきたら祝杯でもあげよう、良い店を知っている。もちろん私の奢りでな。」
ディオーネは初対面ではピリピリしてて怖い人だったが、道中で話してみると案外気さくで話せる人だった。思ったとおり軍人上がりで、レンジャー部隊の将軍だったらしいが軍部内での権力闘争に嫌気がさしてX級冒険者になったらしい。マスター・ゼロスとは軍隊時代から親交があったらしい。
俺たちはゼロスとディオーネに別れを告げると、王城には立ち寄らず、すぐに王都を出た。
そして、すべての謎と疑問の答えを探すために、聖地クエルクスへと向かった。
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