003 クールな少女が見る映画とは
七月十日水曜日。
大学の講義を終え、蒼司は都内にあるショッピングモールのベンチに腰掛けていた。
時刻は午後六時半。平日でありながらも多くの人たちがショッピングモールを闊歩している。
夕食時であるためか、フードコートには食欲をそそる香ばしい匂いが立ち込めていた。
蒼司はスマホに表示された時刻を確認し、約束した少女が来るのを待つ。
ほんの少し仮眠を取ろうとして目を瞑った直後、後ろから声をかけられた。
「お待たせ。待った?」
「十分くらいかな」
「今がちょうど約束した六時半なんだけど」
「十分前行動は基本だ」
「固いね。でも女の子には色々あるんだよ、
「この季節は変質者も多い。
ベンチから立ち上がり、蒼司は少女がいる方に振り返る。
泉奈の格好は、頭にキャップを被り、上に彼女よりワンサイズ大きいTシャツをダボっと着て、下は黒いホットパンツを履き、生足を惜しげもなく晒しているというものだった。
先日の日和のワンピースとはまた違った女の子らしい格好だ。
蒼司の視線に気付いてか、泉奈はTシャツの裾を軽く引っ張る。
「日和は女の子らしい白いワンピースが似合うけど、わたしにはあまり似合わないから」
「その服も十分女の子らしいと思うが」
「ん。そういうのは燈とか楓に言うといい」
泉奈はぷいと顔をそむける。
「蒼、そろそろ時間だよ。行こうか」
「ああ、そうだな」
蒼司と泉奈は映画館へと足を運ぶ。
映画館には子連れの家族や学生服を着た友人達、そしてカップル。皆が各々目当ての映画のチケットを購入すべく券売機へと並んでいた。
「今からこの列に並ぶとなると上映時間に間に合うか?」
「大丈夫。もう二人分の席をネットで予約してるから」
券売機に並ぶ長い列を見て呟く蒼司に対し、泉奈はスマホを見せながら答える。
「流石だな、準備がいい。じゃあチケット代を払わさせてくれ」
「いいよ。今日はわたしが奢る。バイトかけもちしてる蒼からお金は出させないよ」
「でもそれじゃあ、流石に悪い。今度何かお返しさせてくれ」
「ん。楽しみにしとく」
劇場内に入り、最後部のスクリーン中央よりやや右側の席に蒼司、その左隣に泉奈が座る。
最後部からは劇場内がよく見える。客層としては子ども連れの大人、そして男性客が多い。女性は泉奈を含めても数名ほどだ。
「正直、一人でここにくるのは敷居が高かった。蒼がいて良かった」
「別に一人で映画館に来るのは変じゃないだろ」
泉奈はスマホの電源を切りながら、入口から入ってくる親子の姿を見る。
「十八にもなって、しかもあまり女子が見る映画でもないから」
「好きなものに年齢も性別も関係ないだろ。気にするな」
「……そうだね。ありがとう」
上映時間となり、劇場内が暗くなる。
その日二人が見た映画はアクション映画やミステリー映画、恋愛映画などではなく、日曜朝に子どもたちの笑顔のために戦う仮面を被ったヒーローの夏映画であった。
【以下作者コメント】
お久しぶりです。生きてます。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます!
コメントとハートマーク感謝です、いつも励みになっています。
サブタイトルの番号が003となっていますが、これは三話目に投稿するだった内容が前後してしまった結果です。後ほど、話の順番を入れ替えたいと思います。
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