コロシアム廃墟編

第27話 つわものどもが夢の跡

 俺たちは、歓楽街で連日連夜、遊びまくっていた火龍王無スターファの首根っこをつかみ、美月とニコルとも合流し、専用ジェットでムスターファ旧防衛都市リトグラスの廃墟に向かっていた。


 マスター・ゼロスの喧嘩大作戦の概要は、まず俺が討伐して従えてる火龍王ムスターファを冒険者ギルドが『偽物』と判断し、クエスト報酬の支払いを認定していないというフェイク情報を流す。それに納得出来ない俺たちが実力を証明するべくギルドに挑戦状を送る。それを受けて冒険者ギルドがリトグラス廃墟のコロシアムを対面・対決の場所として指定する。といったシナリオだ。


 あの吟遊詩人や、ギルドの工作員が頑張ったことで、『その噂フェイク』はここ数日で国中に広まっていた。その証拠に、国境警備の任についている南部方面軍が、リトグラスへ通じる街道をすでに封鎖しているとのことだった。対外的には冒険者ギルドの内部紛争であって、コロシアムで起こる事象に、国は一切の関与をせずの姿勢を保っているようだ。


 ここまではマスター・ゼロスの想定通りだが、重要なのは以下の作戦を同時に実行し成功さるせことなのだ。


 ・俺とムスターファがX級冒険者二名を相手にコロシアムで大喧嘩をする

 ・喧嘩のどさくさに紛れ美月とニコルで地下に潜む敵リーダーを排除する

 ・地上に逃げてきた残党らを全員で一気に殲滅する


 火龍王も交えた大喧嘩で多少派手なドンパチが起ったからといって、所詮は他国ギルド間の内部紛争でしかなく、魔族師団には越境、北上する大義名分がない。

(ちなみに鬼神メーデスのスルバス襲撃は、魔王暗殺未遂の勇者美月を捕らえるという大義名分があった)


 俺たちは、空を飛ぶムスターファーの背中越しに、旧防衛都市リトグラスの荒廃した姿を見下ろしていた。


 眼下には広がる瓦礫の山々、崩れた建物の残骸が延々と続いている。戦争の悲惨さがここに集約されているといったところだ。かつては人々が暮らし、繁栄していたであろう都市が、今では静まり返った廃墟となり果てていた。


 リトグラスから国境の紛争地域にかけては砂漠に近い荒野となっていて、風に乗って漂う砂埃が、都市全体をもっさりと覆い、その廃れた雰囲気に拍車をかけている。街を取り囲む防壁には戦争の爪痕が残っており、破壊され崩れた壁や、倒れた塔が見える。見渡す限り、生命の気配はなく、そこにあるのは破壊の静寂だけだ。


 旧市街の中央付近まで来ると、廃墟となったコロシアムが見えてきた。その巨大な石造りの構造は、時間の経過にもかかわらず、その威容を保っていた。かつて戦士たちが最強を夢見、技を競い合ったであろう場所が、今では死んだ都市の象徴となっている光景には、なんとも言えない寂しさがある。


 するとコロシアムの中央の闘技広場に、二人の人影が見えた。一人は長髪の女性で、もう一人は全身に鎧を着込んだ戦士の格好、おそらくX冒険者のディオーネと、オビオンで間違いない。


「ムスターファ、さっき話したように、俺とお前のタッグであの二人と決闘するからな。地下の連中に疑われないように、そこそこ本気で、とはいえ殺さない程度で上手くやってくれよ。」


「わっははは!我のことよりも己の心配をするのだな!」


 相手は人間だしムスターファより強いとは思えないが、気をつけなければならないのは、美月とニコルが敵のリーダーを排除するまで時間を稼ぐことだ。


「私は喧嘩には参加せず、地下への出入り口を見張って、出て来た敵を排除すればいいのよね?」

アルティナが俺の隣で静かに呟く。


「ああ、そういうこと。今回の作戦は各自の働きにかかってる。気合い入れていこうぜ!」


 皆が頷き、それを合図に俺たちはコロシアムへと降下し、剣闘場へと降り立った。


 ディオーネさんが、周囲に潜んでいるであろう『アザゼル』の密偵にあえて聞かせるような大声で叫ぶ。


「お前が火龍王の討伐を偽った棍棒勇者か!我々はその実力が本当か否かを確かめるべくギルドから派遣された者だ。ここならばどれほど暴れようとも誰にも被害は及ばない、仮に殺してしまったとしても目撃者もいない。それでも私たちと勝負をするかい?」


 演技と分かってるけど、この人の言い方がなんか怖い。まさか本気で殺す気じゃないよね?


「ああ望むところだ!俺たちの伝説が本物であることを、その身をもって分からせてやろうじゃないか」


「我のこの偉大なる姿を見ても、まだ偽物と申すか愚かな人間どもめが。お前達こそ我の灼熱で消炭になったとしても、恨むでないぞ!」


 おお、いいねムスターファ、でも本当に消炭しちゃだめだぞ、わかってると思うけど!ていうかオビオンさんて、ここでもまったく喋らないのね。


 今度はディオーネさんが、ギリギリ俺にだけ聞こえるような声でそ言った。


「お前達の、特に棍棒勇者の実力がどれほどのものか、じつは本気で気になってたんだ。まあこういう任務に事故はつきものだしな、殺す気で行かせてもらう。」


 ん?いまのってもしかして本音?……目が、マジなんですが。


 とりあえず二人の能力をサーチキャストする。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 [ディオーネ]

 デススナイパー Lv.72

 HP:1780 MP:849

 体力:195

 攻撃:275(漆黒の死弓 +600 貫通60) 

 (ヴェノムスティング +350 貫通40)

 防御:195(大精霊の妖装 +400 上位魔法体制70)

 俊敏:235

 魔力:165


 体術:Lv.50

 弓術:Lv.72

 剣術:Lv.45

 魔術:Lv.35


 スキル:【隠密】※不可視


 [オビオン]

 剣豪 Lv.72 

 HP:2350 MP:657

 体力:235

 攻撃:310(絶影の剣 +545 )      

 防御:245(影霊の鎧 +555 上位魔法体制60)

 俊敏:195

 魔力:165


 体術:Lv.65

 剣術:Lv.72

 魔術:Lv.30


 スキル:【隠密】※不可視


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 え……レベル70超えてるっていうかもはや人類最強レベルかよ!

 さすがはX級冒険者に選ばれるだけのことはある。



 しかもなんだこの武器の性能は!とくに援護も攻撃も兼ねるディオーネさんの弓術はやっかいだ。貫通が発動すればムスターファとて無傷じゃすまない。


 ただオビオンさんの気配が、何か気になるんだよな、どこかでこういうタイプに会ったことあるような……まあやってみれば分かるか。


 そもそも、レベル45の俺じゃ、俊敏と基礎攻撃力以外のすべての面で二人に大きく負けてる。今回、ニコルは美月と行動するから【ファランクス】には頼れない。

 ただ俺にも新しい体術スキル【乱撃】(4連撃)と【瞬速】(速度2倍)が増えてるし、こんな強者と戦える機会なんてめったにないんだ。


 むしろ命懸けの真剣勝負の方が、俺の集中力も、気持ちも昂るってもんだ。


 そもそも、純粋な斬り合い殴り合いなら俺は、絶対に誰にも負けないからなぁ!



「じゃあ始めようか!俺を真剣にさせたこと——後悔させてやるよ!」



 俺が両手に棍棒を握り飛び出すと同時に、全員の作戦行動が開始された。

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