第6話 二人の天才

 数分後、馬車の御者が叫んだ


「勇者様、見えてきました!どうしましょう」


前方50mほどの距離に黒づくめの一団が見えた。


「ここでいい!止まってくれ!」


交差路の広くなっている場所にその多くが集結していている。そのうちの数人が豪奢な馬車を魔族領へ至る街道に移動させている最中のようだった。


俺は視線を集団に向けたままアルティナに伝える


「あの馬車を持っていかれると厄介だ!ぶっつけ本番でいけるか?」


「やるしかないんでしょ、私はなるべく後方から支援する」


「おっけ!適時指示をだす!」


そのやりとりを聞いていた御者がオロオロしながら


「勇者様、私はここで待っていますが、状況が悪そうなら勝手に引き返しますよ」


俺は御者を見て頷く


「そうしてくれ、でもあんたは、伝説の始まりの生き証人になると思うぜ!」


そう言い終えると同時に俺は、前方の集団に向けてダッシュした


「アルティナ!あの集団の真ん中にいる奴を俺だと思って倒してくれ!」


それを聞いたアルティナは一瞬考えたが直ぐに攻撃呪文の詠唱を始めた


「【二重詠唱】」


「世界を浄火し炎の神よ。罪深き大地を漆黒に染めし原始の赤よ、我が名において深淵の混淆より灼熱の憤怒を放て—【煉獄・焦炎の焔嵐】」


最も近かった敵兵の1人が俺に気付き向かってくる、そのタイミングで、集団の中央付近に巨大な火球が現れ、真っ赤に輝き凝縮したかと思うと爆音と共に円形に広がり凶悪な灼熱が円内部を埋め尽くした。


巻き込まれた敵兵士たちの悲鳴が上がり、飛び出していた敵兵が気を取られたのを見て俺は棍棒一撃と【ノックバック】を見舞う。兵士は後ろに飛ばされた勢いで円内に戻され爆炎に巻き込まれた。


その直後落雷のような轟音が鳴り熱風の竜巻が円内を覆い尽くした。

おそらく魔法スキルを使って威力を重ねがけしてのオーバーキルだろう。


(すごいな、天才かよ)


アルティナはあの短い会話だけで俺の意図を読み取り瞬時の判断で最適な攻撃を実行したのだ。まさに阿吽の呼吸、前衛にとってこんな頼もしい後衛はいないだろう。


ほとんどの敵兵達は焼け焦げ倒れたが、士官らしき剣士は攻撃を耐え凌いだようだ。


「さすがにレジストしたなレベル40!」


耐えたとはいえ剣士のHPは半分以下になっている。

豪奢な馬車を先導していた連中が異変に気がつき、その中から魔術士風の男だけが踵を返し戻ってきた。


それを見たアルティナが魔術士官向かって速射性のマジックアローを放った。レジストされたが奴の注意はアルティナに向けられた。


「さすが解ってるな」


そういう言うと俺は、前方の剣士に攻撃を仕掛けた。

盾で防がれノーダメージだ。魔剣士は叫ぶ。


「この雑魚戦士は囮だ!後ろの女をやれ!」


それに呼応した魔術士はアルティナに向かって攻撃魔法を唱えた。

2人の魔法使いの攻防が始ったので俺は目の前の剣士に集中する。


舐めた魔剣士が大振りの一撃を放ってきたので、俺はゼンの腕輪を外し上回る速さと異能で難なく回避する。

その常軌を逸した動きに驚く様子の魔剣士。


直後、俺は禍々しい紫煙を放つ別の腕輪を装着しスキルを使用する


【ラストリゾート】


ラストリゾートは狂気の腕輪に付与されたアイテムスキルでHPが残り1になる代償に攻撃力が3倍になる戦士用の一か八かの玉砕スキルだが、死んだら終わりの世界で使う奴はまさに狂気だ。


「やけくそになったか!その武器(棍棒)では意味がないぞ!」


俺は簡単に盾を掻い潜り棍棒を叩き込む、今度はダメージを与えたが相手のHPはまだ結構残っている。


魔剣士はニヤリと笑い、スキルを発動する。


「これで終わりだ、【疾風連斬】!」


攻撃力を犠牲にする代わりに四連撃を繰り出す剣術スキルだ。状況判断としては完璧な反撃と言えるだろう。


「だが相手が悪かったな!」


俺は四連撃を【時を統べる者】スローモーションですべて回避すると【ファストアタック】を発動。

最初の敵兵から数えて四度目となる攻撃が【ワールドブレイク】確定、3倍攻撃力が防御貫通で直撃、さらに追い討ちのニ撃目が決まり、魔剣士は倒れた。


 その頃、アルティナと魔術士官のバトルが続いていた。

【自動防壁】【上級魔法耐性】がありつつ神聖魔法で回復、さらに防御魔法で魔法防壁を展開する万能アルティナにレベルでは格上の上位魔術士が苦戦を強いられていた。


攻め手に困ったのか拡散魔法で多方向から同時に攻撃するがアルティナは防御魔法壁を各方位に細かく分散させ全ての攻撃を防いでいた。


簡単にやってるように見えるが、消費魔力を抑えつつ多方向を守る防御術は、頭抜けた才能の持ち主が相当な修練を詰まないと不可能な芸当だ。


 しばらく攻防の様子を見ていると、アルティナが大きめの反撃魔法を唱え始めたので、俺も後方から魔術士へ一撃を見舞う、まさか魔剣士が倒され俺が参戦するなど想定してなかった魔術士は物理防御を展開しておらず素の防御力では【ラストリゾート】の棍棒攻撃を防ぎきれずダメージが入った。


その直後、アルティナの放った雷撃が魔法防御壁を掻い潜り魔術士に命中、高レベルだけあり魔法耐性でレジストしたようだが結構なダメージを与えた、しかしまだ3割はHPが残っている。


初手で大魔法を放ったアルティナはもうMPが残り少ない。


その状況を察した魔術士は自身に物理防御壁を発動させる。アルティナさえ倒せれば俺は後からどうにでもなるという判断だろう。


「普通は正解だが、今日は間違いだ」


俺はCTを終えた【ファストアタック】の二連撃を発動。

一撃目は物理防御壁で防がれたが、二撃目が【ワールドブレイク】が確定、3倍攻撃が貫通し魔術士は倒れた。


こうして俺たちの初戦は見事な勝利となった。


 30人近い魔族兵団をほんの数分で、たった2人で壊滅する光景を目の当たりにした馬車の御者は驚き、俺たちを賞賛した。特に棍棒だけで強敵を屠る俺の姿に衝撃を受けたようだった。


「私じつは、吟遊詩人が本業でして、この目で見た二人の活躍を唄い伝えたいのですが!」


「構わんよ、どんどん広めてくれたまえ」


「ありがとうございます!」


「そんな事より、捕まった馬車を守っていた数人の魔族兵士は逃げちゃったわよ。」


「ふふふ、魔族側でも棍棒勇者の伝説が広まるだろうなぁ」


「まったくアナタって人は…まあでも、横目で見てたけど凄かったわ、戦闘に関しては本当に天才的ね」


アルティナに褒められたのは正直嬉しい。

俺に言わせればアルティナこそ本当の天才だと思う。


「まあともかく、おかげで結構レベルが上がったよ」


ステータスを見るとレベル21まで一気に上昇している。

アルティナも1つレベルが上がったらしい。


さて、あの豪奢な馬車には誰が乗っているのだろう。


俺たちは放置されている馬車に近づき扉を軽く叩く。


「私は王直属魔道士アルティナ、魔族軍は勇者様と共に排除いたしました」


アルティナが扉越しに優しく語りかける


「もう大丈夫ですよー!」


俺も続けて叫んだ。


一瞬アルティナに睨まれたが、直後ドアがゆっくりと開き、中にいた人物が恐る恐る出てきた。


それは驚く人物だった。

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