第4話 出会いの息吹

 真っ白な部屋には真っ黒な魔石の原石と、監視役のマテオと、ルーク以外の色は存在しない。異変は太陽が真上に上がった時であった。


「あれ……」


 いつも声を出さないルークが声を漏らす。遠くで鳴く小鳥の声を聞いていたはずなのに、だんだんと小さくなっていく。真っ黒の魔石がぼやけてく。ハンマーを持つ右手に感覚がない。ぐらりと揺らいだ身体と、死んだという諦めの感情を最期にルークの意識は飛んだ。


「六百九!」


 いきなり倒れたルークに対して、マテオは振り分けられている番号を口にし、近づいて身体を揺さぶった。顔色が悪く、身体が冷たいが、息はある。恐らく過労による気絶だと考えられる。


 ルークが生きていることに安堵のため息を吐きながらも、次の問題を思い出し揺さぶっていた手を止めた。


 ルークが倒れたことを上司に報告するか否かだ。奴隷が倒れた場合、監視役は上司に報告をしなくてはならない。マテオは今からやらねばならないことを、理解はしていた。していたからこそ、足が動かなかった。


 報告された奴隷は破棄となり、魔石発掘行きになるからだ。魔石発掘奴隷となったら、最期狭く、暗く、誰にも見守られず独りで死んでいく。研修中に見たことがあったが、人間にしていいことではなかった。


 マテオの中でぶつかる義務と正義。ルークを生かすか殺すか。全ては自分が握っていた。マテオの喉が鳴る。そして、氷の瞳は静かに燃えていた。

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