005 一ヶ月前、とある牛丼屋にて

 一ヶ月前、六月十三日木曜日。

「なあ、運命って信じるか?」

 黒無蒼侍くろなしそうじは何の前触れもなく、自然にそう口にした。


 ここは全国チェーン展開されているとある牛丼屋。時刻は午後九時で蒼侍は友人とともに遅めの夕食を囲っていた。


 人気ひとけが少なく閑散とした店内では二人の会話がよく響く。

 蒼侍の言葉に店員が一瞬こちらを見た。


「蒼侍、お前急にどうした?」

 蒼侍の対面に座り、いままさに紅ショウガを牛丼の上に乗せようとしている橘一真たちばなかずまは、友人の唐突な言葉に手を止めた。


「いや今日、大学の図書館で本を読んでいる子がいてさ」

「ふーん、その子に一目ぼれしてしまったわけか」

「いや恋愛感情はまったくない」


 表情の変化が乏しい蒼侍の冷たい言い様に一真は目頭を押さえた。

「そこは好きになったとか言えよ」


「一度視界におさめただけで恋愛に発展するのは非現実的だ。確かに人間の第一印象は視覚か――」

「あーわかったわかった。んでその図書館にいた子がどうしたんだ?」


 長い前髪がかかる眼鏡の位置を直しながら力説しようとする蒼侍を、一真が軽く手を挙げて制止させる。


「思い出したんだ」

「なんだ前世の記憶か? 実はお前は魔王の生まれ変わりで今は勇者に転生して生きてます的なあれか」


「すまない一真、言葉の意味が分からない」

「冗談だ。相変わらずノリ悪いな、蒼侍は」


 蒼侍は真剣な眼差しで今日の出来事を語り出した。




<後書き>

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