【10】

 「やっぱそうか」

 「あのカレー食いてぇな、前に何回かお前んちで食ったやつ」


 「ウシヤマカレーか」

 「あれ美味かったなぁ」


 「絶品だろ、あれ。俺が試行錯誤の末にやっと辿り着いた味だからな」

 「えっ、あれってお前が作ったのか」


 「マジか、お前。誰が作ったと思ってたんだよ」

 「てっきりお前の母ちゃんかと」


 「母ちゃんじゃねぇし。母ちゃんの手柄になってたのかよ」

 「自分の母ちゃんが作ったカレーをやたら褒め千切って勧めるなんて気持ちわりぃなって思ってたから良かったよ」


 「俺もマザコン疑惑が晴れて良かったよ。てか、お前は此処に来てどれぐらい経ったんだよ」

 「半年しか経ってないからまだまだだよ」


 「そうか。済まなかったな」

 「お前は悪くない。悪いのはあいつだから」


 「まぁ、そうだな」

 「思ってたより早くバレたけど、目的はちゃんと達成したぞ」


 「そうか。それは良かった。緊張したろ?」

 「緊張なんかより恨みの方が強いよ。でも、いざ実行したら頭真っ白になった」


 「後悔はしてないのか」

 「後悔なんかする訳ねぇだろ」


 「てかお前、よく奴の居場所が解ったな」

 「SNSを駆使したわけよ。報道で名前出てからSNSで検索したらあいつの目撃情報がSNSでバンバン見付かって、それを頼りにあいつを付け回してたわけ。あいつのあのでっかい躰と真っ赤なボンバーヘアがいい目印になったよ」


 「でかかったな、あいつ。赤髪だったし。鮮明に覚えてる。見た目変わってなくて良かったよな」

 「ありがたい事にあいつ、俺を見付けろと云わんばかりに滅茶苦茶目立ってたから助かったよ」


 「強烈な見た目だもんな」

 「てか、ピアノ弾きてぇな」


 「出た、ピアノ弾けるアピール」

 「アピールじゃねぇし」


 「俺にピアノ弾けるアピールしてどうすんだよ」

 「こっちの台詞だよ。アピールじゃねぇって」


 「大体、ショパン弾きたい気分って何なんだよ」

 「時々、そんな衝動に駆られんだよ。ピアニストあるあるだぞ、これ」


 「自分をピアニストの括りに入れんなよ」

 「ところでお前は、此処を出たら何がしたいんだ」


 「千葉にリベンジ」

「まだあいつに未練あんのかよ」


 「滅茶苦茶食い気味にフラれたからな。傷心中の女はガードが緩い説を唱えてたからチャンスだと思ってたんだけどねぇ」

 「傷心中って、千葉もフラれたのかよ」


 「お前、知らなかったけ。四十二歳のサラリーマンと付き合ってたと付き合ってたらしいぞ」

 「マジかよ。全然知らなかったよ、そんな衝撃の事実」

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