嫁が親友2人との不貞を自白し「私は3人の妻になりたい!」なんて言ってきたから離婚したが、再婚した俺を元嫁が裏切り者と罵り逆恨みしてくる。

panpan

第1話 星 暁①

 俺の名前は星 暁(ほし あかつき)。

26歳の一般会社に勤める普通の会社員。

俺には1つ年下の妻、夜空(よぞら)がいる。

夫である俺が言うのもなんだが、かなり美人な女性だと思う。

彼女とは高校時代に付き合って、そのままの流れで結婚した。

俺は会社……夜空は週3のパートで生活費を稼ぎ、家事は互いに協力し合っている。

子供はまだいないが、近いうちに作ろうかとは話している。

そんなどこにでもあるありふれた日常ではあるが、俺はそれなりに幸せだと思うし、夜空もそうだと思っていた。

これからも変わらぬこの結婚生活に不満もなかった。

そんな俺の結婚生活が……ある日突然崩壊してしまった。


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「ただいま~」


 その日……俺はいつも通り定時に会社を出て、特段寄り道もせず家に帰宅した。


「おかえりなさい」


 帰宅した俺を夜空が出迎えてくれた……この日はパートが休みだからごちそう作って待ってくれていたんだろう……なんて思いながらリビングに行くと……。


「よう暁……お邪魔させてもらってる」


「おっお久しぶりです……暁さん」


「天樹! 流!」


 リビングにいたのは俺の幼馴染の奏石 天樹(そうせき てんき)とその弟の流(ながれ)。

天樹とは昔からよく飲みに行く腐れ縁で、流ともたまの休日にゲームをして遊ぶ仲だ。

夜空とも仲が良く、去年は忘年会と称して4人で焼き肉を食べに行ったっけ……。

しかも2人ともかなりのイケメンで、一時期モデルとしてファッション雑誌に載ったことがあるくらいだ。

自由奔放な天樹はフリーターで流はまだ大学生だったか……。

まあ色々言ったけど、家に上がっていてもそんなに不思議には思わないくらいの関係ってことだ。


「2人共どうしたんだ? 来るなら来るって連絡しておいてくれよ」


「あぁ……悪いな」


「……」


 どこかよそよそしく感じる2人に違和感を感じたが、それ以上に奇妙なのは夜空だった。

出迎えた時からそうだったが……どこか思いつめたような顔をしている。


「夜空、どうした? 具合でも悪いのか?」


「ううん、大丈夫。 それよりあっくん、話があるの」


 あっくんというのは夜空の俺に対する愛称。

高校時代から暁の”あ”を取ってあっくんと呼んでいる。

若干恥ずかしさはあるものの……本人が呼びたがっているからそのままにしている。


「話? なんだよ改まって……」


 先ほどまで曇っていた顔立ちから一変し、なんだか覚悟を決めたようにまっすぐな目で俺と1度目を合わせたかと思ったら……突然頭を床に押しつけて俺に土下座してきた。


「なっなにやってんだよ!?」


「あっくんごめんなさい! 実は私……天樹君と流君とお付き合いしているの!」


「……は?」


 夜空の言葉の意味が理解できず、思わず俺は聞き返してしまった。


「私……天樹君と流君とお付き合いしているの。 体の関係も……あります!

黙っていてごめんなさい!!」


「じょっ冗談はやめろよ……」


「冗談じゃないわ……」


 夜空は律儀にも、自分のスマホを俺に差し出し……その中に入っていた不倫写真やラインの履歴を見せた。

不倫を信じる分にも不倫を立証する分にも十分な証拠だろう。


「えっと……ちょっと待て……要するにお前、天樹と流と不倫していたってことか? いっいつからだよ!?」


「天樹君とは1年前に……流君とは3ヶ月くらい前に交際を申し込まれたの。

最初は不倫なんてダメだって思ったけど……2人は私とあっくんの仲をどうこうする気はないって……ただ、あっくんのように愛してくれさえいればいいって……だから私、決めたの!!」


「なっ何を?」


「あっくんと天樹君と流君と私の4人で温かい家庭を作るって!! 私は……3人の妻になりたいの!!」


「……は?」


 一体どういうことだ?……夜空の言っていることが全く理解できない。

要するに2人と不倫していたってことなんだと思うけど……頭が混乱して怒りすら湧いてこない。

3人の妻になりたいってどういうこと?


「あの……言っている意味がよくわからないんだけれど……」


「2人の関係を黙っていたことは申し訳ないって思ってる!!

あっくんと結婚してからはあっくんのことだけを生涯愛し続けようと思っていたよ?

でも私、あっくんのことも天樹君のことも流君のことも大好きなの!

1人だけを選ぶなんて私にはできない!

私は3人のことを心から愛しているの!!」


「はぁ……」


「もちろん、あっくんが慰謝料を払えというのなら何年掛かっても払うし、子供のことだってちゃんと考えてる!

でも、離婚はしないでほしいの!

あっくんのことは今でも心から愛している!」


 長々と色々話してくるけど……要するにこのまま夫婦関係を続けたまま不倫を公認してほしいってことだよな?

無論、そんなアホな提案など受け入れられるはずはない。


「ふっふざけんなっ!! なんで不倫を続ける嫁と結婚生活を続けなくちゃいけないんだ!

なんの罰ゲームだよ!!

慰謝料は当然もらうとして……離婚もする!!」


「「「!!!」」」


 俺の言葉に夜空達は信じられないと言わんばかりに驚愕しやがった。

俺……そんな変なこと言ったか?


「離婚なんて……やめてよ! 私のこと、愛しているんでしょ!?」


「不倫している嫁を愛せる訳がないだろう!? しかもよりによって俺の幼馴染とその弟まで……だいたい3人の妻になりたいってなんだよ!? 気持ち悪い!!」


「そんなひどい!……あっくんならわかってくれると思って正直に話したのに……」


「わかる訳ねぇだろう!! 俺を裏切って2人と不倫しておいて4人と付き合いたいとか、乙女ゲームの主人公みたいなこと言ってんじゃねぇよ!! クズ女!」


ボカッ!!


「ごふっ!」


 一瞬世界が揺らいだ……頬の痛みから殴られたことを察するのに数秒の時間が掛かった。

そして俺を殴ったのは……今まで俺と夜空の話を黙って聞いていた天樹だった。


「てっ天樹……」


「いい加減にしろよ! 黙って聞いていれば夜空の話も聞かずに気持ち悪いだのクズ女だの……それが惚れた女に向かって言う言葉かよ!!」


「やめて兄さん!!」


 怒りに震えがって俺を見下ろす天樹はどういう立場なのか、俺の胸倉を掴みやがった。

再び拳を震わせる天樹を流が抑え込んでいるけど……。

えっ? どういう状況?


「お前のことは大事なダチだと思っている!! だから黙って夜空と愛し合ったことは悪いと思っている。

でも、俺達はお前と夜空の結婚生活を壊したいなんて毛ほども思ってねぇ!!

金がほしい訳でもねぇし、お前から寝取りたいとも思ってねぇ!

俺も流も夜空から愛されたいだけだ……慰謝料だって払うつもりだ!

だから誠意を持って夜空はお前にこのことを話した!

きっとお前なら俺達のことをわかってくれるって信じていたからな!

そんな夜空の想いをなんでわかってやれねぇんだ!?

お前は夜空の旦那だろう!?」


 はたから見れば落ち込んでいる主人公を親友が激高する熱いシーンのように見えるかもしれないが……内容は至って意味不明だ。

なんで俺が殴られないといけないんだ?

こいつらの思考に追いつけずに混乱しているからか、頭に血が上って殴り返すような悲惨な場にはならなかった。

いや……悲惨な状況ではあるがな。


「暁さんお願いです! 僕達のことを認めてください! 僕達ずっと仲良くやってきたじゃないですか! 」


 流まで説得めいた口調で訳のわからないことを言い出す始末。

こいつらこんなにアホだったか?

もう話をするのも怖くなってきた……。


「くっ!!」


 俺は天樹の手を振り払い、3人から後ずさりする。


「後日弁護士と俺達の両親を交えて改めて話をしよう」


 この場に留まっていたら俺の方がおかしいって思っちまう!!

1対3ってのも不利だし、ひとまず話し合いの場を設けてから話の続きをしたほうがいい!!


「あっくん待って!!」


「暁! 話は終わってねぇぞ!!」


「待ってください暁さん!!」


 俺を追いかけてくる夜空達をどうにか振り切り……俺はその足でビジネスホテルに泊まった。

あれから天樹達からラインや着信の嵐があったが、俺はすぐブロックした。

これ以上あんなアホな話を聞いていたら、俺までアホになる。

もう不倫の事実が可愛くすら思えてくるわ……。


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 後日……俺は弁護士を引き連れて俺の実家へと赴いた。

そこには俺の両親はもちろん、夜空と天樹と流の3人……そして、それぞれの両親に集まってもらっている。

俺はその場で夜空の不倫のことを話し、夜空のスマホにあった不倫写真やラインを証拠として提示した。

夜空達はそれを事実として認め、俺が請求した慰謝料も支払うと言ってきた。

だが、離婚だけは頑なに夜空は拒否した。


「離婚なんて嫌!! どうしてそんなことを言うの!?」


「お前が不倫したからだ」


 この問答を何度繰り返しただろう……だが何度言っても、夜空達は納得しない。

もういっそ慰謝料はチャラにするから離婚に応じてくれと妥協もしたが、夜空は首を縦に振ってくれない。


「あり得ないが仮に再構築したとして……2人との関係を絶つつもりはないんだろう?」


「そんなことできないわ! 2人共私を愛してくれているんだから、それを無下になんてできない!!」


「だったら俺と離婚して2人と付き合えばいいだろう?」


「嫌よ! 私、あっくんとも天樹君とも流君とも別れたくない!! みんな愛してるんだもん!!」


 どうしてこんな頭の悪い駄々を天樹達は受け入れられるんだ?

夜空の不倫よりもこんな頭のおかしい女を長年愛し続けて結婚し、そんな女のわがままを受け入れる連中を友達と思っていた自分の愚かさの方が頭にくる。


「暁! お前本当にこれでいいのかよ!? 夜空とは高校時代からの付き合いなんだろう!?

このまま離婚してお前……後悔しないのかよ!!」


「しねぇよ馬鹿」


 天樹の奴……一体どの立場で物を言っているんだ?

昔から馬鹿だけど根は良い奴って思っていたけど、こうしてみるとただの馬鹿だな。


「暁さん! 夜空さんをこんなに泣かせて……心が痛まないんですか!? 夜空さんのことをもう愛していないんですか!?」


「愛してねぇよ……」


 あと痛いのは心じゃなくて頭だ。


※※※


 それからも夜空達はごちゃごちゃ言ってきたが、最終的にそれぞれの両親が黙らせた。

我が子のあまりの異常ぶりに圧倒されて言葉を失ってしまっていたらしい。

我に返って、俺の側に賛同してくれたのは正直助かった。

夜空達がアレだから、てっきり親もヤバいんじゃと覚悟していたけど……俺の思い過ごしで本当によかった。

結局話は裁判に持ち込むことになり……どうにか夜空と離婚することができた。


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 それで話は終わりじゃないのが悲しい所だ。

離婚後も夜空はしつこく俺に付きまとい……。


「お願いあっくん! 私ともう1度やり直して!!」


 この日も会社の帰りに待ち構えていた夜空に掴まってしまった。


「しつこいな!! 俺達はもう赤の他人なんだからもう構わないでくれよ!!」


「なんでそんな悲しいこと言うの!? 私達夫婦でしょう!?」


「だから離婚しただろ!? 何回同じことを繰り返せば気が済むんだ!? あとあっくんはやめろ!!」


「お願いあっくん! 私の元に帰ってきて! 天樹君も流君もあっくんを待ってるんだよ!? 4人で仲良く暮らそう?」


「二度と顔を見せるな! 次に目の前に現れたら警察を呼ぶからな!!」


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 釘を刺したにも関わらず、結局のこのこ現れた夜空に警察から軽くつついてもらった。

しかも幸運なことに、他県に異動することになり……俺は夜空達の知らない地へと引っ越すことができた。

両親や信用できる友人達には夜空達には言わないように言っておいたから、たぶんこれで大丈夫だろう。


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 夜空と離婚してから3年後……。


「ふぅぅぅ……今日も疲れたな」


 俺は仕事関係で知り合った女性……ヒカリと交際を経て結婚した。

ヒカリは寿退社して専業主婦として家庭を支えている。

まだ新婚で互いにいたたまれない所もあるが、なんとか幸せに暮らしている。

夜空達のことも徐々に忘れていき……心の平穏も取り戻しつつある。

そして今日もいつも通り、仕事を終えて愛する妻が待つ家へと帰宅していた。


「あっくん!!」


「!!!」


 帰路につく中……背後から聞こえてきた覚えのある声……。

頭ではあり得ないと思いつつ、背筋に冷たいものを感じる。


「……」


 おびえながらゆっくりと振り返ると……そこには別れた元妻、夜空が立っていた。


「なっなんでお前が……」


「あっくん……その指輪は何?」


 俺の指に光る結婚指輪を睨む夜空の目は、あまりにも恐ろしかった。


「あっくん……結婚したの?」


「だっだったらなんだよ?」


「あっくんは……私以外の女と結婚したんだ……」


「だからなんだよ?」


「私というものがありながらほかの女と一緒になるなんて……この裏切者!!」


「はぁ!?」


「あっくんのこと信じてたのに……きっと帰ってくるって信じていたのに……」


「知るかよ!」


「離婚してよ! あっくんは私のことを愛してるんでしょ!?」


 こいつあれから3年も経っているのに……記憶がアップデートされていないのか?


「俺が今愛しているのは今の妻だけだ。 お前のことはもうなんとも思っていない!

どうやってここまで来たのかは知らないけど、さっさと帰ってくれ!!」


「……」


 なんだか涙ぐんでいるけれど……泣きたいのは俺の方だ。

やっと平穏な生活を手に入れたと思ったら……こんな所まで追ってきやがって!!


「……さない」


「え?……」


「……絶対に許さない」


 憎しみに満ちた夜空の目とあった瞬間……俺は人生で最も恐怖ってやつに震えた。

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