ありがとう。ごめんなさい。ずっとだいすき。

【1】

 「そっちは、どうなの?」

 「うーん、まぁまぁかな」


 「何だか少し瘦せちゃったね。ちゃんと食べてる?」

 「うん。今は普通に食べられる様になったよ」


 「仕事はどう?」

 「少し休業してたけど、仕事も普通にやってるよ」


 「そうなんだぁ。良かったぁ」

 「シビアな世界だからねぇ、あんまり休んでると自分の席がなくなっちゃうかもしれないし」


 「そうだね。風邪とか引いてない?」

 「引いてないよ。てか、小学生じゃないんだから」


 「おたふく風邪とかにもまってないの?」

 「なってないよ」


 「偏頭痛とかなってない?」

 「なってないよ」


 「目眩とか大丈夫?」

 「大丈夫だよ」


 「節々の痛みとかは?」

 「いや、医者じゃないんだから」


 「ふふっ、聴診みたいになっちゃった。胃潰瘍とか大丈夫?」

 「まだ続くの?」


 「口内炎とか歯槽膿漏とか知覚過敏とか扁桃腺炎とか歯肉炎とか大丈夫?」

 「何そのオーラル系の畳み掛け」


 「野球肘とかになってない?」

 「なる訳ないでしょ。私の人生に野球の〝や〟の字もないし」


 「テニス肘は?」

 「いや、テニスの〝テ〟の字もないし。てか、スポーツの〝ス〟の字もないし」


 「スポーツ全般駄目だよね、昔から」

 「駄目だったねぇ。何もかも駄目だったねぇ」


 「球技なんか見てられなかったもん」

 「えっ、球技は割と得意なんだけどなぁ」


 「その自信は何処から来るのさ」

 「体育の授業で結構活躍してたもん」


 「コントロールヤバいじゃん」

 「そんな事ないし。滅茶苦茶チームに貢献してたし」


 「リーダーシップだけでしょ」

 「背中で語るリーダーだったもん」


 「跳び箱とかも全然だったじゃん。スキップも出来ないし」

 「スキップは出来るよ、ほら」


 「あっ、出た。懐かしい、その、水中でやってるみたいなスキップ」

 「水中じゃないってぇ」


 「足も遅かったよね」

 「遅くないよ。私、リレーでは無双してたし」


 「それは一周も二周も遅れてたんでしょ」

 「バレてたか」


 「バレるバレないの次元じゃないでしょ」

 「そう云えば、私こないだ仕事で全力疾走したの。もう、筋肉痛で筋肉痛で」


 「えっ、仕事で走ったの? どういう事?」

 「息を切らす場面だったからさぁ、直前にめちゃめちゃ足踏みしたの」


 「えっ、そういうもんなの?」

 「んーん、やった方がいいかなって思って。二、三十秒やったらいい感じに息切れして見事に一発オッケー」


 「二、三十秒で筋肉痛になったの?」

 「体育の授業以来の本気の走りだったからねぇ」


 「にしてもだよ」

 「それでさぁ、なんと、甲斐崎統志郎さんと一緒になったの」


 「えっ、甲斐崎統志郎さんって、すごい有名な人だよね?」

 「そう。大ベテランの方」


 「だよね? 私でも名前聞いた事あるもん」

 「私、緊張し過ぎてミス連発しちゃった。でも、甲斐崎さんも何回かミスってたから、ちょっと楽になったぁ。なんか、猿が木に落ちる瞬間を目の当たりにしてちょっと嬉しかった」


 「解るぅ。先輩がミスると正直ほっとするよね」

 「で、甲斐崎さんはミスると、〝ごめぇん〟って舌出すの」


 「嘘? あんなシブい声の人がそんなキャラなの?」

 「そうなの。実際はすっごくフランクな人でびっくりしたの」


 「知らなかったなぁ」

 「すごくダンディな雰囲気なのにすごく話しやすくて、休憩時間とかいっぱい喋っちゃったぁ」


 「そうなんだぁ」

 「ダンディとフランクって対義語だと思ってたからさぁ、こんな方がいるんだぁって感激しちゃった」


 「その二つを兼ね備えてるってすごいね」

 「そうそう。ホントに素敵な方」

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